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SS~桃花盛装

 桃の花が咲くとき。

※ポエム。

続き

桃の花が咲くとき。おぬしに会いに行こう。
それは遠い約束。春が来るたびに、普賢の心はかすかに色づく。
桃の花が咲くとき。桃の花が咲くとき。望ちゃんに会える。
けれど、一度たりとも、約束は果たされない。
今年も桃は花開き、実を結ぶために散っていく。
「師叔、やっぱり来やせんでしたね」
弟子の言葉に普賢はおだやかな微笑を浮かべる。
どうせつまらないことで約束を先延ばしにしているのだ。
あまりに時間が経ちすぎたとか。そんな自分が格好悪いだとか。
望ちゃんは頑固だからね。と、普賢はひとりごちる。
本当は探そうと思えば探せるのだ。本当は会おうと思えばいつでも会えるのだ。
それをしないのはただひたすらに、彼の方から出向いてほしいがため。
普賢は知らない。木タクも知らない。太公望に戻った彼が、時空を飛び越え桃の花咲く未来を取り戻したことを。
その未来の中には自分たちも居ることを。
だけどそんなことはどうでもいいのだ。
桃の花が咲くとき。おぬしに会いに行こう。
果たされない古い約束。それでも普賢の心は期待に弾む。永い時に溶けてしまいそうな心が輪郭を取り戻す。
いつか会える。きっと会える。それだけでいい。彼がくれた言葉を胸に抱いて頭上を振り仰ぐ。
桃の花が咲くとき。桃の花が咲くとき。