大きな出来事を成した次には脱力感が来るものだ。
仙界大戦後
大きな出来事を成した次には脱力感が来るものだ。
大戦のあと、わしは周を仲間に任せて旅立ちを決めた。
仙界は潰え、わしたち仙道はむろん妖怪たちも深手を負ったのだ。
組織に、日常に、体に、あるいは心に。
これでは足りない。妲己を倒すには力が足りない。力を、もっと大きな力を。
探して見つけて、そして頼りたかったのかもしれない。
気がつくとわしはなんのために封神計画を進めているのかわからなくなっていた。
わしの心に根付いた人肉くすぶる焼け野原のためだったはずだ。
だが大戦を終えてふと思う。
わしは封神計画を進めるために封神計画を進めているのではないかと。
己は動力ではなく、ただの歯車にすぎないのではないか。
もしそうならば、散っていった仲間たちは……。
暗雲が胸でくすぶり、わしは幾度も夜中に飛び起きた。
千里を詠み、万里を識るという太上老君ならば、わしに答えを示してくれまいかと、わしはスープーを駆り旅路を駆け抜けた。だがしかしたどりついたのは仮面で個を消した奇妙な村だった。
わしはそこでさんざ待たされた。裁判官を名乗る奇妙な娘から面会の許しが出るまで、村人の手伝いを強制され、幾日も過ごした。
村人の手伝いは、やってみれば、意外に楽しいものだった。
穀物はすくすくと育ち、果樹は鈴なりに実をつけ、家畜は肥え太っていて、かつて草原の民であった頃が思い出されてならなかった。
もしもの世界があったならば、仙道にもならず、この村のような豊かな大地へ根を下ろすこともあっただろうか。それは甘い蜜のような幻想だった。
わしは手を止め、ぽわりぽわり幻想が浮かぶたびにそれを引きちぎった。
忘れたくなかったのだ。血と泥濘に汚され炎に沈んだ故郷を。
世界の仕組みを変えなければ、同じことは何度でも繰り返されると言ったあの老人の言葉を。
朝起きて、牛馬のように働いて、泥のように眠る。
そんな生活へ親しみながら、いつしかわしの心は決まっていた。太上老君との出会いは、結局、わしに答えをくれなかった。
だがわしにはなんの不満もない。
老師は無為。戦わない。ゆえに勝つこともない。
流れに身を委ねよと老師は言った。ならばわしも無為になろう。
とうに腹はくくってある。
いいや、くくっていたことを思い出したというべきか。老師のくれた太極図。
この新たな宝貝の可能性をどこまで引き出せるか。
それが今の自分の最優先事項だ。妲己との対決はすぐそこに迫っているのだから。
悩みも苦しみも、たいしたことではないのだ。自分が歯車だから、なんだというのだ。
わしの理想たる、安全な人間界。そこには仙道はいない。わし自身もいない。
血みどろの記憶と封神計画は、理想で固く結ばれている。