「あふっ、お、おじさ、のぉ……おいしい、です……」
淫語注意。モブむいでゆうむい。深夜テンションで書き上げたもの。
「はあ、はあ、むいくん、いれるよ、いいね?」
「あん、早くしてぇ。ほしいのぉ、おじさんのぶっといおちんぽ」
僕はあえぎながら胸をそらしてみせた。つんと立った両胸の突端がおじさんは気に入ったらしい、ごくりと生唾を飲み、手を伸ばしてきた。
いや前戯はもういいから。ねちっこいし、下手だし、やめてほしい。僕は腰をくねらせ、行為の続きをねだる。
「おねがい、おなかの奥が切なくてもうダメになりそう……。わかって、ねえ」
うるうるおめめで見つめるとおじさんは息を荒げながら僕の腰をつかんだ。痛い、力加減ってものをだね。痕ついたらどうしてくれるのさ。まったく。
そんな内心はおくびにもださず、僕はおじさんの挿入を小さな悲鳴を上げて受け入れた。こうすると処女っぽくてウケがいいからだ。
「ふあ、ん、おっきくて壊れちゃいそうだよう」
「ははは、そんなにおじさんのちんちんが気に入ったか! よしよし、たっぷりよがらせてやるからな!」
そういうことを言うとバカっぽく見えるからやめたほうがいいよ。実際、そのものはたいしてご立派でもないし。
おじさんは奥まで入れるなりハイスピードで腰を動かした。こっちのことなんてなんにも考えてない、オナニーも同然の動きだ。一人耐久レースでもしてるのかって感じ。そんなんで本気になるほど僕はちょろくないんだけどなあ。でもここで逃げられるとのちのち困るので、僕は眉を寄せ、まぶたを閉じて、おじさんの背へ腕を回した。
「ああっ! すごいよ、そこ、いいっ!」
そこってどこだよ。自分でも謎だよ。
「そうかそうか、ここがいいのか、言え! おじさんのちんちんおいしいですと言え!」
「あふっ、お、おじさ、のぉ……おいしい、です……」
「何がだ? はっきり言うんだな。それまでお預けだぞ」
おじさんはぜえぜえいいながら腰の動きを止めた。全身すでに汗まみれだ。体力切れたなら素直にそういいなよ。といっても今このタイミングで小休止を入れられるのはまずい。僕はせいぜい恥じらって見せながら卑猥な言葉を口にした。
「……おじさんの、おちんちん、太くて、立派で、すごく……おいしいです」
「よーしいい子だ。続きをしてあげようねえ。ヒイヒイ言わせてあげるよ」
おじさんはつながったまま僕の体をひっくりかえすように持ち上げた。
「ほーら、おじさんとむいくんがつながってるところ、よーく見えるねえ。ほら、おじさんのおちんちんがずぽずぽ出たり入ったりしてるよぉ?」
この体勢苦しいからやめてほしいんだけど。こういう時のお願いの仕方もちゃんと心得ている僕。
「ん、っく、……ふう、おねが、おねがい」
「なにかなむいくん」
「正常位がいい、おじさんのお顔みたいの、いっぱい抱きしめてキスしてほしいの」
「むいくんはちゅーが好きだなあ。んんーちっちゃくてかわいいよ」
目論見通りおじさんは僕をベッドへ寝かし、そのうえで自分勝手に腰を振っている。はー、まあ楽っちゃ楽。ほんとはバックがいいんだけどね。スマホいじりながらあんあん言ってればいいだけだから。
おじさんの腰つきがあやしくなってきた。深くえぐるようだった動きが、細かく浅いものに変わっていく。そろそろ終わりかな。僕はちらりと首尾を確かめ、問題ないと判断しおじさんの動きに合わせる。
「うっ、うおっ、いくぞ。むいくん、中に出すぞ! ほしいかっ!?」
「うん、ほしい! 中、中に出して!」
「う、おおっ、んおおお!」
おじさんは獣みたいな声を上げて果てた。こういうとき女の子じゃなくてよかったなと思う。妊娠の心配がないからね。僕は行為の余韻にひたっているふりをしながらおじさんを観察する。はげあがった頭、たるんだ体、駅前で買春をするようなその道初心者にして、自分より弱そうな相手にしか支配欲を振りかざせないかわいそうなお人柄。肩書は万年係長と言ったところかな。
「おじさん、ありがとう。とってもすてきだったよ。僕たち、また会えるよね」
「ンッフッフ、それはどうかな。むいくんのがんばりしだいだねえ」
いったい何目線? 上から過ぎて鼻で笑いそうになる。
「きっとまたすぐ会えるよ、僕たち。そんな気がするんだ」
僕は両手を組んでくねくねさせながら、いかにもな雰囲気を作り出す。うん、嘘じゃないよ。嘘じゃ。
「そんなにむいくんが言うならホテル代払ってもいいかもなあ。むいくん、かわいーくお願いしてごらん?」
お、宿代込み2万が高く出たもんだね。どうかえそうか思案していると、スマホのバイブが鳴った。僕は保留にするとぱっと立ち上がり、さっさとバスルームでシャワーを浴びた。兄さんからの合図だ。もうこんなところに用はない。
「むいくん、いっしょにおふろ入ろうか」
「えーやだ~ぁ」
甘えた声を上げて僕は「死ねボケ」と心のなかで毒づいた。結局おじさんはホテル代をはらわなかった。
