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SS~ノヒトのゆうむい01の10連ガチャ

書き散らしました。

続き

 両親に連れられて街へ行ったことがある。山にはないものばかりで何もかも輝いて見えた。あの景色の中に弟を住まわせたい。もっと稼がなきゃ。杣の仕事はきついばかりで、なけなしのたくわえはすぐに底をついた。あの景色は遠のくばかりだ。何が足りない。子どもだからか? じっと手を見る。

――[N] 遠足

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 白い女が弟を勧誘に来た。あんなのでまかせに決まってる。鬼退治なんて絵空事で飯が食えるか。あろうことか弟は乗り気だ。でも、でも、もしかしたら、弟だけでもこの山よりいい場所で暮らすことができるんだろうか、なんて、一瞬でも考えてしまった自分が憎い。

――[N] 期待

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 顔を合わせればケンカばかりで、口もきかなくなって数日。それでも仕事は独りではこなせない。悔しいが弟のいない俺は片足で立ってるも同じだ。火の番をしていたら蓄積した疲労が睡魔をもたらした。眠っていたのはどのくらいだろう。気が付くと弟が隣で寝息を立てていた。

――[N] 一緒にお昼寝

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「兄さん、今日はいっしょに寝よう」
 弟が意を決して話しかけてきた。いつまでも意地を張るわけにもいかないのでうなずきはした。したが、何故俺の布団へ入ってくる。ガキの頃じゃあるまいし……ガキか。まだ11だもんな。俺もおまえも。厳しい暮らしでも俺は耐えられる、兄だからだ。おまえは弟だから無理だ。そうだろ? 抱きしめた体は心地よく俺を眠りに誘った。

――[R] お泊まり会

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 街へ行ったときに、家族で写真を撮った。日に日におぼろげになっていく父と母の顔を思い出させてくれるのは、もうこれだけだ。大事に懐へ入れていたのに、崖から滑り落ちそうになった弟を助けるとき強風にさらわれて飛んで行った。神や仏とやらは、俺たちからすべて奪う気らしい。

――[N] プリクラ

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 みそしるに使おうと思っていた大根の葉がなくなっていた。家の裏へ行くと弟が餌がわりに兎へそれをやっていた。俺に見つかると弟は驚きうなだれて「ごめんなさい」とつぶやいた。「鍋の具を餌付けしてるのか」と聞くと弟はかぶりをふった。こんな時に何やってんだといらだちを感じるし、こんな時だからこそ弟らしいとも思う。知ってるんだ。おまえが優しい奴だってことは。だけどそれだけじゃ生きていけない。兎は後足で砂をかけるように逃げていった。

――[R] 北風と太陽

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 今日からここが霞柱様のお屋敷です。そう年長の隠が言った。屋敷は広々としていて僕一人には大きすぎるくらいだ。産屋敷邸ほどではなかったけれど、調度物も整えてあった。ここまでの道は、たぶん明日になるとわすれちゃうだろうけど、鎹烏が教えてくれるだろう。縁側でぼんやりしていると街の喧騒が聞こえた。どうしてだろう、なつかしく感じる。遠い遠い昔に、似たような音を聞いたことがある。そうだ、えっと、誰かと手を繋いで……ずきん、頭痛と共に陽炎が霞へと消えた。何も思い出せない。いつになったら、僕は僕を取り戻せるんだろう。

――[R] 会いたい

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 月の冷たい晩にふと目が覚めた。寒い。隠に頼んでありったけの寝具を出してもらった。掛け布団敷布団綿入れ、舶来物の毛布まで。だけどいくら巣を作っても体は冷え切り、温まる予感もしない。もっとぎゅっと狭い場所で息苦しいくらいのところでなくちゃ。どうしてかそう考え、僕は隠のひとりを寝室へ誘い入れた。
「ぎゅってして、息ができないくらい」 

――[SR] 君の元へ

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 白々と夜は開け、僕は庭へ降りた。吐く息はまっしろで霧みたいだ。池の水鏡に自分を映すと、乱れた浴衣の下に赤い花びらの散った自分が写る。なんて醜いんだろう。なんて笑えるんだろう。きっと今夜も僕は寒さに耐えきれない。誰か、僕を叱ってよ、『誰か』。僕が乞うているのはただ一人なのに。それだけはわかっているのに。

――[SR] 自分が嫌いな君が好き

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 イチョウの葉をね、一枚ずつずらしながらまとめれば、薔薇の花のようになるね。同じものなのに見え方が変わってくるなんて不思議だね。禍福は糾える縄の如し。きっと僕の光も影も幸いも不幸もここへたどりつくために必要だったこと。
長かった。長かったね。ずっと待ってくれていたんだね、兄さん。会いたかった。うれしい。今ならはっきりと言い切れるよ。
「僕は 幸せになる為に生まれてきたんだ」

――[SSR] この世にはいない君へ花束を