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SS~ホワイトライアー

 
 「考えてもみろ楊ゼン、夏だぞ?夏!今遊ばずしていつ遊ぶのだ!」
 
 ※アホい 原作準拠かこれ?
 ※ふーたん男の子注意
 ※うい?
 
 
続き
 
 

 
 灼熱の太陽が大気を焦がし、大地には草木が繁茂する。田畑は青々と伸び盛りの作物であふれ、水辺は光り輝き、飛び跳ねた魚のうろこが涼しげにきらめく。
 まごうことなき夏である。
 何もかもが美しく豊かで、すべてが順調。だがまだ挙兵には遠い現状において、とりあえず周軍は、やることがなかった。
 ひまになるとどうでもいい案が議論の遡上にのせられるのが周軍の通例であり、あろうことかそれが満場一致で通ったりなんかする。まあ、筆頭がはっちゃんこと姫発で、その補佐兼軍師があの太公望と来た日には、「あさっての夏祭りは仙界と合同な!」とかいう、どう見てもついさっき思いついたばかりの案にゴーサインも出ようというものだ。
 お気楽極楽なメンツの中で、唯一眉をしかめた楊ゼンを前に、まさにその軍師様が拳握り締めて力説していた。
「考えてもみろ楊ゼン、夏だぞ?夏!今遊ばずしていつ遊ぶのだ!
 普段せっせと働いているわしらにも軍にも民草にも、そして崑崙の仙道にもひと時の憩いがあってもかまわんではないか。いや、あるべきだ。ないと可哀想だ!そうは思わんのか!」
「せっせと働いてるのは主に僕です」
「うむ、おぬしの働きは見事なものだ。さすがは天才と名高い玉鼎の直弟子よのう。とはいえそんなおぬしにも息抜きは重要であろう。働きすぎて体を壊したとあっては軍の士気も下がるし、玉鼎にも申し訳が立たぬ」
 立て板に水の如く返されて、楊ゼンは拳を握った。いやみを言ったつもりがあっさりかわされ、あげく師匠まで持ち出されては反論できない。
「それになー、夏だぞ夏。夏祭りだぞ?わしちょっと憧れておったのだ。夏祭りの思い出とかいうやつに。ほらわし、仙界で枯れたジジイ相手に修行と禁欲の灰色の青春送ってきたからな。
 かわいい女の子と連れ立って屋台を回って買い食いしたり、河川敷で花火を見たり、お化け屋敷に入って女の子が怖がってきゃーとか言いながらわしに抱きついたりとか、そんなグラフィティ真っ青なあおッぱるを味わってみたいのだ!」
「……なんで脳内背景が普賢師弟ばっかりなんですか?」
「み、身近にかわいい女の子がおらぬからだっ!」
 でもセン玉さんはかわいいですよね?と武吉がスープーに話しかけ、苦笑いされた。姫発は現地調達すればいいんじゃね?とよけい場の混乱するようなことを言うし、天化は既に早く終わんねーかなモード。ナタクは最初から最後まで理解しかねると言わんばかりに宙を見ているし、武成王は兵の指導を名目に体よくサボり、セン玉・土行孫コンビは祭りで手をつなぐか否かで揉めている。いつもどおりグダグダな会議であった。
「下山許可は略式ですよね?」
「話が早くて助かるぞ」
 ため息交じりの返答に、我が意を得たりとばかりに太公望はうなづいた。公式に崑崙から仙道が大挙して押しかけてくれば、金傲を刺激することにもなりかねない。そんなことにならないように、非公式に夏祭りの情報だけ仙界に上げて、自由参加という形式にしておくのだ。
 それに、そうしておけば、太公望の意中の相手を呼びつけやすかろう。現十二仙筆頭と仙人界きってのアホ道士が恋仲なのは公然の秘密だ。知れ渡ってるなんて知らないのは本人達ばかりである。
 封神計画が始まって5年、少なくともその間ふたりに逢瀬があった様子はない。なまぐさ道士太公望に心身ともに限界が来ているのは火を見るより明らかだった。
「はいはい、わかりました。午後イチで元始天尊様に速報あげておきます」
「よし!んじゃ今日の会議はこれで終わりな。旦に頼んで出店者リスト見せてもらうか」
「あ、僕も見てみたいッス」
「僕も僕も!」
 わいわいきゃっきゃと出て行く一行の背中を眺めて、正直たるみ過ぎてやしないだろうかと楊ゼンは心配になってきた。姫発の終了宣言と同時に姿をくらました太公望も気になる。
『ホント周は僕がいないとダメなんだから……』
 ちらかった机の上を片付けて、それからゆるくなっていた髪を結いなおした。ついでに長衣のすそもチェックする。乱れなくそろっているのを確認して安心した。服装の乱れは心の乱れだと玉鼎が言っていた。あさってはいつもより更に行き届いた格好をせねばなるまい。
 なんだかんだ言って、楊ゼンも師匠に会いたかったのだ。
 
