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SS~しち*しち

「伏羲おにいちゃん、ケッコンして?」

 ※リクエスト 普賢に興味のない伏羲とヤンデレ普賢
 ※現代 伏羲と望が別人
 ※ふーたん幼女ちゅうい
 ※死んでる

続き

「伏羲おにいちゃん、ケッコンして?」
「大きくなったらな」
 
 末弟の友人、普賢のかわいらしいお願いにはそう答える事にしている。他意はない。そのたびに不服そうに頬を膨らませる仕草が保育園のスモックによく似合っている。
 というわけで望よ、その娘はあからさまにわし狙いだ。あきらめて毎日いっしょに帰ってくるのは止めなさい。
 
「前もそう言ったよ」
「仕方ない、小さいからな」
「大きくなったらいいの?」
「考えておこう」
「わかった」
 
 身をひるがえした彼女は申し訳程度の我が家の庭から躊躇なく通りへ飛び出し。

 キキッ ドン!

 我が兄弟はそろって普賢の両親から塩を撒かれるはめになった。
 翌日、大泣きの末弟を保育園行きバスに乗せ、わしは朝から重い気分で校門をくぐった。雑談に興じるクラスメートの間をすり抜け、自分の席で一息つく。
 何が「わかった」のか。わしの煮えきらぬ態度への、幼な子なりの蹴りのつけ方なのか。だとしたら後に続く言葉は「もういい」なのか。そうもあっさり見限らんでもよいではないか。
 お察しの通り普賢はわしの守備範囲外であり、時間を巻き戻したとしてもわしが彼女に指輪を送るなど断じてありえんのだが、やはり、目の前でああも衝撃的なことが起きると、もっと別な方法はなかったのかと後悔に似た感情が押し寄せるわけで。
 肺が空っぽになるまで長いため息を吐いていると……隣からなまっちろい腕がにゅっと突き出し机の角を叩いた。

「伏羲おにいちゃん、ケッコンして?」

 聞こえた文の意味を理解しないよう努めながら腕から肩、肩からうなじ、そして顔へ視線をすべらせていくと、たった今まで友人とだべっていた隣の席の女生徒が、どろんと濁った目でわしを見つめていた。

「ケッコンして?」
「いやちょ、と、違う!待て天化、これは誤解だ!」
「伏羲おにいちゃん、ケッコン」
「正気に戻れ蝉玉、おい!」
「ケッコン」

 覆いかぶさってくる蝉玉とうつむいたまま拳を握り締めている天化と、どっちの頭をはたいてやろうかと考えた瞬間、蝉玉の体から力が抜ける。すこし遅れて威勢のいい音を立てて教室前側の扉が開いた。

「はーい、起立、礼、着席んv 今日は小テストよーんv」

 担任の歴史教師がB6相当のコピー用紙を配り始める。突っ立ったままの生徒たちは、あわてて自分の席に戻りシャーペンを取り出した。

「先生、わしのテスト用紙がないんですが……」
「あなたにはこれんv」

 担任はにっこり笑うと別の紙を取り出した。八つ切画用紙には青いクレヨンで。

『こんいんとどけ ふっきおにいちゃん ふげん』

 画用紙を放り出し、わしは保健室にダッシュした。仮病を使ってベッドに潜りこむ。
 布団を頭からかぶり状況の整理を試みるに、認めたくない、認めたくないが、わしの周りの女性へ普賢が乗り移っているのか。
 あの「わかった」は、「わかった、じゃあ大きくなる」、の略だったのか。
 背筋を氷がすべり落ち、肺が縮まる気がした。
 全部悪い夢にしようと目を閉じる。これが夢なら、すっきり爽やかな寝覚めが待っていてくれる、はず。いや、後味最悪でいいから夢オチってことにしてくれないか神よ。それにしてもさっきからジョキジョキと、なんの音だ。
 カーテンが開く気配がした。
 布団の隙間からおそるおそるのぞくと、自慢のロングヘアをばっさり切った保健室の主が立っていた。
 
「伏羲おにいちゃん……」
「うがああああああ!!」
 
 わしは彼女をなるべく紳士的に押しのけ、保健室を飛び出すと美術室でまにあわせのそれをかっぱらい、行く手を邪魔する見知らぬ女性陣と目が合わぬよう全力をあげて家に逃げこんだ。
 扉が壊れそうな勢いで叩かれている。あ、鈍器を使い出したぞ。さすが幼児、加減を知らぬ。
 わしは今盗んできたばかりの石膏像をリビングの机にでんと置くと、玄関扉に向かって叫んだ。

「人に迷惑をかけるな! 取りつくならこれにしろ!」

 ややあって、玄関が静かになる。
 固唾を呑んで見守っていたわしの背後で、くすっと幽かな笑い声があがる。しぶしぶ振り向けば、あの日と同じスモックの普賢が机の上に座っていた。
 
「で。どうするのだ、兄者」
「どうって、様子見するしかないだろうが……」

 我が家の次男、家事全般を担う闇の権力者、王奕が望に食事用前掛けを着せながら聞いてきた。んなこと言われんでもわかっとるわい。何故いつも長兄であるわしより偉そうなのだ。あ、カイワレダイコン山盛りはかんべんしてください。
 
「四十九日過ぎてこのままなら寺に持っていく」
「そうか。どちらにしろ面倒はおまえが見ろ。私にはただの石膏像にしか見えん」
「何度も言うな。わかっとるわい」

 わしはデザートのプリンを普賢に食わせてやりながら舌を出す。
 機嫌よくプリンをほおばる普賢には両腕がない。
 他になかったからとはいえ、ミロのヴィーナスにしたのは失敗だったかもしれんと、わしはちょっと後悔するのだった。

COMMENT

■ノヒト ... 2012/02/08(水)00:33 [編集・削除]

当然成仏するはずもなく、10年後普賢は望が譲り受けましたが伏羲の胃痛がひどくなっただけと言うことです。

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