「60点かな」
※現パロ同棲ネタ Nさんおたおめ!
「わしに毎朝味噌汁を作ってくれ普賢!」
両の拳でテーブルを叩く。砂糖壷のふたがかちゃんと鳴った。
だけど向かいに座る普賢は、涼しい顔でメロンソーダを味わっている。
「60点かな」
天使の笑みで今日も振られる。テーブルにつっぷす望を置いて、普賢は席を立った。手にした注文表を振る。
「僕が払っておくよ。晩は望ちゃんのおごりね」
返事をする気も起きず、望は視線だけで午後の講義に出かける普賢の後を追った。ゆったりしたズボンからのぞく、くるぶしがきれいだなあなんて思ったり思わなかったり。
後姿が雑踏に消えたころ、望は携帯をのぞいた。
「次は歴史か」
一般教養の講義は人文系に詳しい望にとってはおままごとだ。行くだけ行って出席を取り終わった隙を見計らい、大教室から抜けた。すなおに座っていたところで文殊教授の声は催眠音波だし。
桃の並木道を歩き、望は学生寮区へ向かった。
二つ上の幼馴染、普賢を追って入った崑崙大学。職員込みで万に届くマンモス学校だ。成績に基づき全力でえこひいきする、ある意味男らしい校風が売りである。
物理学の分野で華々しい成績を収める普賢は学生の身でありながら既に予算が割り当てられ、小規模ながら研究室まで与えられている。各種機材も使い放題。噂によると機械工学の太乙教授からプロジェクトメンバーにと熱烈な勧誘を受けているらしい。
そんな普賢に大学が提供した寮は、風光明媚な3LDK最上階。システムキッチン、セパレート、掃除夫付きでルームサービスも取れる。寮内には大浴場と食堂、1階のコンビニはもちろん24時間営業。学内の最も奥まった場にある自然公園の中、噴水したたる緑に囲まれ、庭には四季折々の花が咲く。
対して入学直後の望にあてがわれた寮は。
(「高校の内申もっとがんばればよかった!」)
築100年超、もはや骨董品の域。三畳一間のリアル長屋、あるいは独房。窓はある、かろうじて。メンテはとうに放棄されくすみきり、開けることは叶わないが。以前、なんとか開けようと試みたところ、みしりと音がしたので放ってある。
高校生活を、高度に政治的な配慮で言うところの、独学の可能性追求と効率化の研鑽に費やした結果、望の内申はボロボロだった。志望校を崑崙大学にすると宣言したら、担任が鼻で笑ったくらいだ。
(「お情けで卒業させて貰ったようなもんだしの……」)
その担任は望の合格通知を見て泡を吹いて倒れた。だがしかし、崑崙に来て望は思い知った。センター試験で満点程度じゃ、この大学ではまだ小粒だと。
せんべい布団に転がって天井を眺める。
「一緒の部屋に住みたいのう……」
甘い夢に反して現実は厳しい。花形の普賢の周りにはいつも人がいる。幼馴染特権が行使できるほど、世間は甘くない。今はまだ普賢のほうが望を優先してくれるけれど、ぼやぼやしているとそれも危うくなりそうだ。
前途は暗い。望は顔を押さえ、ため息をついた。うとうとしていたらしい。
外は既にまっくらだ。飛び起きると携帯がチカチカ光っていた。
『第13食堂で待ってるよ』
普賢からだ。着信は1時間前。血の気が引く。
とるものもとりあえず財布だけ持ってダッシュ。たどりついた食堂で、まばらな人影の中から普賢を見つける。
「遅くなってすまん」
「いいよ。望ちゃんだし」
デザートを前に優しく微笑んでくれる。その裏で自分の評価はどうなってるのやら。席についた望は何度目かわからなくなった問答をくりかえす。
「普賢」
「何?」
「好きだ」
「知ってる」
「一緒に住みたい」
「それも知ってる」
だから60点なんだよと普賢はプリンを口に入れる。
「三畳一間にふたりは厳しいんじゃない?」
「わしがおぬしの寮に住みこみで家政婦をする。どうだ!」
「50点だね」
下がった。
なんでだと望は頭を抱える。
「掃除夫はもう居るし、食堂もコンビニもあるよ。家政婦なんかしてたら、望ちゃんの学業に支障が出るじゃない」
「ば、バランスのとれた手作り料理を……」
「栄養士付きのシェフにかなうのかな」
撃沈。いつもどおりつっぷす望に普賢は手を止めた。頬杖をついてのぞきこむ。
「望ちゃん、入学してそろそろ一ヶ月だね」
「そうだな」
「そろそろ学内の地理にも慣れて来たんじゃない?」
「無駄にだだっぴろいのう、ここは」
「何か気づくことはないかなあ」
そう言ったきり普賢は意味深に笑ってだんまり。プリンをつつく。いぶかしんでいた望が眉を開いた。
環境重視な今の寮は奥まった場所にあり、研究室から遠い。
「普賢」
望は身を乗り出す。
「一週間だ。わしが研究室近くの空き部屋を押さえてみせる」
「期待してるよ」
普賢がスプーンでプリンをすくい、望に差し出す。とろけるように甘かった。
■ノヒト ... 2013/09/08(日)19:16 [編集・削除]
光陰矢のごとし。
遅くなったけどおたおめでーす。