 夏祭り当日、日が落ちるに連れてぞくぞくと黄巾力士が舞い降りてきた。まったく崑崙には暇人が多い。そしてそれをなんの問題もなく受け入れる周の民は懐が広すぎるんじゃないかと楊ゼンは思う。
 王宮の廊下から大通りを眺めていると、しだいに高まっていく祭りのざわめきがかがり火を揺らして、道行く人々の喜びに火照った頬を照らしているのが見える。
 久しぶりに師匠に会うせいか、自分が少し緊張しているのがわかった。さっきから意味もなく長衣のすそをなおしてみたり。
「おい、楊ゼン」
 突然背後から声をかけられて、飛び上がらんばかりに驚いた。あわてて振り向くと、そこにはほっかむりをしたまま物陰に半身を隠す軍師の姿があった。
「……今度は何をかっぱらってきたんですか?」
「失礼な。借りてきたのだ。事後承諾で」
 そう言うと太公望は抱えていた紙包みをずいと差し出した。勢いに押されて受け取ったそれは銀糸がすきこまれた瀟洒な包みで、香がたきしめられているのかやわらかな香りが漂ってきた。
「これは?」
「ふっふっふ、東洋の祭服でのう。浴衣という。手に入れるのに苦労したぞ」
「はあ……」
 がさがさと開いてみて、楊ゼンは息をのんだ。紺の地に花柄が描かれた清楚な衣だった。すっきりとのびやかな曲線で描かれたあさがおの花が、鮮やかに咲き誇っている。
「これは確かに美しいですね。師叔にまともな審美眼があるとは驚きです」
「おぬし何気にひどいこと言っとらんか?まあよい、頼みを聞いてくれれば水に流してやろう」
「何ですか?」
 いやな予感がして楊ゼンは半身になったが、太公望は気にせず耳打ちをした。
「もうすぐ普賢が降りてくるでのう。おぬし、これをあやつに着付けてくれ」
「え!?僕がですか!」
「わしにやれというのか?見回りに忙しくてそれどころではないわい。大体野郎の着付けなんぞして何が楽しいか」
 投げやりな言葉とは裏腹に、太公望は真剣そのものだった。断ったら握り締めた打神鞭で何をされるかわからない。
「す、師叔、ひとついいですか?」
「なんだ」
「何故普賢師弟にこれを着せるのですか」
「夏祭りには浴衣と相場が決まっている」
「何故着付け役が僕なんですか!」
「普賢とは顔見知りであろう。おぬしなら説明書読んだだけですぐマスターするであろうし、適任なのだ」
「と言いますか、これ、女物でしょう!?」
「えーい、黙っとればわからんわ!ひとつどころかみっつ聞きおって!ちゃっちゃと行け!」
 説明書を懐にねじ込まれ、突き飛ばされててどやしつけられ、楊ゼンはほうほうのていで教えられたとおり控えの間へ向かった。
 来客用の調度品の間で所在無く椅子に座っていると、ほどなくして新たな黄布力士が着陸する音がし、普賢が入ってきた。
「こんばんは楊ゼン、久しぶりだね。望ちゃんが僕のために祭服を用意してくれたって聞いてきたんだけど」
 屈託なく微笑みかけるその人に罪悪感たっぷりで返事を返す。相変わらず人を疑うということをしない人だ。不思議そうに首をかしげた普賢は、卓の上に広げられた浴衣に目を留めた。
「ひょっとしてこれかな?」
「はい、そうです。単純なものですがコツがいるようですので手伝うようにと言われました」
「きれいだねえ。東の国ではみんなこんな衣装を着てるのかな」
「……だといいですね」
「まずは説明書を見せてくれないかな。わからないところがあったら聞くよ」
 楊ゼンはうなづいて説明書を差し出す。興味深げにそれを眺めていた普賢は、やがておもむろに服を脱ぎ落とした。なめらかな素肌がおしげもなくさらされて、楊ゼンは決まりが悪くなって目をそらした。
 普賢は気づかないまま袖を通すと、図面を見ながら着付けに挑戦しはじめた。どうにか着込めたものの帯を巻くのは匙を投げたので、これには楊ゼンが手を貸す。お互い初めて同士の着付け大会は、気がつくと30分近く経っていた。
「どうかな?」
「お似合いですよ」
 お世辞でなく楊ゼンはそう答えた。色白の普賢に、紺の着物はよく映えていた。帯を高めにとったせいで、ほっそりした体がさらに華奢に見える。黙っていれば少女だといっても通るだろう。なかなかの出来に楊ゼンまで気分がよくなった。
「望ちゃん、どこかな。もうお祭り始まってるよね」
「この先で待ってると思いますよ。案内しましょう」
 言いふくめられた通り、裏口を通って中庭へ出る。はたしてそこには太公望がいた。ちゃっかり浴衣(男物)を着込んでいるのを見た瞬間、楊ゼンはとほうもない脱力感に襲われた。
『浴衣でデートしたかったんですね、師叔……』
 そういえばあおッぱるがどうのとか言ってたなあ。
 祭りに出る前から疲弊しきった楊ゼンを尻目に、太公望の目は100万ワットで輝き、背景はイリュージョン、うっすら涙ぐんでさえいる。駆け出そうとして直前で理性が勝ったのか、ぎこちなくゆっくりと近づいてくる。
「うむ、ご苦労だった。では周の祭りを視察に行くとするかのう。楊ゼンもしばし自由にするとよいぞ」
 普段よりさらに偉そうな口調で視線はあさって。無意味に咳払いなどはさんだりなどしてわかりやすいことこのうえない。さっきから左手が不自然にぐーぱーしているのは普賢の手を握りたいのだろう。
 何はともあれ自分の役目は終わった。言われたとおり、自由にさせてもらうことにしよう。師匠に会ったら全力で愚痴ろう、そう心に決めてきびすを返したその時だった。
 
