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SS~アイシング

「あっつーい」

お題ガチャより ちゅーしてるだけ キメ学時空
続き
「あっつーい」
 僕は拳で汗を拭った。兄さんがしかたないやつだなとハンカチを貸してくれる。清潔で青のチェックのそれを額に当てて、こもった熱にうんざりした。
 今日はとにかく変な日だ。昨日は長袖が要ったのに、もう初夏なのか、まだ初夏なのか、気温は冗談抜きに夏日。太陽ギラギラ、風は熱風。兄さんも珍しく学ランの第一ボタンをはずしている。天気がいいのはいいことだけれど、この暑さには閉口する。これからもっと暑くなっていくのだと思うとすでに憂鬱。
 まだ学校はエアコン解禁前だから、今日は一日蒸し風呂のような中で授業を受けた。先生も生徒も汗だく。早く来て衣替え、そしたらエアコンも始動開始! ひたすらその日が来ることを祈りながら、僕と兄さんは学校での活動を終えた。
 部活も終わって夕方になるも、暑さはまだ残っている。
「無一郎」
「なに、兄さん」
 そんなつもりもないのに刺々しくなっちゃう。イライラが止まらない。とにかく今日は早く帰るんだ。そしてシャワーを浴びてエアコンをつけて涼むんだ。
「スーパーによらないか。アイスを買って帰ろう」
 なにそれ、天の恵み。いいじゃん、いくいく。さっきまでの意見をころっとひるがえして、僕は兄さんの意見に諸手を挙げて賛成した。コンビニじゃなくてスーパーってのが兄さんらしいや。とことことおとなしくついていく僕。暑さのせいか兄さんは無口だ。いつもなら僕とたわいもないおしゃべりをするところなのに、今日はだんまりのままふたり歩いていく。
 帰り道によったスーパーはひんやり極楽。僕は兄さんの肩へ頭をのっけた。
「あーやっと兄さんにくっつける」
「やめろ、人前だぞ」
「知らないやい、ああ涼しい気持ちいい、兄さんちょっと休憩していこうよ」
「あまり遅くなると母さんが心配するからすこしだけな」
 兄さんはつれなく僕の頭を押しやり、カートを押して冷凍コーナーへ。ずらりと並んだ冷凍食品、兄さんはスマホで母さんに連絡をとり、必要なものを買い足していく。僕は荷物持ち。
 肝心のアイスはバニラの上からチョコのかかったやつにした。6本セットでお値打ち価格。ただいま割引セール中。そんなやつ。僕にはお目当ての品があったんだけど、兄さんは「高い」の一言で却下した。
「どうしても欲しいなら自分の小遣いから出せ」
「僕のお財布がいつもぺたんこなの知ってるくせに」
「それはお前が後先考えずに使うからだろう?」
 そこまで言わなくたっていいじゃないか、真実は人を傷つけるんだよ兄さん。僕はぷっくりほっぺをふくらませて講義しつつもお目当ての品を棚へ戻した。その代わりなのかどうか、兄さんは店内の休憩コーナーでアイスを食べることを提案してくれた。うん、エアコンの効いた中でアイス、とってもいいね。僕はひとけのないそこのベンチにまっさきに座り、早く早くと兄さんをせかした。
 兄さんがアイスの箱を開けて一つを僕にくれる。一口目はチョコレート。いちばんおいしいところ、僕は兄さんへそれを突き出して誘った。
「はい、あーん」
「あー……」
 ひょいぱく。僕は兄さんへ差し出していたアイスを自分の口に咥えた。おいしいところは僕のお口の中へ。
「なーんてね。ふふっ」
 兄さんはきゅっと眉を跳ね上げたかと思うと、一気に僕へ近づいた。口の中へ舌が入る感触。アイスと混ざって、冷たい、甘い、熱い。
「美味いな」
 涼しい顔で兄さんが笑う。兄さんからキスされるなんてめったに無いことだから、僕は耳まで赤くなるのを感じた。今日はとにかく変な日だ。だけどこんなサプライズなら、歓迎かも。