無一郎に合鍵を渡したのは失敗だった。
寝てるむいにゆうがいたずらする話 キメ学時空
無一郎に合鍵を渡したのは失敗だった。
なぜそんなことをしたか問われれば、俺自身、長年密かに隠していた思いが実って舞い上がっていたんだろう。そもそもキメツ大学寮の規則では合鍵は作っちゃなんないことになっている。記憶力が売りのプロ棋士の俺がそれをすぱっときれいに忘れていたのも、やっぱりうかれてたからなんだろう。おかげで無一郎は俺の部屋へ入り浸るようになった。たとえば遅くに帰ったら俺の布団を占領してるとか。冬用の掛け布団が暑くなったのか、無一郎は布団を蹴飛ばして無防備な姿を晒してる。
おいそのパジャマ俺のだぞ。もとが双子なもんだから遠慮なんてものはないないの神様。かといって無一郎用の布団を買うと、完全に居座られそうで危険が危ない。ただでさえ気がつけばキッチンにはペアマグカップが鎮座し、箸と歯ブラシは二人分になり、先日とうとう買った覚えのないコーヒーメーカーが置かれていた。じわじわと俺の生活が無一郎に侵食されつつある。こいつ意外と嫉妬深いので、おちおち友達も呼べやしない。自分が一番じゃないと気がすまないのだ、少なくとも俺の前では。そしてそんな無一郎を、かわいいと感じている自分がいる。我ながら苦笑いするしかないのだけども、俺は無一郎にぞっこんなんだ。
だからこういう、据え膳、されますと。欲望はぐるぐる回って肥大化の一方。なんとか理性で押さえつけ、俺は無一郎を起こすことにした。どうせ夕飯たかりにきたら俺がいなくて暇なあまり寝だしたんだろう。無一郎の、男にしては肉の薄い華奢な体をゆさぶる。
「起きろ、無一郎、ほら、起きろ」
返事はない。ただのねぼすけのようだ。
「起きろ、こら、起きろってば」
半ば意地になってぐいぐいやってると、無一郎の唇から薄い声が漏れた。そのあまりの艶っぽさにぞくりとくる。
……どうする有一郎。
寝てる相手を同意もなくどうこうするのは倫理的にいかがなものか。けどけれど、俺達は恋人同士なわけだし、更に言うと普段寝てる俺へ断りなくあれこれしてくるのは無一郎のほうなので。……たまには、俺がいたずらする側でもいいよな。天使と悪魔のとっくみあいは悪魔のボディブローで終わった。
「無一郎、起きろよ。起きろって言ったからな」
言い訳がましく警告すると、俺は掛け布団を横へはね、無一郎のパジャマのボタンをはずしていった。ひとつ、ふたつ、みっつ……そのたびに霞のような白い肌があらわになっていく。背徳の味のスパイス。無一郎が寝てる俺へちょっかいを出す理由が少しわかった気がした。ボタンをすべてはずし、前をがらあきにすると、俺は思わず見とれてしまった。細い、けれど引き締まった体、きれいな色をした胸の飾り。首筋をたどっていけば、こんこんと眠る無一郎の寝顔がある。自分と同じ顔のはずなのに、ひどくきれいだ。悔しいが、やっぱり俺はおまえが好きでたまらない。
「無一郎……」
俺は指先で胸をたどった。淡く色づいた突端をかすめても、弟はぴくりとも反応しない。けれど体の方は快楽を感じているのか、何度か触れるうちにぷっくりと立ち上がってきた。しばらく躊躇していたが欲には逆らいきれず、俺は弟の乳首を口へ含んだ。柔らかいのにコリコリした感触が唇に。
(ごめん無一郎……)
目覚めたら怒られるだろうな。いつも俺がしてるみたいに。なのに俺はひどく興奮していた。無一郎、おまえもこんな気分だったのか? 舌先で乳首を舐めても弟はすややかな寝息を立てている。もうすこし、もうすこしだけ。俺は舌で潰すように転がし、もう片方の先端を指で刺激した。
「……ん……」
無一郎がかすかに寝息をこぼす。やばい、目覚める、怒られる。寝顔を確認すると、無一郎はまだ深い眠りの淵に居た。ほっとして無一郎の胸へ頭をあずける。ぬくもりが心地良い。さて、進むべきか引くべきか。引くべきなんだろう、本当なら。それがまっとうな人間ってやつだ。だけど俺の中心は限界まで主張していた。どうにも結論が出せず、そのまま手すさびで無一郎の胸の飾りを指先で弄った。二本指に挟んで転がすみたいに。そうしているとまた欲がうずき、俺は無一郎の乳首へ軽く歯を立てた。……起きない。この調子なら、もうすこし……いいかもしれない。乳首をいじっていた手を弟の腹の下へもぐりこませると、そこは立ち上がりつつあった。裏筋を中指でこすりあげながら、親指で先っぽを重点的に先走りを広げるように愛撫する。むくむくと俺の手の中太く固くなっていく無一郎のもの。俺は無一郎のズボンをずらし、しみのついた下着を脱がせて体をその上に乗せた。すでにガチガチに勃起している俺自身とこすりあわせる。
「んぐっ」
腰へ甘い電流が走り、俺は声を噛み殺した。
「ふっ、はあ、ふっ、んっ」
