「あんまり俺で遊ぶなよ」
キメ学時空 短文
弟はチョコミントが好きだ。初めてそのアイスを食べた時「歯磨き粉みたいな味がする」とのたまったくせに、気に入ったらしい。今も待ち合わせ場所でひとりつったって、退屈そうにチョコミントを食ってる。俺は人混みをすり抜けるスピードを競歩からダッシュに変えた。
「兄さん、遅い」
「悪かったって! 遅れるから時間つぶしてくれってLINEで言っただろ!」
「じゃあアイス買って」
「わかった。何にする?」
「チョコミント」
「今食ってるソレは何だよ」
「チョコミント」
「どんだけ好きなんだよ」
「だって兄さんと初めて半分こしたアイスだから」
無一郎の舌がぺろりと溶けかけたアイスを舐め上げる。
「なら今日はチョコチップクッキーにするか?」
「半分こにしてくれるなら良いよ」
今度はまちがいなく弟は舌を出した。
「あんまり俺で遊ぶなよ」
無一郎の手からチョコミントを取り上げ、俺はばくばくと食べきってやった。
「あ、僕の!」
なんていうわりに無一郎はうれしそうにしていた。その頭をぐりぐりと撫で、俺達は歩き出した。
「兄さん、アイス買ってくれるの?」
「ああ」
「やったね。半分こしようよ」
「良いこと考えたぞ」
「なに?」
「俺とおまえが違うアイスを買う、それで半分ずつ交換して食べる。どうだ」
「いいねそれ」
弟はくすくす笑うと俺と手を繋いだ。でたらめな歌を歌いながら、俺達はアイスクリームショップへ向かった。店内には色とりどりのアイスが並んでいる。
「なんにしようかな、どうしようかな」
とかなんとかたっぷり悩んで、無一郎はバニラにした。これには店員もすこし呆れていた。
「なんでバニラなんだよ」
「だってこれならどこにいっても売ってるじゃない? だからいつでも兄さんを思い出せるよ」
「だからそういう、こっ恥ずかしいこと言うな」
「やーい兄さん、顔あかーい」
「チョコチップクッキーやらないぞ」
「それはやだ」
俺はひとさじ入れて、チョコチップクッキーを無一郎へ渡した。無一郎は美味しそうに食べている。俺もバニラを口にした。甘くて優しい味だ。
思い出が積み重なって、時々すこし苦しくなる。今でこそ兄さん兄さんとあとをついてくるおまえだけれど、いつそれがなくなるかわからない。独り立ちしたおまえはきっと強く凛々しく美しいだろう。俺にはそれを止める権利なんてない。
バニラを見ておまえを思い出すのは、きっと俺の方だ。