本能とあなたとわたし。

「ただいまハニー！」

　※血ぃー
　※現代パラレル　性格超改変　わけワカメ
　※ふーたん女の子注意
　※自己責任でどうぞ

　※挿絵つきました。

続き

　奥様の本性は殺人鬼。
　そして、旦那様の本職はペテン師。
　非凡な２人は、非凡な恋をし、非凡な結婚をしました。
　でも、ただひとつ平凡だったのは、２人はラブラブだったのです。

　大都会の路地裏で出会った２人は吊り橋効果も手伝ってお互い一目惚れ。電撃入籍と相成りました。
　あくる日、旦那様は奥様のために郊外に愛の巣を買い求めました。赤い屋根にクリームホワイトの壁が苺のショートケーキのようでかわいらしいおうちでした。が、若い２人は年のわりに現実的でして、”地下室と広い庭のある一軒家”という点をたいそう気に入ったのです。
　入居した２人はご近所に引越しパスタを配り終わると、さっそく地下室をリフォームしました。電気とガスと水道管を通し、コンクリうちっぱなしの床にタイルを敷いて排水溝をつけます。通気口には強力脱臭フィルターを何枚も設けました。暖炉にエアコンも完備して、寒い冬でも安心です。もちろん扉は厚くて重いものに変えました。鍵もちゃんとついてます。旦那様のご趣味は写真だからと、それとなく業者に言い含めておくことも忘れませんでした。

　

　さて、たとえばあなたが若く健康的で身寄りがなくて脂身が少なくて十人並みの容姿をもっているなら、それっぽい格好で夜のサンクスギビング駅裏で立ちんぼしてごらんなさい。
　一ヶ月もすればお客の他に、背の低い東洋系の顔立ちの青年が声をかけてくるはずです。彼はにこにこと愛想よく、小柄なのに不思議と押しが強くて、何気ない会話からあなたの健康状態と交友関係を探ります。気がつくとあなたは彼と友人になっており、ある日家に招待されます。
　あなたが彼のTO-YO-TAの助手席に座ると、彼は携帯電話を取り出し、愛の巣に連絡を入れます。Cingularのごつい電話機からは、おっとりした女性の声が聞こえてくるでしょう。
「今から帰るよハニー。今日はお土産があるんだ」
「愛してるわダーリン。早く帰ってきてね」
　なんて会話を交わしたあと、彼は通話を切って車のエンジンをかけます。車はどんどん郊外に走っていき、あなたが不安を感じ始めた頃ようやく一軒家につきます。とっぷり暮れているうえに、明かりもついていないのであなたは不審に思います。
　が、彼は相変わらずにこにこと愛想よく、あなたは頭の中のアラームをうっかり無視してしまいます。手を引かれて家にあがり、彼があけた扉を覗きこむと、あなたは背中を強く押されて階段を転げ落ちます。
　落ちた先は明るく、暗闇に慣れたあなたには別世界のようにまぶしく感じられます。そして目の前にいかにも新妻といった感じの奥様が満面の笑みを浮かべて立っています。
　あなたは強い怒りと痛みを感じて体を起こそうとしますが、誰かに背中を踏みつけられて動けません。頭の上から声がします。
「ただいまハニー！」
「おかえりなさい、ダーリン！」
　微笑む奥様の手にはバスケットボールくらいの大きさの鈍器、が

　
　
　
　ぐしゃばきどか。
　
　
「ねえ、ダーリン。もうすぐグラジオラスの季節だから球根を買おうと思うの。赤と黄色と白、どれがいいかしら」
「白は葬式の色で縁起が悪いし、赤はよく見るから黄色がいいと思うよハニー」
「まったくそのとおりだわ。ダーリンたらなんて頭がいいのかしら！」
「ははは。よせよハニー、照れるじゃないか」

　

　というわけで、数年もすると苺のショートケーキは立派な庭のあるお家に生まれ変わりました。広いお庭は季節をとおして花が咲き乱れ、だんだん本数が増えていく植木が青々と茂っています。ガーデニングがご趣味のかわいい奥様のために、旦那様はせっせと肥料を運び込むのでありました。
　２人はご近所でも評判のおしどり夫婦で一生を過ごし、子どもが１人と孫を３人、それからひ孫４人を授かりました。奥様は８０と７歳、旦那様は８０と９歳で天寿をまっとうしたそうです。