「わかんない、気がついたら当たり前にキスしたりハグしたり、えっちなことしてた」
ゆうむいベースでげんゆう 気が向いたら続きかくかも キメ学時空
クソが、どうしてこうなった。
煽りまくってくるこいつがいけねぇ。旧校舎の空き教室で、俺は今有一郎を抱いている。そもそもの発端は有一郎の弟、無一郎さんだ。
自分よりふたつも年下の無一郎さんへ一目惚れした俺は、せっせと顔をつないでは、すこしずつその心をほだしていった。だけども、デートするほどの仲にまでなったのに、キスのひとつもさせてくれない。堪忍袋の緒が切れて問い詰めてみたら、無一郎さんは困ったように「僕は兄さんのものだから」と言った。
「それは、つきあってるってことかよ、双子で、兄弟で」
「つきあってはいない。なんだろう、所有物かな、そんな感じ。お互いに性欲処理をしてる感じで」
「ヤッてる?」
「うん」
青天の霹靂とはまさにこのことだ。花のかんばせで無垢な笑顔を振りまく無一郎さんが、すでに他の男、よりによって双子の兄のものだなんて。
「いつから?」
「わかんない、気がついたら当たり前にキスしたりハグしたり、えっちなことしてた」
「愛してんの?」
そう問うと無一郎は真剣な表情で考え込んだ。ひねりだした結論は。
「……わかんない。だって、ずっといっしょにいるのが当たり前で、他の人とそういうことをするなんて考えたこともなかったし」
無一郎さんの話を聞いているうちに、俺はだんだん頭が痛くなってきた。この双子は、メシや風呂と同レベルでセックスしてやがる。ちげーだろ、ボケ! セックスってのは愛し合うふたりが行う神聖な行為じゃねーのか! などと童貞全開の思考回路で俺は憤慨していた。
「それで無一郎さんは、俺のことをどう思ってるんだ?」
「好き、だよ」
ほんのり胸の中が暖かくなる。光明が降ってきたように。
「でもそれ以上となると兄さんの許可がいる」
なるほどね、ふーん、じゃあもらってきてやらあ、許可。旧校舎に有一郎を呼び出すと、開口一番「無一郎はやらないからな」とけんもほろろに言われた。
「だがテメェがやってんのは、すりこみじゃねえか。いまの無一郎さんは親鳥の後ろをトコトコついて歩くひなみたいなもんだ」
痛いところを突かれたのか有一郎が黙り込む。
「なんだっていいだろ。よその家庭の事情にクビ突っ込むなよ」
「土足であがらせてもらうぜ、なにせ無一郎さんは俺のことを好きだと言ってくれたんだ」
余裕ぶっていた有一郎の仮面がショックでひび割れる。
「無一郎が? あいつが? バカな、そんなことはありえない」
「テメェがどう言おうが勝手だが、無一郎さんはひなどりの域を超えつつある。だから、わざわざ交際許可をオネガイにあがったわけよ、有一郎」
「玄弥ぁ……!」
風を切る音がして、外からの拳。残念、兄ちゃんとのケンカで慣れてる俺はそんなおおぶりパンチはくらわない。てかいきなり顔狙ってくるとかマジでケンカ慣れしてないな、こいつ。
きっと身も心もいいようになる弟のうえでふんぞりかえってきたんだろう。そう考えると、俺の腹の底から怒りがこみ上げてきた。有一郎の拳を真正面から受け止め、力量差を思い知らせる。有一郎は苦痛に耐えきれず顔をしかめた。
「離せよ!」
「俺と無一郎さんがつきあっていいってんなら離す」
「誰が許すか!」
「じゃあこのまま拳を握りつぶしてやろうか? 言っとくけど、正面切って殴りあっても俺のほうが強いぜ」
「……」
有一郎は唇を突き出し、不愉快そうに眉をしかめた。こういう顔をすると双子なんだなと思う。
そのうち妙なことを考えついたらしく、有一郎は拳を振りほどいた。
「お前って童貞?」
「どうでもいいだろ!」
「その反応は当たりか。言っておくが無一郎は俺専用に調教してあるからな。チンカスだらけの童貞ちんぽで繋ぎ止められると思うなよ?」
「ああ!? 誰がチンカスだらけだ! これでもきれいにしてらあ!」
「どうだかな」
言うなり有一郎は俺の股間へ無造作に片足を置いた。そのまま誘うように足を押しつけてくる。細かい機微を知っている動きに、俺はその気もないのに勃起してしまった。
