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SS~初恋(みそか)

 
 「……おまえが女だったらなあ」
 
 ※暗い 12禁くらい
 ※>>初恋の望ver
 
 
続き
 
 

 体の中に熱がある。
 火にかけた油みたいなそれは勝手にたまっていって、腹の底でぐつぐつ煮える。吐き出してしまわないと体がうずいて眠れない。
 だから僕は普賢の中に入る。
 ひょんなことから僕らは誰かと裸でつながって粘膜をこすりあってれば熱が抜けていくと知った。手を出したのは僕のほう、出させたのは普賢のほう。
 なのに普賢の肌を知ってから、それは余計にひどくなった。
 普賢を見てると熱がたまっていく。だから僕は毎晩普賢の中に入る。いらない熱を普賢の中に捨てる。
 普賢の、男のくせに薄いなめらかな肌は、触ってると上気して白桃みたいなピンク色になる。噛んだら甘い気がして歯を立てる。中に入るとさらに朱が強まって、桜色。
 普賢の中は気持ちいい。僕が全部溶けていくような気がする。僕と普賢が溶けてひとつになる気がする。僕と僕じゃないものをへだてる線が消えてく気がする。怖い。怖いけど気持ちいい。
「……う……く……っ!」
 普賢はいつも声を殺す。どんなに優しく撫でたり舐めたりしても眉を寄せて身を固くして耐えてる。嫌でたまらないことを我慢してるみたいに。
 だから僕はさっさと終わらせてしまう。中に入って、気持ちいい、動いて出して、気持ちいいよ普賢、おしまいにする。
 体の中にたまった熱を全部吐き出してしまうと、ようやくうずきが収まる。収まってしまえば用はない。なのにどういうわけだか、終わった後も僕は普賢と唇と唇をくっつけあったり舌を舐めたりしたくなる。
 普賢は男なのに。
「……おまえが女だったらなあ」
 そして僕は線を引く。一度溶けた線を引きなおして僕と僕じゃないものを分ける。いるものといらないものを分ける。内と外を分ける。
 明確だとすごく安心する。白は白、黒は黒、灰色は気持ち悪い。うっかり踏んだらべちゃって音がして足の裏にくっついて離れなくなる気がする。
「あーあ。せめて胸があればいいのにな。こう、でっかくてふにふにっとしてさ。きっとやわらかいと思うんだよ、アレは。俺一度でいいから女の胸触ってみたい」
 女の人には触ってみたい。それは本当。熱は女の人を見ててもたまるから。(でも普賢を見てるときほどじゃない)
「せめてもうちょっと食って肉つけろよ。ガリガリ過ぎるんだよ。骨あたって痛いんだよ」
 線を引く。線は防壁だから。線は向こうからこっちを守る。僕じゃないものから僕を守る。だから多いほうがいい。重なって網みたいになるほどいい。
 僕は普賢の背を撫でる。コトが終わるといつも普賢はすぐ寝てしまう。僕が何言っても聞かない。
「ちぇ」
 僕は舌打ちをして、寝返りを打った。
「女とつきあってみたいなあ」
 線を引く。
 
