記事一覧

SS~ここは冷える

「兄さんにこそ幸せになってほしい!」

R18G #地獄落ちで作品を作るゆうむいタグより

続き

 天国への階段の前で双子が立ち尽くしている。
「登るのはおまえだ、無一郎」
「いやだ、兄さんが行くべきだ」
「俺の言う事を聞け!」
「兄さんの方がふさわしい!」
 舌戦は激しさを増していった。先に手を出したのはどちらだっただろうか。気が付けば殴りあっていた。兄のふるう鉈が弟の腕を切り落とした。生々しい傷口から新しい腕が再生した。刀の軌跡が兄の首を跳ね飛ばした。空中で自分の頭を受け止め、兄は自分の首をくっつける。ごりりと音が立った。
「聞き分けの悪いやつだな! おまえはいつもそうだ!」
「兄さんこそ! 僕の言う事を聞いてくれたことなんてないじゃないか!」
 四肢を叩き斬り、はらわたを撒き散らし、鬼のごとき不可思議な不死が終わらない諍いを奏でる。血みどろで躍る舞台。
「兄さん、僕はね、充分幸せだったよ!」
「どこがだ無一郎! おまえの短すぎる人生には手向ける花もない!」
「そんなのは兄さんのほうじゃないか! 僕の目の前で! 目の前で!」
 泣きながら貫く刃。粘土の如く裂けては生まれる四肢。緋雨降る闇。響いては消え失せる声。刻んで、割って、叩いて、切って。なおも止まらない苛立ち、ぶつけあう。
「おまえのためだと何度言わせる!」
 兄の鉈が弟の胸をざっくりと割る。
「兄さんにこそ幸せになってほしい!」
 弟の刀が兄のふとももをこそぎとる。
 手も足もはらわたまでまぐわうがごとく惨劇。あふれだした血が足を取り、腰までつかり、胸まであがり、紅の中、武器を捨て喉を絞めあう。もはや言葉も発することができず、ただ涙だけを双子はこぼしている。血の池、二人、何処へも行けない。ここは地獄、ここが地獄。うすら寒い光が天上から降り注いでいる。