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SS~ハザマ

「霞の呼吸、肆ノ型──移流切り」

有一郎生存if 原作時空

続き

 腕を切り飛ばしてやると鬼は苦しげに叫んだ。僕は傷跡を確認する。再生はしない。鬼はかなり疲労困憊しているようだ。いまなら首を狙える。
「ゲシャアアア!」
 四つに増えた脚で大地を踏み鳴らし、鬼はこちらへまっすぐに向かってきた。
「全員下がって、巻き込まれたくないなら」
 僕は下級隊士たちへ短く命令すると胸の奥深く呼気を吸い込んだ。
「霞の呼吸、肆ノ型──移流切り」
 下段から流れるように刀を振り抜くと、ふくれあがった大根みたいな鬼の足はおもしろいくらいに輪切りになっていった。股の下を通り抜けた僕の視界が血しぶきで真っ赤に染まる。
「ゲアアッ! ゴアアア!」
「うるさいよ」
 滑り込みから飛び起き、空中で体幹をひねって刀を振りさばく。肉にうもれていた鬼の首がとうとう胴体と泣き別れした。宙へ飛んだ首が真っ黒な煤に変じ消えていくと同時に、体の方もボロボロと崩れていく。ずいぶんと手こずらされたけれど、こうなってしまえばもう再生のしようがない。僕は周囲の気配を伺い、別の鬼が居ないことを確かめた上で日輪刀を鞘へおさめた。
 体が熱い。
 血油を浴びた体が燃えるように熱い。
「霞柱様、こちらを……」
「いらない」
 隊士から差し出された手ぬぐいを拒み、僕はふらりと森の奥へ入った。
「霞柱様……」
「いい、放っておけ。あのお方は鬼を斬ると一人になりたがる」
 年配の隠が隊士へ声をかけ、森のなかの凄惨な現場を片付け始めた。

 熱い。熱い。熱い。お願い、誰か、僕を鎮めて。『誰か』。

 どれほどさまよっただろう。半刻か、そのくらいか。僕は耐えきれず大きな樹の下へ座りこんだ。意識が溶けていく。
『誰か』、ねえ『誰か』。はやく来て。待ってるのに。
 荒い息をつきながら僕は大地へ横になった。体がいくぶん楽になった気がする。僕はそのまま眠りへ落ちていった。

 交代の時間だ。
『俺』は目を覚ました。影の奥から手を伸ばし、眠りつづける無一郎の隣へ姿を表す。それから周りに誰も居ないことを確かめ、いつものように隊服を脱がせ、無一郎を一糸まとわぬ姿にする。
「無一郎、こんな、姿になって……」
 俺は絶句した。無一郎は全身傷だらけだった。脇腹へは爪痕が残り、左の太ももからは出血が止まらない。隊服の懐にあった清潔な布で応急処置を施していると、無一郎はうっすらと目を見開いた。
「『兄さん』、ああ『兄さん』……!」
「夢だよ無一郎、これは夢だ」
 俺は血まみれの無一郎へおおいかぶさり、やさしく抱きしめた。
「……ゆめ? ゆめなの?」
「そうだよ、夢だ。俺はあの時死んだ。そうだろう?」
「ゆめ……」
 平時よりもさらにぼんやりとした無一郎の瞳はうつつとのはざまをただよっている。
「俺の存在は夢。だから今から起こることも全部夢だ」
 俺は血まみれの無一郎の頬を舌でなぞりあげた。混ぜものをした魚油のような匂い、ヘドみたいな味がする。鬼の血だ。
「つらいだろうな無一郎。こんなに血を浴びたら酔うのも当然だ」
「にいさん、わかって、くれるの……?」
「ああ、そうだよ。俺はあの日からずっと、おまえの影で、おまえが戦うところを見守ってきたよ」
 心臓を切り刻まれる思いをしながら。

 なぜこうなったのかはわからない。けど、あの晩傷口から溢れ出た双子の血が混じり合ったせいなのかもしれない。
 気がついたら俺は無一郎の影の中に居た。そこはあたたかく奇妙に居心地が良く、母の腹にいるようななまぬるさがあった。真っ暗な世界の中、見えるのは無一郎の視界だけ。俺はそこを通してたくさんのものを見てきた。鬼殺隊での日々は、悲惨だなんて、そんな言葉で言い表せる道じゃなかった。だからせめてこうして、俺がこの世に姿を表すことができる僅かな間だけでも、無一郎へ夢を見せてやりたい。