 それから月日は流れて。
 今日、僕は渡り廊下で普賢が告白されてるのを見た。
 僕は反射的に柱の影に身を隠して、そこから一部始終を見ていた。普賢が難しい顔で考え込んだところも。にこりともしないまま、うなづいたところも。
 それからどうしたのか覚えてない。気がつくと僕は部屋に居た。どこをどう歩いて帰ってきたのかも覚えてない。今日は午後から元始天尊様の講義があって、明日はきっと大目玉をくらうんだろうってこともどうでもよかった。
 ほどなくして普賢が帰ってきた。
 普賢はいつになく固い表情をしていた。僕と目をあわせようとしない冷たい横顔を見てるとひどくいらいらした。
 その晩僕らは一言も交わさずに真夜中を迎えた。僕はいままででいちばん熱い体をもてあましてた。
 明日になったら、普賢は僕じゃなくあの子と寄り添うようになる。
 とても横にはなっていられなくて、僕は起き上がった。手探りで普賢に近寄る。普賢は眠っていなかった。
 初めて、自分で引いた線を踏み越えて普賢に触れた。
 油みたいな僕の熱、火種が落ちて燃え上がる。捨てても捨てても熱はこみあげてきて、僕は馬鹿みたいに普賢にしがみついて腰を振った。
 3回目を終えたあたりで体のほうが音をあげて、僕は普賢の中を出た。あれだけ出したのに熱はまだ僕の中にあった。いつもみたいに離れてしまうことができなかった。
「ねえ」
「……」
「どうして今日はそんなにくっつきたがるの?」
「別に、いつもどおりだろ」
 頭が多少はさえて来た。普賢と目をあわせられない。
 明日になったら、少なくとも普賢には、もう僕とこんなことする必要がなくなる。
 いいことだ。
 いいことだから止められない。
 だって僕とおまえは友達だろう?
 生き物はつがいと居るのがいちばんいいんだ。
 知ってるよ、男同士はこんなことしちゃいけないんだ本当は。羊だって雄同士のつがいができることがある。だけど、見つかったらすぐ引き離される。悪いことだからだって父上が言ってた。
 雄同士は子どもが生まれないんだ、秋に生まれる羊の数が減っちゃうんだ。それは悪いことだって父上が言ってたから。
 だから僕とおまえは友達でなきゃいけない。
 なのに普賢は、とんでもないことを言い出した。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ、どうして望ちゃんは僕を抱くの?」
 呆然とした。なんでいまさらそんなことを聞くんだ。僕とおまえはお手軽で気楽な関係、それでいいじゃないか。だって友達なんだから。
「どうして望ちゃんは僕を抱くの?」
「……どうって、そりゃ、気持ちいいからだろ」
「僕は女の子じゃないよ?僕は痩せすぎだから骨があたって痛いよ?」
 なんとかひねり出した答えに普賢は満足しなかった。黙っていたらもう一度くりかえされた。わからない。普賢が何を言いたいのかわからない。
「うるさいな、眠いんだよ俺は」
「寝るのなら離してよ、いつもどおり」
 たまにはいいだろって言ったら強い口調で返された。
「いやだよ、いつもどおりにしてよ。でなけりゃ僕の質問に答えてよ。
 僕は女の子じゃないんだ。そんなに抱きしめられても苦しいだけなんだよ」
 暗闇を透かして普賢がにらみつけてくる。荒い息のまま僕を。
 ああ、そうか。
 嫌だったんだ。
 普賢は嫌だったんだ。僕にこうされるのが嫌だったんだ。
 触ったり舐めたり噛んだり中に入って気持ちよくなったりそんなことしたがってたのは僕だけだったんだ、夢中になってたのは僕だけだったんだ、普賢は嫌だったんだ。
 ――やっぱりそうだったんだ。
 血の気が引いていく。普賢の体はあったかいのに僕は冷えていく。心臓がきゅうっと縮まって体がこわばる。
「だっておまえがいちばん手軽なんだよ」
 開いた口から線が飛び出た。もつれあってくしゃくしゃの縄みたいになった線がするすると僕の口から出て行く。
「いつも一緒にいるし、寝るときも一緒だし。どこをどうすればいいか大体わかるし、中の感触だってわりと気に入ってるし。いまさら遠出してあたりつけて一から口説くなんてかったるくってやってられないんだよ」
 線が全部出てしまうと、冷や汗が吹き出て背中を濡らした。
 長い沈黙の後に普賢は、そう、とだけつぶやいた。
「……普賢?」
 罵声のひとつでも飛んでくると覚悟していたのに、普賢は何も言わなかった。それどころか目を閉じて体の力を抜いた。僕はどうしていいのかわからなくて、普賢の様子をうかがう。普賢は何も言わない。身動きひとつしない。
 なんで何も言ってくれないんだ。心臓が痛いくらい音を立てて、頭がずきずきした。体が崩れていきそう。
 答えてくれよ、普賢。
 なんでもいいから僕に声を聞かせてくれよ。おまえの声を聞くとほっとするんだ。
 普賢に触れる。声が聞きたい。だけど普賢は声を殺す、いつもどおり。
「普賢、普賢」
 熱。油のような僕の熱。冷えて固まってどろどろとこびりついてぬぐってもぬぐっても離れない。
 声聞かせて。答えてくれよ普賢、僕を助けて。
 
 無視された。

 その日から僕は普賢に触れなくなった。
 普賢は特に何も言ってこなかったし、特に態度が変わるということもなかった。あの晩一瞬だけ僕に見せた激情を、なかったことにしたいみたいだった。
 表面上、僕らに変わりはなかった。僕らはあいかわらず友達だった。ただ肌を合わせなくなっただけで。
 告白してきた花冠は、普賢をとても気に入ってるみたいだった。普賢も特に嫌がるそぶりを見せなかった。用のないときはいつも一緒に居るふたりを、兄弟子達はほほえましく思ってるようだった。
 今日も普賢は出かけてしまった。僕も今日、これから出かける。
 前々から打診を受けていた仙女のもとへ。
 受け取った書簡には当たり障りのないことしか書いてないけれど、何を求められているかはぼんやりとわかった。
 僕はそれを丸めて封をすると、机の引き出しの一番奥に投げ込んで上着を着た。
 部屋を出る。
 最近普賢は、よく曖昧な微笑を浮かべる。喜びとも悲しみとも楽しみとも嘲りとも、どれにもとれてどれにもとれない。心底であるようにも見えるし表面だけにも見える。
 微笑が僕と普賢をへだてる。曖昧さに捕らわれて普賢の考えが読めない。普賢がわからない。
 僕らはまだ友達でいるのだろうか。
 

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■ノヒト ... 2007/06/18(月)02:44 [編集・削除]

 桃源郷の呂望は俺だったり僕だったりでせわしない感じ。使い分ける子なのか?萌え。
 話変わるけど、あそこのふーたんはぶち男前だよね!萌え!

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