「あれ、普賢サン?なんで女装なんかしてるさ」
 
 黄家の次男坊が空気読まない発言をしたのは。
 運悪く、彼は天祥を寝かしつけるために中庭を横切っていた。さらに運の悪いことに、彼は思ったことはそのまま口に出す性分だった。
 凍りついた空気の中で、じっとり湿った視線が太公望へ向けられた。
「……これ、女物なの?望ちゃん……」
 血の気の引く音が聞こえた。真っ青になったまま太公望が後ずさる。
「どういうことなのかな?きっと君のことだからこれも深遠な計画の一端だと思うんだよ。でも僕頭の悪いからよくわからないんだ。だから僕にも理解しやすいように説明してくれる?」
 普賢の言葉は冷たく、青いオーラが吹き上げている。顔は微笑んでいるのにブリザードが吹きつけてくるようだ。対する太公望は全身から脂汗を吹きだし、しどろもどろで弁解しようとするが意味のある言葉にすらなっていない。
 しばらく無言のにらみ合いが続く。正確にはにらんでいるのは普賢のほうだ。相対する太公望は袋小路で蛇ににらまれたかえるの如く。ずいと、普賢が踏み出した時、何かが太公望の許容量をはみ出してしまった。
 
「っだー!仕方なかろうが!わしだって夏祭りで女の子とイチャイチャしてみたかったのだ!
 でもそんな子おらんから、とりあえず知り合いで一番女顔のおぬしを女装させてお茶を濁そうとだな!」
 
「………………」
 
 楊ゼンは観念し、天化は何もわかってない天祥を抱え上げた。全力疾走の体勢に入る。
 二人は知っていた。敵を前にしたとき、太公望の知略は刃物よりもさえざえと冴えわたることを。同期で親友であるこの人を前にしたとき、彼はいっそ天晴れと呼びたくなるくらいに愚かになることを。
 核融合が来る。間違いなく。
 ああ、せめて師匠に会ってから、いやそもそもこんな馬鹿な頼みなどもとから却下してしまえばこんなことには……。楊ゼンはきつく目を閉じ、そして覚悟した衝撃が来ないことをいぶかしんで薄目を開いた。
「……あー……えっと……普賢さん……?」
 普賢は石のように押し黙っている。ぴくりとも動かない普賢に、太公望がおそるおそる声をかけていた。
「帰る」
 短くそう言い捨てて、普賢は着替えを置いてある部屋目指して歩き始めた。
「普賢……」
 呼び止めようと、その背に向かって伸ばした手が無視されて宙をさまよう。
 カラコロと、音だけは軽快な下駄の音。白い素足の下からちらりとのぞくのは下駄の表の飾り彫り、浴衣とあわせたあさがお模様。それが暗い廊下を遠ざかっていく。
「うわあああああん!待ってくれ普賢んんんんんん!わしが悪かったからあああああああああああ!!!」
 絶叫しながら走り出した軍師の姿に、途方もない疲労を感じながら、とりあえず命は助かったらしいことに安堵する。
「……あの人、なんでたまにすごくバカさ?」
「……たぶん、あれが、地なんじゃないかな……」
 もう今日は師匠に甘えまくるもんね。明日という日を迎えるために!綿菓子だって買ってもらっちゃうもんね!
 そう心の中で、強く強く誓った楊ゼンだった。
 

COMMENT

■のひと ... 2008/10/28(火)02:24 [編集・削除]

浴衣の出所>竜吉公主のお付の碧雲ちゃんの。3人で浴衣着ようねって言ってたのに大弱りです。結局公主のお古を着て出かけました。
 
下駄>浴衣にあわせて望ちゃんがへそくりで買い込んできました。周は軍師に給料出してるのか正直謎だ。桃代で相殺されてたりして。
 
天化が浴衣知ってる>お母さんが持ってたからってことにしといてください。かしちゅわんは絶対浴衣似合うんだぜ。
 

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