体を動かすと快楽は蜜へ代わり先端からとろけだしていく。それを潤滑油代わりに俺は動いた。気持ちいい。性器をすり合わせていると、無一郎と一つになれた気がしていつのまにか俺は夢中になっていた。まぶたを閉じ、薄い暗闇の中で悦楽のみを求める。
「はっ、あ…は…、むいち、ろ……!」
がまんできず薄目を開くと同時に頂点を迎えた。射精の快感が背筋を這い登り脳髄へ達する。俺は弟の腹へぶちまけていた。ごまかしようのない白濁がべっとりと。あの特有の匂いが立ち上る。しばらく呆然と快楽の余韻にひたっていた俺は、はたと我に返りティッシュ箱を引き寄せた。無一郎が寝てるうちに処分してしまわないと。今ならなんとかごまかしきれる。そう考えていたその時、無一郎が身じろいだ。
「……ん、う……」
白い手が俺の股間に当たり、俺のものへ触れた。余韻で敏感になっていたそこが、ぞくりと快感を拾い上げた。むらむらといけない想像が頭の中へ広がる。もし、もし意識のない無一郎のこの手で、もう一度イケたなら……。
低く息を伸ばし、俺は震えながら無一郎の手を握った。それを俺の中心にあて、やんわりと握らせる。
「んっ」
握らせた手を俺の手で包み込み、ゆっくり、だんだん早く動かしていく。俺のものが硬さを取り戻していくのがわかった。こんなことさせてるのに、無一郎は眠ったきりだ。いけないことをしている、そんな思いがさらに気分を高めた。しこしこ、しこ……。弟の手はあたたかく優しくて、だけど物足りない。一度出した体は背徳感だけじゃ追い詰めきれない。欲望だけがヒートアップしていく。
「ごめん、無一郎、ごめんな」
とうとう俺は無一郎をすべて脱がした。両足を広げさせ、奥の蕾へいきりたったものを添える。こらえきれずに先端を押し込んだ。ぬるりとした感触に包まれ、俺は安堵に似た気持ちを抱く。途端……。無一郎の足が、手が、俺をがっちりとホールドした。
「やっと捕まえたぁ、兄さぁん」
朱に染まった頬のまま、無一郎が俺に抱きついてきた。喉の奥がヒュッと鳴る。
「お、おまえ、いつから起きて!」
「最初から。それより早く続きしてよ兄さん。さっきから焦らされてばかりでたまらないよ。とんじゃうぐらい気持ちいいの、ちょうだい?」
「まさか俺のもの触ったのは」
「もちろん、わざと。謝りながら僕に溺れる兄さん、すごくよかったよ」
うれしい、と無一郎は冷たい汗で濡れた俺へ頬ずりした。安心したと同時に腹の底から怒りが湧いてきた。なんだよ最初から起きてたのかよ! 人の悪い真似しやがって! それならお望み通り、とびっきりイイのをくれてやるよ!
俺は腰を振りだした。抜き差しは浅く、速く。弟の中のいい部分を狙って。
「ひゃっ、ひゃうっ、は、ん、そこぉ……そこトントンするのっ、いいっ!」
「おまえ前より後ろのほうが好きなんだろ? とんでもないメスガキだな」
「だ、て、にいさ、の、あうっ、兄さんに、抱かれるのすごい! 好きだからぁ!」
「ガチイキしたら前じゃ満足できなくなるんだって? もうそうなってるか」
「うんっ、うん、僕、僕ね、兄さんに、乱暴にされるの、だいすきっ。ひぐっ!」
薄い尻へ腰を叩きつけ奥までねじこむと、無一郎は甲高い悲鳴をあげた。同時に俺へぎゅっとしがみつく。
「あ……あ゛……」
無一郎のものからは、押し出されるようにとろとろと精液があふれだしていた。
「もうイったのかよ、早いな」
「兄さん、が、じらすか、ら……」
「俺のせいだってのか?」
もう一度奥へねじりこんでやると弟は声にならない声をだし、体をのけぞらせた。
「ま、まだ、イってる、からぁ……」
「だからなんだ」
「はぁうっ!」
俺はわざと荒っぽく出し入れをくりかえす。そうしたほうが喜ぶと本人も言っている。案の定無一郎はだらしない声を上げ、ますます俺の腰へ足を絡ませる。もっともっとと欲しがる体は際限がないように見えた。
「ふ……く……」
俺は自分の快楽は脇へ置いて無一郎を優先した。俺の下で跳ねる無一郎の媚態は、理性などとうにトロかしている。もっとイかせてやりたい。もっと俺に溺れさせたい。俺しか居ないと、この体に刻みつけたい。
「あ゛ああ……あ゛、あ、あー、あっ……」
無一郎の絶頂がもう何回めかわからなくなってきた頃、短い呼気を吐いて弟は意識を手放した。
しまったやりすぎた。
弟はまた眠っているように静かになったけれど、汗だくになった桜色の肌が行為の余韻を示していた。俺は今度はとまどいなく無一郎の手を取り、抜いたばかりの自分の中心を握らせた。
「もうすこしだけつきあってくれよな、無一郎」
無一郎の唇へ自分の先端を押し付け、無理やり手コキさせる。ぎりぎりまで我慢していた俺はかんたんに陥落した。勢いよくあふれだした精液が無一郎の顔へかかる。ねっとりした白濁が天使の寝顔を汚している。俺はそれをすくいとり、広げるように塗り込んでいく。染み込んで俺の匂いがとれなくなってしまえばいい。そう願いながら。