「がんばったな、無一郎」
「にいさん、ぼく、えらい……?」
「ああ、偉いぞ。無一郎の無は無敵の無、無一郎の無は無敗の無だ」
「えへへ、にいさん……」
 無一郎が俺の背に腕を回す。俺はていねいに血と汗を舐め取っていく。そうしているうちにぷくりとふくらんだ胸の先端へたどり着いた。そこは既に充血してはちきれんばかりだ。そっと舌を乗せると無一郎は大きくのけぞった。
「あんっ、にいさん……もっと!」
「わかってるよ」
 くちゅくちゅと音を立てて乳首をなめ転がしながら、空いた手で傷へ注意しながら脇腹をたどっていく。そうやってもうひとつの突端へ指を触れさせる。
「あっ、ああっ、あん、あっ、にい、さ……!」
「どうしてほしい無一郎? 今日はわがまま言っていいんだぞ?」
「あのね、あのね、もっと、もっときもちいいのいっぱいして!」
 言うなり無一郎は俺の腰を脚でがっちりと抑え込んできた。既に立ち上がっている無一郎のものが俺のふとももへ強くこすれる。
「あっ、はあん……これきもちいい」
「こんなのでいいのか、もっとよくなりたくないか?」
「なりたい。もっとして、にいさん」
「いい子だな無一郎」
 頭を撫でてやると無一郎は幸せそうに微笑んだ。
 まだ萎えている俺自身と兜を合わせ、片手で包むようにつかんで腰をすりあわせる。そうしているうちにだんだん俺も固くなってきた。
「はっ、にいさ、にいしゃ……ん!」
 その状態で再度乳首をいじると、無一郎はきもちよさそうに目を閉じた。あけっぱなしの口からよだれが溢れる。
「にいさん、どっちに集中していいかわからないよう」
「どっちもだ。気持ちいいだろ?」
「うん。うん!」
 無一郎は目を閉じたまま腰を揺らし始めた。すれあう感触がここちよくて俺も意識を持っていかれそうになる。
「無一郎は敏感だな」
「はあ、にいさん、が、してくれる、からあ……」
 つまんだ先端を円を描くようにしてこね、頂点を指の腹でこする。新たな刺激を与えるたびに無一郎はふるりと反応を返した。
「あん、にいさん、ちくびもっとお……」
「下はもういいのか?」
「したも、したもするの、きもちいいのぜんぶしたいの。ちくびいじるのもおちんちんこするのもどっちもいいの」
 言いながら無一郎は腰を揺らす速度をあげてきた。裏筋同士がすれあい、いちばんいいところを強引に合わせる。しだいに無一郎の息があがってきた。肌も桜色に染まっている。
「いきそうか、無一郎」
「うん、うん、いきそう、いっちゃう、いっちゃうよ、あん、にいさんにいじられて、ぼくいっちゃうよ、にいさん、にいさん、にいさっ……!」
 下肢にどろりとした感触がほとばしった。あんなに主張していたそれも、包んでいた手も、白濁で汚れている。
「あ、あっ、あー……」
 余韻に浸る無一郎を優しく抱え込み、俺はぬるつく手を無一郎の後孔へ伸ばした。指先を挿入して広げてみると、今すぐ入れても問題ないくらいきれいな桃色が見えた。
「ん、にいさん、ひろげるのやあ、はずかしいよう」
「何も恥ずかしいことなんてないだろ。双子なんだから」
 無一郎は頬を染めたまま、こくりとうなずいた。俺は二本の指を根本まで突き入れ、無一郎が吐き出した精子をゆっくりと中へ塗りたくる。しだいに指通りが良くなっていく後孔、指を三本に増やすと、無一郎はせつなそうに吐息をこぼした。うずうずと何かを欲しがっているが、言葉に出せない。そんな雰囲気だ。俺は無一郎の脚をほどかせ、今度は俺が地面へ横たわった。天を向いている自分のものが目に入る。
「ほら、おいで。好きにしていいぞ」
「えっ」
 体を起こした無一郎は虚を突かれたように目を見開いた。そこへ畳み掛ける。
「いいんだよ。夢なんだから。何したっていいんだ。愛してるよ無一郎。俺を全部おまえにやるよ」
 無一郎は欲望に震えながら俺の上に乗っかってきた。発情しきった低い息が俺の胸にかかる。