「証明してみろよ。童貞野郎」
有一郎はそんな俺の様子を見てにやにや笑っている。クソッタレ、いけすかねえな。頭もからだもイライラしてたまらない。愛はなくともセックスはできる。それに気づいた俺は有一郎の胸ぐらをつかみあげた。身長差のせいで首が絞まり、有一郎は苦しげな顔をする。
「いいぜ、テメェがやめてくれって泣きいれるまでつきあってやるよ」有一郎の学ランをむりやりはだけさせ、肉付きの薄いからだを机のうえに押し倒す。
「えらそーにくっちゃべってばかりなくせに、中身は貧相なのな、テメェ」
「うるせえわ。てかなんでナチュラルに俺が下なんだよ。ふざけんなよ」
「童貞ちんぽの味見がしたいんだろ? させてやるよ」
「ゴム持ってんのかよ」
う、持ってない。そもそも持ち歩いてない。そもそも男同士って要るのか? 疑問が顔へ出ていたらしい、有一郎はあきれた声を出した。
「男へ中だしすると腹壊すし、病気のおそれもあるから必須なんだよ。それくらい覚えとけ、ボケ」
そう言いつつ有一郎は財布から手慣れた様子でコンドームを取り出す。それを口にくわえて、にやりと笑う。
「付け方がわからないとか言わねえよなあ?」
図星だった。自分で購入したこともないのに付け方がわかるわけない。それを察したのか、有一郎は指をさして俺を笑った。
「ははは! ガチのザコだなおまえ、そんなんで俺の無一郎をさらっていこうなんてクソザコすぎて笑えるわ!」
「つけりゃいいんだろ! つけりゃ!」
「おう、そうだ。そんなふにゃちんで出来るもんならな」
有一郎が再度俺の股間を責めてくる。自分が半勃ちになっているのがわかった。と、急に有一郎の足が離れた。
「自分でやってみせろよ」
「……」
俺はズボンの前をくつろげ、主張し始めた息子を取り出した。そろそろと愛撫を始めると、特等席から観覧している有一郎からヤジが飛ぶ。
「おいおい、そんなんじゃ日が暮れちまう。帰っていいならひとりでしてろよ」
「んだと……!」
いまのは脳天にきた。俺は有一郎の頭をつかみ、股間へ押し当てた。
「そこまで余裕かましてるなら、さぞかし上手いんだろうな。弟相手に毎晩練習してるんだろ!?」
「むご、うぐ、ぶえっ! いきなりつっこむな、噛みちぎるぞ!」
「へえ、加減もできないドヘタかよ。こりゃ無一郎さんも案外マンネリプレイで飽き飽きしてるかもしれねえな」
「じゃじゃ馬だぜ、あいつ。お前みたいなぽっと出がものにできるほど無一郎はおとなしくないんでね」
ほう、どうやら兄の前では別な顔を見せるらしい。特別の人だけに見せる、特別な表情。俺はますます暴いてみたくなった。固くなった自分のものを有一郎の口内へ突き入れ、腰を振ると同時にやつの頭をつかんで揺らす。こっちの快楽だけを考えた遠慮も作法もない動きだ。
「ぐぼっ、げふ、うっく、ぐぶ!」
「この程度で音を上げるのかお兄ちゃん?」
「だ、れが! ぐげっ!」
喉の奥まで押し込んだのはやりすぎだったかもしれない。有一郎はイヤイヤするように首を振り、俺のものを吐き出した。よだれで汚れたそれは天高く向いている。俺は有一郎が机に落としたコンドームを拾い上げ、使用方法を確認した。なるほど、こうやるわけか。慎重にかぶせて、根本まで包みこんだ。ラテックスの独特な匂いが鼻を突いた。
「ケツむけろよ」
「はあ? 冗談抜かせ」
「どうせケツアナ処女じゃないんだろ?」
「……」
有一郎はギリリと歯を食い締めながら俺を睨んできた。
「無一郎の初めては俺が全部もらった。からだじゅうどこもかしこも俺のものだ」
「あやかりてえな。ところで兄ちゃんサマよ、覚悟決めて俺にケツ突き出すか、無一郎さんとの交際を認めてくれるか、どちらかにしてくれねぇか?」
「まだお前とヤるほうがマシだ」
言い捨てる有一郎の瞳には恋の炎。ああ、こいつ、無一郎さんに惚れてんだな。心が通じ合わないならせめてからだだけでもってことなのかもしれない。だからって俺は諦めないけどな。
「同じ顔をしてるから、予行演習にはもってこいだな」
「殺すぞ」
「おー、こわいこわい」
