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SS~マイライフアズアウルフ

「……こういうことされたら、嫌でしょう?」
 
※普望です。普望です。普望です。
※望ちゃん女の子注意
 
 
続き
 
 
 

 
 
「……こういうことされたら、嫌でしょう?」
 望ちゃんがきょとんと見上げてくる。僕の部屋、僕のベッドの中、僕に組み敷かれて。
 眠れない望ちゃんが、夜更けに僕の寝台へもぐりこむ。よくあることだった。
 望ちゃんは小さな頃から、意地っ張りの嘘つきで、泣き虫。怖い夢やうまくいかない修行や、格下の道士からのいわれのない中傷。そんなものに立ち向かう強さを取り戻すまでひと時、羽を休める、それが僕の毛布の中だった。
 むずがる望ちゃんを抱っこして背中を撫でて、安らかな寝顔を隣に眠りに落ちる。あたたかくて、少し後ろめたい、幸せな夜を僕らはくりかえし過ごしてきた。
 だけど、それも子供の頃の話。
 周りも一目置くほど力を付け、背も伸びて出るところも出た今となっては、安眠妨害も甚だしい。
 想像していただきたい。若く健康な男子に温かくて石鹸の香りのするふとももむっちりの美少女が、ぴったりと身を寄せ、あろうことか足を絡めてくるなど。
 といいますか、何故思春期の男女が同じ部屋のままなのでしょう元始天尊さま。あちらは日々立派に(胸とか)成長なさってます。
 口を酸っぱくしてやめろと言い続けたのに、ほとぼりが冷めるとまた僕は不眠地獄に叩き落される。注意すればしょんぼりとうなだれ、謝って見せるもののどこまで通じているのやら。
 今まで甘やかしてきたツケだ。わかっている。彼女は僕にはわがままを言っていいと思ってる節がある。僕だってそれは、正直なところ、嫌じゃない。
 だから、そうやって築き上げてきた関係を、一時の欲で壊してしまいたくない。もう絶望に淀んだ君の瞳は、見たくないから。
 とにかくこのままでは、望ちゃんを傷つけてしまう。それだけは避けたい。そう決意した僕は死に物狂いで修行をこなし仙人免許を取り、洞府を開いた。部屋を出て別の場所で暮らし、望ちゃんと距離をとれば節度を持った振る舞いができると信じて。
 だけど十二仙を拝命したのはやりすぎた気がする。受領すれば空いてる山を一つもらえると聞いてホイホイ乗った僕に、望ちゃんは満面の笑みを浮かべ。
『二人の新居だな!』
 光の速さで弟子を取ったのは言うまでもない。
 初弟子に選ばれた木タクは素直ないい子だった。僕はくじ運も良かったらしい。
 望ちゃんも木タクを気に入ったようで、よく遊び相手になってくれるし、僕が出張のときは面倒を見てくれる。最近は元始天尊さまの仕事を手伝ったりしているとも聞いた。傍からは、僕は僕の、望ちゃんは望ちゃんの道を、順調に進んでいるように見えただろう。
 だけど、やっぱり彼女は僕のベッドにもぐりこむのを止めなかった。
「……何度も言ったよね? 男はみんな狼だって、僕も男だって」
 僕を見上げる望ちゃんは、驚きに目を見開いている。大粒の瞳に陰気な顔の僕が映っている。自分の下に敷きこんだ、弾力のある柔らかな肢体の感触に、甘い目まいを起こしてくらり。
「望ちゃん、キミはもっと自分の容姿を自覚すべきだ。夜中に男の部屋に来るってことが、どういう意味か、知らないとは言わせない」
 望ちゃんが蚊の鳴くような声で僕の名を呼ぶ。胸の痛みを無視して僕は再度口を開く。
「帰って。もう二度と来ないって約束して。キミはもう子どもじゃない、添い寝の相手は自分で選ぶんだ」
 小さく息を呑んだのどが動く、やわらかな感触が胸元で踊る。
「おぬしは、もう……わしが、嫌いなのか?」
「嫌いじゃない」
「なら何故」
「キミと、友達以上にも、以下にもなりたくないんだ」
「普賢……」
 ちょっぴり涙目の、上目遣い。理性が崩壊しそうになる三秒前、どうにか有刺鉄線でぐるぐる巻きにする。
「……キミが大事なんだ、大好きなんだ。傷つけたくないんだ。大切なんだ。わかってよ!」
 普賢と、もう一度望ちゃんが僕の名前を呼んだ。
「その好意は、異性としてか、友人としてか」
「両方だよ」
「両方か」
「……うん」
 だから、これ以上期待がふくらんでバランスを失う前に、僕はキミから離れなくちゃ。断腸の思いで彼女の上から降りる。
「望ちゃん?」
 解放したその体が、小刻みに震えていた。口を真一文字に結び、あごを引いて前髪が目元を隠す。
「望ちゃん、どうしたの。大丈夫?」
「フッ」
「……望、ちゃん?」
 おそるおそる顔をのぞきこむと、望ちゃんの震えがぴたりと止まった。
「ククク、ハハハ、ハーッハッハッハ!」
「望ちゃん!?」
「っしゃー! ついに言わせたぞ! 言質取った、言質取ったからな!」
 望ちゃんは笑いをおさえきれないまま、あっけにとられる僕の胸倉をつかんだ。背中を嫌な汗が流れ落ちる。
「ついにわしの処女を食わせてやるときが来たか!」
「えっ」
「長かったぞー、ジジイに新居持たせろとごねて、木タクを懐柔して、外堀はとうに埋めたてたっつーのに肝心のおぬしがボケボケしとるからホントにもー」
「……え」
「男がみんな狼なら女はみんな狐狸の類よ、添い寝の相手をおぬしと決めたからここに来るのだ。今も昔もこれからもな。末永く頼んだぞ、文句は却下だ!」
「わっ、ひえ、うひゃああああ」
「覚悟決めて男見せろ普賢!」
「いやああ助けておまわりさんこのひとですううう!」

 嵐のような一夜が過ぎ去り、恋人としてのいろいろなステップをエスカレーター三段飛びくらいで登った僕は、途方もない疲労感にうちのめされていた。
 もうずっとずっと何年何十年レベルの昔から、望ちゃんは僕が大好きだったのに、あんまり僕がのほほんとしてるもんだから頭に来て、絶対に僕から告白させてみせると心に決めた、のだそうだ。
 爽やかな朝の日差しにもめげず、満腹顔で眠りこける望ちゃんを見てると、苦笑しかもれてこなくて。
「こちらこそ、よろしく」
 水蜜桃みたいな頬にキスして、僕も二度寝としゃれこんだ。

 

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■ノヒト ... 2012/11/01(木)04:12 [編集・削除]

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