※あとしまつ後くらい
※リリカルポエム
小瓶に普賢を詰めて海を見に行った。
こんなとき魂魄体は便利だというと普賢はそうだねとのんびり笑った。
小瓶を抱いたまま波止場を散策する。小さな漁船が二隻波に揺れている。フジツボでぎちぎちに覆われた桟橋の影では小魚が空き缶をつついている。カモメが鳴いている。何を叫んでいるのか。海原を渡り来る風は生ぬるく、ゴミの臭いがした。ここからずっと南へ下れば、透けるほどに青い海があるという。
「僕を投げないの?」
手の中から普賢の声がした。
「手紙の代わりに神を一柱か」
「違った?」
くつくつ笑う。こんな形になってまだ笑みを忘れない普賢がうとましく、愛おしい。放り投げると、小瓶はきれいな放物線を描き、しぶきすらあげずに波の隙間に落ちた。中で普賢は丸くなる。ガラスの壁に身を預け、胎児のように。小指の先ほどの面差しは今でもおだやかだ。
「きっと僕を拾う人はいないだろうけれど、もし誰かが蓋を開けてくれたら、僕はその人の一番の願いを叶えて見せるのに」
視線の先に自分がいた。普賢はまたくつくつ笑って目を閉じた。眠ったのだろうか。小瓶はすぐに波に運ばれ見えなくなった。きっと南の海まで流れていくに違いない。透明な青に揺られて、いつまでも眠りこけているといい。
どうか浜辺までたどりつかないように。自分はきっと、蓋を開けてしまうだろうから。
■ノヒト ... 2013/03/13(水)02:44 [編集・削除]
ねむい