「……望ちゃん、おはよ。どいて」
※計画前 ☆十二禁くらいなような
目覚めると夕方だった。
くすんだ空で地平線の照り返しを受けた雲が茜に染まっていくのを、望は裸のままベッドの中から見ていた。すぐ隣で普賢がもそりと動いた。眠りが浅くなっていくのがわかる。
上下する胸と鎖骨のラインがきれいだった。おとなしくした欲動がまた少しざわめく。
「……望ちゃん、おはよ。どいて」
「いやだ」
抱きしめた腕の中、少しひんやりした肌が心地いい。
「そろそろ木タクが帰ってくるから」
「いやだ」
「シャワー浴びたい」
「いやだ」
普賢の首筋に頬を擦り付けた。離す気なんてなかった。胸の内で、つまらない嫉妬と独占欲が手を取り合い踊っている。言わざるべきと知ってはいるが、言いたいな、言っちゃえ。
「普賢はわしと弟子、どっちが大切なのだ」
「望ちゃんの幸せ」
「大きく出たな」
そのわりにと続けたところで遮られた。
「ほんとだよ。望ちゃんの幸せが僕の幸せ。でも望ちゃん、幸せじゃないだろう?」
目を丸くした隙に普賢は抜け出した。椅子の背にひっかけた服を羽織る。
「知ってる。僕がどれだけがんばってもキミを幸せにできない。
僕はキミにお菓子をあげる。ビンタもあげる。筋の通った正論も、むかつくだけの嫌味も言ってあげよう。背中を流し、服をあつらえて、とっときのパーティーにも連れて行ってあげるよ。
でも結局キミは満たされないんだ、お菓子を食べながら、これじゃないなあって思ってるんだ」
そんなキミを好きと、鼻歌でも歌うように普賢は語尾を延ばした。背中を向けているから顔は見えないけれど、きっと笑っている。
「だから僕は、いつだってキミ以外のことに一生懸命。だってキミを幸せにできるのは僕じゃないからね」
帯まで締めて、普賢は行ってしまった。軽やかな足音に反論も封じられた。
そんなことはない、愛している、わしにはおぬしだけだと、ぬけぬけと言えたら良かったのだろうけれど、残念ながらそこまで悪い男じゃなかったのだ。望にできたのはベッドに転がりなおしてふて寝することだけだった。
空は濁って部屋は薄暗がり。少しおなかもすいてきた。望は手を伸ばしてサイドテーブルの水菓子をかじった。どうせ日が変わる頃には普賢はこの部屋に戻ってくる。そしたらたっぷり泣かせてやろう。
泣きたいのは自分だったから、望は頭から布団をかぶった。