有一郎は机へ体を預けて尻をぐっと高くあげる。学生服のズボンを最低限引き下ろしただけの姿で。ぶっちゃけそそられる。まさか無一郎さん以外の男に興味を持つなんて思ってもいなかったけれど、こうして服従させるのは楽しい。俺、新しい遊びに目覚めたかも。
「じゃあ、まあ、ゴムもつけたし、ヤラせてもらうぜ」
俺は一気に有一郎の中へ入った。ゴムについているローションのせいですべりはよかった。
「なっ、てめえ、すこしは加減しやがれ!」
「誰かさんが煽りに煽ってくれるからなあ。気持ちいいか、有一郎」
「いいわけねえだろ、クソボケが! 童貞らしくヘコヘコ腰振ってとっとと昇天しろよ!」
と言われても、締め付けがきつすぎて動くのも苦しいんだなこれが。こいつ実は名器の持ち主なんじゃないのか。とかアホなことを考えているうちに、冗談抜きに食いちぎられそうになってきた。
「まて、有一郎、ストップ、ストップっつってんだろ!」
「お前の都合にいちいちかまってられるか、嫌なら抜け!」
しかたねえ、ここはいったん退却だ。俺は下腹へ力を込めて、入れたときと同じように一気に引き抜いた。急に楽になったせいか、有一郎がしゃがみこむ。
「はー……はー……いつか殺すリストへ入れといたからな、お前のこと」
「で、その調子だと腰も立たないから俺の勝ちってことでいいか?」
「誰が無一郎をやるもんかよ」
「腰ガクガクさせながら言っても威厳ねーわ、兄ちゃんサマ。それよか」
「ひっ!」
俺は有一郎の片足を抱え上げ、肩に乗せた。そうするとこいつの恥部がすべてさらされる。萎えたままの有一郎のそれにはかまわず、俺は再度挿入した。
「なに、しやがっ、る!」
「俺がイクまでガマンしろよ。それともあれか、有一郎ちゃんさまは童貞ちんぽに負けるようなメスブタってか?」
「んぎ! この野郎、終わったら覚えておけよ!」
わめきたてる有一郎の口をキスでふさいで、俺はそのまま快楽を貪り続けた。有一郎のなかは適度に開発されていて、それでいてまだどこか青く、抜群の締め付けを誇った。ゴム越しとは言え、それにしごきあげられて平気なわけがない。俺は荒い息を付き、ガツガツと腰を振った。
「ぐっ、ぎぃっ、う…く…! てめ、ふざけん、な!」
あの有一郎が涙目だ。ひどく嗜虐心をそそる光景だった。もっと泣かせたい。もっと追い詰めたい。もっともっと。
「えっ? あ、ああ、う、うそだろ、ちょいまて玄弥! やめろってば!」
「やめろと言われてやめるやつはいないんだよな、これが」
「これ、以上は、本気でヤバ、うっ、くっ、ふぐぅぅぅ!」
有一郎が机へ突っ伏し、天板を拳で叩いた。その後はぐったりと力を抜き、浅く細く息をしている。
「……なんだテメェ、もしかしてイッたのか」
「うっせえわ。見世物じゃないぞ」
「へえ、その生意気な口がどこまできけるか試してやるよ」
俺は再び有一郎のからだへがっついた。本音を言うとどこをどうすればいいのかわからなかったが、イッたばかりの有一郎のからだは俺の動き一つ一つに敏感に反応を返す。
「はう、……んっ! …く…ぐぅ!」
あくまで声を噛み殺そうとする有一郎、もっとあえがせたい俺。攻防は予鈴がなるまで続いた。お互いに中途半端なまま片付けを終え、にらみあう。
「俺は無一郎さんをあきらめるつもりはないからな」
「好きにしろよ。ただし、俺も無一郎のそばを離れるつもりはない。無一郎をお前だけのものになんてさせやしない」
「ああ、そんならそれでいい。双子揃って抱き潰してやるよ」
「はっ、上等!」
鼻で笑う有一郎へ乱暴なキスをした。無一郎さんにはぜったいにするつもりのない口づけ。舌を噛んで来やがったから、こっちもお返しに唇へ噛み付いてやる。キスと言うより噛みつきあいのようなやりとりが続いた。ともあれ無一郎さんとの交際許可は強奪した。なし崩し的に有一郎がついてくることになったが。改めて見てみると、無一郎さんと双子だけあってきれいな顔立ちをしている。
性格はいいか悪いかで聞かれたら悪いと即断できるが、それゆえのスリルがある。きっと無一郎さんでは味わえない日々を約束してくれるだろう。明日からのことを考え、俺は舌なめずりをした。