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SS~好きなんだもの

「おら、来てやったぞ暇人ども!」
 ※ちゅーしてます。ので12禁くらい。
 ※封神計画中

続き
 
 

「おら、来てやったぞ暇人ども!」
 太公望は会議室の扉を蹴り開けた。とたんにただよう酒精の香り。
「おっ、来た来た、本日の主役」
 太乙を始めとして十二仙たちが寄ってくる。みんな顔が真っ赤だ。
「またおぬしら会議とは名ばかりの集まりで、昼間っからグダグダ飲んでおったのだろう?」
「たまには息抜きも必要だからな、筋トレにも力が入るというものだ!」
 体育会系筆頭の道徳からして、いい感じにふらついているのだからどれだけ飲んだのだ。本人に言わせると体幹トレーニングだと返されそうだけれど。
「ほらおぬしらはこれでも飲んでおれ」
 せなに担いだ一升瓶を、太公望はずいと突き出した。
「やったー! 周の新酒だー!」
 我も我もと十二仙たちが盃を差し出してくる。太公望は律儀についでやりながら、にやりと笑った。その顔には自慢の色が伺える。
「ふふふ、周もなかなかの酒を造れるようになったであろう?」
「そうじゃのう。国力がついてきた証拠じゃ。封神計画は順調なのじゃな」
 霊宝が盃に口をつけ、余韻を味わうように目を閉じる。
「じゃあお酒のお礼にボクたちからは普賢をプレゼントでちゅ」
 道行が引っ張ってきたのは、見慣れた幼馴染。うーとかにゃーとか意味不明のうめきをあげ、服は半分脱げかけている。
「おぬしら! また普賢をべろべろに酔っ払わせて!」
「だってこの子、酔うと面白いんだもん」
 正直に言った太乙が太公望からチョップを食らう。まったくもうとぶつくさ言いながら太公望は普賢をおんぶした。普賢は半分以上寝こけている。皮肉の一つも言いたくなって、太公望は口をとがらせた。
「たいした問題もあるまいに会議会議と踊ってばかり、お気楽だのう」
「そんなことないよ」
 反論は耳元で聞こえた。太公望がぎょっとして顔を向けると、ふくれっつらの普賢が見えた。普賢は勢いよく片手を上げ、声を張り上げた。
「先輩方、ここに議題がありまーす!」
 なんだなんだ? なにか問題でも? そう問われた普賢は、大真面目に叫んだ。
「大問題でーす! 最近望ちゃんがちゅっちゅしてくれないんです!」
 ブフォ! 太公望が肺の中の空気をすごい勢いで吐き出した。
「おお、それは大問題だ」
「小官でよければ力になるぞ」
 赤精子と広成子が顎に手をやった。明らかに面白がっている。
「……やはり物理的に距離が離れているからでは?」
「遠距離恋愛は別れる確率が高いらしいな」
 文殊がいらんことを言い、黄竜がさらに言わんでいいことを積み重ねた。
「お、お、お、おぬしら~~~!」
 太公望と普賢が付き合っているのは公然の秘密であり、こうまで面と向かっていじくり倒されるのは初めてだ。周の軍師ともあろうものがその優秀な脳みそをショートさせている。こういう時こそ働くものだろう、この二枚舌は。などと思いながらも太公望は言葉が続かない。
「望ちゃんがねー、ちゅっちゅしてくれないんですぅー。封神計画で忙しいのはわかってるけど、でもでもだから望ちゃんにちゅっちゅしてほしいんですぅー」
 頼む黙ってくれ普賢! 太公望は心のなかで叫んだ。酒は一滴も飲んでいないのに、耳まで真っ赤になっているのがわかる。
「ところで、普賢、ちゅっちゅというのはなんだ? 小鳥か?」
 こんな時もペースを崩さない玉鼎が斜め上方向から追撃してきた。言わせるのかそれを。なんという公開処刑。元始天尊様はいかがなされておるのか、この弟子どもを育てたのはあなたでしょう、ああすみっこでわしゃ知らんとばかりに背中向けて酒かっくらってるー!
