「またつまらないことを考えているね」
※12禁くらい
※らぶらぶ、ちょい電波
この中には何がつまっているのか。
薔薇か釘か、はたまたクレヨンか。
どれも似合う気がするし、どれも違う気がする。
この薄さ、この細さ。
人のことを言えた義理ではないが、それでも肉でできた器官が配置されているとは思えない。何かもっと別の、銀色の優雅なものがつまっているといわれた方がしっくり来るのだ。
普賢の腹を人さし指でなでる。線を描くように動いた指先がへそのあたりで止まった。かすかな笑い声が聞こえ、白い肌が波打つ。
「くすぐったいよ望ちゃん」
生返事をした伏羲はそのまま腹をつつく。やわらかくしなやかな感触が返ってくるばかりだ。
本当に、何が入っているのだろう。
このシミ一つない肌の下に、汚液と腐汁にまみれたはらわたがあるとは誠に信じがたい。好奇心でむずむずして伏羲は普賢の腹に顔をうずめ、清潔でどこか甘い香を胸いっぱいに吸った。傍からは甘えているように見えたかもしれない。
例えば自分の中にあるのは、過去の様々な人格で、ひとつひとつに太公望とか王天君とかラベルが貼られていて、記憶だの能力だのしがらみだのがぐじゃぐじゃにからみあって解くこともできない。
入れ物はこれしかないから、それらは常に口角泡を飛ばして占有権を主張しあっている。もう根元で交わってしまっているのに、まだ自分たちは自分たちなのだと信じ込んで、喚きあう声が耳鳴りとなって伏羲の聴覚を阻害している。今この時も。
ああ、だからわしの体温は高いのか。皆を溶かしてどろどろにして境目をなくすために。
「またつまらないことを考えているね」
伏羲は緩慢に頭を動かし、声の聞こえた先を向く。
「何故わかった」
「そんな気がしたから」
「おぬしは超能力者か」
「仙人だから広義の超能力者ではあるね」
キミが僕に甘えてくるのは不愉快なことがあるとき。歌うようにそう言うと普賢は小首をかしげた。
「違った?」
言い当てられたのがなんとなく悔しい。腹に頭を擦り付けてやると身をよじって笑われた。
「くすぐったいよ、やめてったら」
「嫌だ、やめてやらん」
「もう、やめてってば望ちゃんったら。魔法の呪文を言ってあげるから」
「ほう。どんなのだ、変身でもするのか」
ようやくくすぐりの魔の手から解放された普賢は、ふうわりと穏やかな笑みを浮かべて囁いた。
「僕はキミが好き」
効果は抜群だったらしい。鳩が豆鉄砲でも食らったような顔を見てしまったものだから、普賢はつい笑ってしまった。
「僕はキミが好き。僕はキミが好き」
体を起こし、言葉を重ねるたび、おぼこのように頬を染めていく伏羲に身を寄せる。
「わかる?僕は、キミが、好き」
「い、言われんでも…わかっておるわい!」
「じゃあ悩まなくていいよね。僕はキミが好きなんだから」
「……」
かなわない、手のひらの上だ。伏羲は軽く普賢をにらんだ。顔どころか耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
「望ちゃんの肌、熱いね。ドキドキしちゃう」
「…おぬし、いいかげんにせいよ」
せめてもの意趣返しに、伏羲は普賢を押し倒した。上等な寝台に軽やかな笑い声がはじける。
「おぬしのせいで悩んでいるのだ」
「じゃあ僕居なくなっちゃうといい?」
「そうだな、いっそ出て行け。わしの中から」
「キミの中になんて居ないよ。僕はいつもここにいる」
「ならばわしの一部になれ」
「そんなのイヤ。君が見えなくなっちゃう」
「ではこれまでどおりか」
「そう、今までどおり」
「さすればおぬしを抱くよりやりようがない」
「どうぞお好きに、愛しい人よ」
うっとり微笑む恋人と、つながるために深く口づけた。
舌と舌を絡み合わせ、歯列をなぞり、唇を食みあう。ひんやりしていた普賢の肌に、熱が灯りしだいに高まっていく。合わせた肌の間から、流れこんでくる確かな存在感。
耳鳴りは相変わらずするけれど、このぬくもりがあるかぎり迷うたりはしないと、そう思えた。
■ノヒト ... 2011/01/17(月)06:11 [編集・削除]
「私の体脂肪率は53万です」