記事一覧

SS~夜歩く

人は、夜歩く、定まらない足取りで。

仙界大戦直後

続き

人は、夜歩く、定まらない足取りで。
獣道を横切るのは、ひとりの青年。昼は軍師と呼ばれるその人。

あいにく星一つない夜空に灼熱の満月。
月よ、そう無遠慮に照らすのはよしてやらないか。
月光があんまりべかべかして、年の割に細い彼のうなじを透き通らせているじゃないか。
地に引きずるほど長い上着をニッケルのように光らせているじゃないか。
誰か見つけてくれとでも言うように。

実際のところ彼はそんなことを望んではいないのだ。
むしろ恐れてすらいるのだ。
だから夜歩く、人のように。もう人の身ではないけれども。

夜歩く、人に、声をかけてはならない。
好きなだけ迷わせてやるがいい。
嗚咽すら忘れてしまった人は夜歩く。
後悔が彼の背を機械のように圧しているのだ。
だからはらはらとこぼれる涙を、見てはならない。
夜歩く人の。