「いいのにいさん。ほんとうにいいの? ぼくずっとにいさんと、ひとつになるのがゆめだったんだ」
「ああ、俺の体、好きに使えよ」
「にいさん、にいさん、すきっ! だいすき、あいしてる!」
「俺もだよ無一郎」
 手を伸ばし、長い髪をすいてやると、無一郎は心を決めたようだった。俺の上にまたがり、腰を落としていく。先端が無一郎に飲み込まれた瞬間、俺は軽くうめいた。
「ああ、はあ、あああにいさんのおおきい……」
 まだ半ばまでしか含んでないのに、無一郎はつらそうに空を仰いだ。ここは俺が手を貸してやらなきゃなるまい。浅く息をする無一郎の腰を掴み、一気に突き上げた。
「はうっ!」
 えびぞりになった体にはかまわず、そのままゆるゆると腰を揺らす。挿入の衝撃が過ぎ去った体へゆっくりと快楽の味を思い出させていく。
「ん、ふ、あ、すご……ぼく、にいさんの、ものになったんだね、うれしい……」
「ああ、おまえは俺のものだ無一郎」
「はじめてなのにかんじちゃうよう、はずかしい……」
 初めてじゃない、俺達は何度も体を重ねてきた。ただ、おまえが覚えていないだけで──。
「気持ちいいか無一郎」
「うん、おなかのなかいっぱい、にいさんのがきてる」
「もっと良くなろうな?」
「はう!」
 俺は本格的に突き上げだした。肉の感触がくいついてくる。俺を離したくないみたいに。
「あっ、あ、あああ、にいさ、にいさん! うあ、く、いいっ、いいの!」
 ぱちゅ、ぱちゅ、腰を打ち合わせるたびに粘液質な音が響いた。気がつくと無一郎は夢中で腰を振っていた。限界まで腰を上げ、一気に腰を落とす。そのたびに奥をえぐる感触が伝わってきた。
「ん、ん、お、おあ、あぅ、あ、あっ」
 とろとろに溶けきった無一郎の顔。だらしなく空いた口からあられもない声が垂れ流される。
「無一郎、気持ちいいか?」
「うん、ん、んん、おおっ、にいしゃ、きもちい……ずっと、こうして、たい」
「よしよし、無一郎が好きなだけしていいんだぞ」
 快楽を逃しながら、俺は手を伸ばして無一郎の頭を撫でた。
「ふあ、あ、にいさん、ぼくのこと、すき?」
「好きだよ」
「あいしてる?」
「愛してるとも」
 何度もくりかえされる問答。無意味で、無価値な。だけどいまの無一郎には何よりも必要なもの。
「にいさん、にいさん、お、んお、いくっ、にいさんのでいくっ、うけとって、ぼくをうけとってにいさん!」
 ずこずこと秘部をえぐる動きが速くなり、無一郎はやがて大きく痙攣した。放射状に吐き出された薄い精液が俺の腹へかかる。それを指先で拭い味見をすると、無一郎はぞくりと背筋を震わせた。
「にいさん、ねえ……」
「まだ足りないんだろう? おまえは大食いだからな」
 俺はいったん萎えた自分を無一郎の中から引き抜き、弟を地面へ転がした。大きく股を開けさせ、半立ちになっている無一郎自身を口でくわえる。
「あっ」
 じゅぷ、じゅ、じゅるる、じゅうっ。
「にいさん、そんなにされると、またしたくなるぅ……」
「てっきりそのつもりだと思ってたが、違うのか?」
「……ちがわない」
 真っ赤になったままうつむいた無一郎が身を捩る。
「ねえにいさん、ぼくもにいさんのしゃぶっていい?」
「もちろん」
 互いに互いをくわえ、むしゃぶりつく。鬼の血と汗と精液が混じり合い、異様な興奮を誘っていた。そのまま月が昇るまで無一郎は俺と絡み合った。

 ……目を覚ますと知らない森の中だった。
 たぶん僕が忘れてるだけなんだろう。
 いつのまにか全身に浴びていた鬼の血はきれいにぬぐわれ、傷は応急処置がしてあった。
 ああ、来てくれたんだね。胸の奥のぬくもりがそれを教えてくれる。
 こんなにも求めているのに。呼べば駆けつけてくれる僕だけの『誰か』。なのに何も思い出せない。
 月が綺麗だ。
 いっしょにこの月を眺めることが出来たらどんなにいいだろう。
 見上げた月がにじみ、僕の頬をすっと涙がこぼれていった。
 遠くで、狼が鳴いた。