 まあ手塩にかけて育てた末の弟子ふたりがくっついたら普通そうなるわな。
「僕はさみしいよう望ちゃあん、望ちゃんは忙しいからね、わかってるけど、わかってるけど、やっぱりさみしいよ」
「わ、わしだって、その、おぬしを思って月を見上げたり、しておるわ……」
「ヒュー! 月見上げちゃうの!? 夜空に普賢の顔を重ねちゃったりしてるの!?」
「意外とロマンチストでちゅねー! さすが崑崙の絶景スポットで夕暮れに告白しただけありまちゅねー!!」
 なんでそんなことまで知っとんのだちくしょうども! 普賢か! 普賢から聞き出したのか! とりあえず太乙と道行を打神鞭でぶん殴っておいて、太公望は普賢を背負いなおした。このかわいくいとしい諸悪の根源め。酒が抜けたらケロリと忘れているのだから始末におえない。だがしかし、いつも本音を見せない普賢の素直な言い分を聞けるめったにないチャンスでもあった。
「望ちゃーん、ちゅっちゅー」
「あー、だから、人前では好かぬのだ……」
「あとでじっくりねっちりやっちゃうのー!? そのままベッドになだれこむのー!?」
「やかましいぞ太乙!」
「で、ちゅっちゅは小鳥のことでいいのか?」
 どこまでもペースを崩さぬ玉鼎だった。普賢がとろんとした声でちがうよぉと答える。
「ちゅっちゅはねー、接吻!」
「なに、最近の若者は進んでいるな……!」
 いやわしらもう70超えとるがな。突っ込む気も失せて太公望は肩を落とす。そんな彼の前で玉鼎はうむうむと独りうなずいている。
「そうか、接吻か、たしかにないとさみしいものだな。であれば、普賢から太公望へ接吻してみるというのはどうだろう」
「おお、玉鼎あたまいい」
 言うなり普賢は太公望の頭をわしづかみにした。むりやり顔を背後に向けさせられる。
「いででででっでででっいだいいだい、むり骨折れる!」
「ちゅっちゅするのー」
「いだいいだい! むりっだっつーの!」
 ふいに普賢の手から力が抜けた。
「望ちゃん僕のこと嫌いになっちゃったの?」
「そうではない!」
「じゃあどうして?」
「ええいもう!」
 太公望は普賢を背から下ろすと、正面に立たせた。無言で唇を押し付ける。後は野となれ山となれだ。そのまま舌を入れて、かるく舌先を触れ合わせる。顔を離すと普賢は満たされたようにふんわりと笑った。
「えへへ、望ちゃんだいすきー……」
 そのままゆっくり後ろへ倒れ、あわてて抱きとめると、もうすっかり眠りの淵に落ちていた。
「やー、今日もオオトラ普賢君を堪能しまちたねー」
「頼むからもう普賢に飲ませるのやめろ」
 ケラケラ笑う道行に不機嫌2割増しのガンツケをして、太公望は普賢をもう一度背負った。そのまま部屋を出る。扉を閉めると、先程までの喧騒が嘘のようだ。夜空の月を見上げて、ため息をひとつ。たしかに最近(ここ数年)、封神計画のことで頭がいっぱいだった。忙しさにかまけて普賢を蔑ろにしていたかもしれない。普賢は我慢強い性格だし、いつも傍らで見守ってくれていたから、それに甘えていたのかもしれない。ようやく目処がついて、ふと振り返ったら隣に普賢が居ないなんて、そんなのはいやだ。壮大な理想と、目の前の小さな幸せ、どちらも諦めたくはない。そうだ、自分は、欲深いのであるからして。
 背中の普賢がもぞりと動いた。
「……あれ、望ちゃん帰ってきてたの?」
 酔いが冷めてきたらしい。いまさらな反応に苦笑いが漏れた。
「今夜は寝かさんぞ普賢、体中にちゅっちゅしてやる」
 あてつけにそう告げると、普賢はいいよとつぶやいて太公望の背に顔をうずめた。