小金が惜しくなったのか、事が終わるとそそくさと出ていこうとするから、僕はあえて腕を絡めておじさんへべったりとくっついた。そしてホテルから出て、そこで待っていた兄さんと鉢合わせした。おじさんはぎょっとして、僕は笑みを浮かべて。
「うちの弟に何してくれてんですか、おっさん」
兄さんはそう言った。その一言で脂汗をだらだら流し始めたおじさんを眺めやる。僕の上で王様気分だったやつが裸の王様になる、至福のひとときだ。
「ここじゃなんですからファミレスでも行きましょうか」
人好きのする笑顔を貼り付けたまま兄さんはあくまでおだやかに交渉する。おじさんは踵を返して逃げ出そうとしたけど、はい、残念、なんのために僕がへばりついていたのかな? 僕はおじさんの足をかかとで踏みつけ、その場に縫い付ける。
「知ってると思うけど、そいつ学生なんですよ」
にこにこしている兄さんは目が笑ってない。
「こんなことしてるって奥さんと会社に知られたらどうなるでしょうね」
兄さんはスマホを取り出し、動画を流した。僕とおじさんがベッドで乱れている無音の動画だ。ついさっきまでの痴態が赤裸々に映っている。
「音声付きのを送付してもいいんですよ?」
おじさんはしかばねみたいに真っ青だ。すこしばかりかわいそうに思わなくもないけれど、運が悪かったと思ってほしい。駅前で人待ち姿の少年へ声をかける時は慎重にね? おじさんがひからびた声を押し出した。
「……いくらだ、いくらほしい」
「いや、金とかじゃなくてこういうの、セーイなんで、セーイ。時々会って援助してくれればそれでいいですよ。あ、もう本名とか勤め先とか住所とか全部押さえてるんで、警察に駆け込んでも捕まるのはおっさんのほうなんで。とりあえず今日のところは俺たちの今夜の飯をおごってくれればそれで」
おじさんの目が泳ぐ。僕はおじさんへにいと笑いかけた。
「ね。またすぐ会うことになったよね、僕たち」フラフラと帰っていくスーツ姿の背中へファミレスから手をふると、僕は席についた。チーズハンバーグセットは今日も美味しい。それが誰の金だろうと、胃袋に入ってしまえば同じだ。
「兄さんてさ、僕にウリやらせるわりにあんまりごっそり取っていかないよね」
「不満か?」
「ううん、なんでかなって。チーズハンバーグお代わりしていい?」
「太るなよ、商品価値が落ちる」
「わかってるって」
兄さんはサラダをつまみながら口を開いた。
「広く浅くのほうが安全なんだよ。小遣い銭の範囲内で出させれば、向こうもこの額なら目をつぶるかって麻痺していくもんだ。で、おまえにはあのオヤジの他に7人、パパがいるだろ? 一人頭は少くとも、掛け7したらけっこうな額になる」
「僕の取り分、少なくない? PSGOほしいんだけど」
「少なくない。取り分は平等だ。生活費と貯金分を差し引いてるから手取りが少なく見えるだけだ。あとPSGOほしいならもっと稼げ」
「ほんとう~?」
「おまえに嘘ついてどうする」
僕と兄さんは二人きりで暮らしている。親を早くになくし、施設に入ったけれどそこが地獄だった。手に手をとって逃げ出し、しばらくはホームレスをしているうちに自分の体がけっこうな額で売れることに今更気づいた。若さは財産だ。使い尽くす前に活用しなくちゃ。
僕がターゲットを誘い込んでいる間に、兄さんが個人情報を抜き取り特定する。そして僕は体で籠絡し、兄さんは情報で脅しあげ、獲物の首へがっちり首輪をつける。いま住んでいる家も「パパ」のひとりが愛人用に買ったマンションだ。肝心の愛人に浮気して逃げられ空き家になってたのを、これ幸いとふたりで転がりこんだ。駅から近いしコンビニもあるし、いいところだと思っている。
こんな生活がいつまで続くかなんて、考えたくないから考えないようにしている。それはきっと、兄さんも同じだ。ただひとつだけわかることがある。きっと最後の瞬間まで僕は兄さんと一緒だろうってこと。
「ねえ」
「なんだ」
「僕のこと好き?」
「……好きとかそういう次元じゃない」
「よくわかんない」
「俺だってお前とヤりたいよ。本音ではな。でもそれをしたら何かが壊れそうな気がする」
「うん、そうだね」
それは僕も同感。許されるならばキスしたい。貫かれ、よがり狂いたい。だけどすべては白昼夢の出来事。
「俺とお前は相性が良すぎる。きっと戻れなくなる。朝から晩までべたべたひっついて離れないと思う。なにもかもほったらかして一日中猿みたいにヤッてると思う」
「憧れるな」
「憧れるだけにしておけ」
うん、ちゃんとね、わかってます。一緒の布団で寝られるだけで嬉しいのに、それ以上なんてきっと僕は幸せでタガがはずれて死んじゃうだろう。
炭酸に口をつけた兄さんが僕へ手を伸ばしてきた。
「まあとにかく、新しい獲物ゲットだ。おめでとうさん。よくやった、無一郎」
「ありがとう兄さん」
兄さんが僕の頭を撫でてくれる。これがあるからすべて報われる。兄さん、帰りは、手をつないで行こうね、いつものように。