「死なないよな?」
※修行時代?
※猟奇系18禁、ぐちゃどろフルコース。拷問?
※自己責任でどうぞ
↓
「……ころんだの?」
「ころんだの」
もう何度もくりかえした言い訳。
雲中子さまはしかめつらで僕のケガを診察する。
「あのさ普賢。いくら君が治癒系の術に秀でてるといっても、限度ってものがあるんだよ?」
「はーい」
ぼくは子どもらしい明るい声で返事をする。
まるで雲中子さまの言うことがちっともわからないみたいに。「望ちゃん、ただいま」
部屋に戻ると、望ちゃんは読んでた本から顔をあげた。
黒曜石みたいな瞳が心配そうに揺れる。
「見て見て、雲中子さまのおくすりってやっぱりすごいんだねえ」
僕は道服の腕まくりをして、包帯をはずすと望ちゃんに見せた。
今朝まであったいく筋もの赤黒い痕はきれいさっぱり消え去っている。
「ほんとうだ。行って良かったな」
「うん」
「怒られたか?」
「ううん、特に何も」
「そうか」
望ちゃんはほっとしたように僕を抱きかかえた。
声をひそめて、望ちゃんが僕に聞く。
「ばれてないのかな」
「わかんない。何かあるとは感づいてるみたいけど」
「だったらなにか言ってくるだろ」
「そうだね、ふしぎだな」
「もっと気をつけてしなきゃな」
「できるの?」
「……自信ない」
正直な言葉に僕はつい笑ってしまう。
すねたふうな望ちゃんの頬にキスをして、僕はその胸に顔をうずめる。
望ちゃんの体温は僕よりちょっとだけ高くて気持ちいい。
「シャワーね、出しっぱなしのほうがいいかも」
「そうだな、音が響くから」
望ちゃんは身をかがめてベッドの下から箱を引き出した。
文入れがふたまわり大きくなったくらいの漆塗りの木箱はこの部屋の備品で。
僕らは勝手におもちゃ箱と呼んでいる。
ふたをあければ、中にはゴチャゴチャと雑多な。
ハサミ、フォーク、かんざし、縫い針、万年筆、カッター、ヘラ、アイスピック、彫刻刀。
どれもピカピカでどこか鉄錆くさい。
望ちゃんの手が箱の中を探る。
カチャカチャと硬い音がひびくたびに、僕はゆっくりと体の芯がしびれていく。
その手に口付けたくてたまらなくなる。
「今日はこれで遊ぼう」
そういって彼がおもちゃ箱から取り出したのは、果物ナイフ。
ちょっと切れ味が悪いところが望ちゃんのお気に入りなんだ。
僕はうなづく。
心臓がドキドキして、頭がぼうっとして、何も考えられない。
望ちゃんはおもちゃ箱を片付けると立ち上がった、僕の手を引いて。
浴室へ。
浴室へ僕をいざなう。きっかけはいつも、とてもとても些細なこと。
「望ちゃん、ほら見て見て!」
昇山して、2年目くらいだっけ。
一日の修行を終えて、自室へ戻って顔をあわせるなり、僕は望ちゃんに小刀を差しだした。
キミは最初かなり慌てふためいて、だけど僕に害意がないことに気づくと首をかしげながら刃物を受け取ってくれたね。
その頃僕とキミはぎこちないなりにうちとけあって、いっしょの布団で寝るようにもなった。
キミは相変わらず暗い瞳で、もくもくと修行をこなしていて、僕はキミに追いつくことばかり考えてた。
「僕ね、治癒系の術が使えるようになったの。
ちょっとしたケガくらいならすぐ治せるようになったんだよ!」
だからキミが苦手な術が使えるようになったことが、とても誇らしかったんだ。
すごいじゃないかってキミが目を丸くして驚いたのがとてもうれしくって。
つい。
「ほら、ね?」
キミの手をとって、キミの手ごと刃物をとって、僕の小指を傷つけた。
ぷつりと肉が切れる感触、わずかな傷口からもりあがる赤黒い液体、痛み、かすかな鉄錆の臭い。
でも僕が腕をひとふりすると、すべて跡形も残さず消えた。
「……望ちゃん?」
期待してた反応はなかった。
望ちゃんは岩のように凝り固まって僕の小指を凝視していた。
もういちど。
今度は確かにキミの意思で、僕の手をとり小指に切りつける。
「ッ!望ちゃん?」
反射的に僕は腕を振り、痛みを止める。
見た目よりずっと深い傷はすぐに口を閉じた。
なにするのと言いかけて、僕は凍りついた。
望ちゃんは嗤っていた。
唇をうすくねじまげて、暗く、暗く。
黒曜石みたいな瞳だけが歓喜に見開かれている。
冷たく輝く宝石のような望ちゃんの瞳を見て、僕はわかってしまった。
僕が、彼の背を、押したことを。望ちゃんの欲求は日に日にエスカレートしていくから、僕は必死になって修行した。
さいわい僕にはこっちの方面が向いていたようで、治癒系の術は次から次へと僕の身にすりこまれていった。
やがて意識することなく、少しの集中と多大な仙気とが、そいだ肉を盛りかえし、欠けた臓器を復活させるようになり、つまり僕は、限りなく不死に近い体へ。
キミがなんの迷いもなく、血と肉に耽溺できる体へ。「ふぁ、あ、ん……望ちゃん、望ちゃん……」
浴室、望ちゃんは僕の体で遊ぶ。
シャワーは出しっぱなし、音が外に漏れないように。
「痛い?」
「いたい、いたいよう……あ……あ……!」
「痛いの気持ちいい?」
「……うん、きもちい、い、いたいの好き、いたいの、きもちいい……うあ!」
背中、肩甲骨の辺りにナイフをつきたてられて、僕は嬌声をあげる。
望ちゃんはそのままぐりぐりと、傷口を背骨のほうまでひっぱっていく。
「ひ……いい……いいよお……イっちゃ、う……」
刃先がカツと脊髄にあたって、冷たい感触が僕の中から消える。
かわりにあたたかな手が傷口に押し入り、バリバリと音を立てて、背中の皮膚がはがされる。
「や、ああああッ!」
感じるのは苦痛じゃなく目のくらむような快楽。
痛みを快感にすりかえる脳内麻薬が、ドクドクあふれて神経を冒している。
もう一度、反対側の肩甲骨から、同じように背骨まで。
はりついたままの組織を刃先でそぎ落として僕の背中が丸裸になる。
「シャワーだしっぱなしっていいな」
望ちゃんのうれしそうな声。
「血が流されてくから、中がよく見える」
全身を打つ水が、僕の体をつたって赤く染まっていく。
望ちゃんは僕の背骨にキスをして肋骨の隙間から肺をなめた。
くすぐったいようなざらついた感触、ちいさな圧迫と軽い呼吸困難。
なまぬるい浴室、血まみれの浴槽、脈打つ臓器をまさぐるキミの手、シャワーの音、くらくらする、鉄錆の臭い。
「……望ちゃん、望ちゃん」
「ん?」
「もっとして、痛いの……もっとしてて」
「ん」
突き刺さるナイフ、切れ味が悪いから、力まかせにむりやり、ブチブチと筋が切れて。
「かはっ!あ、ぐ。あ、ああ!」
理性とか、そんなもの、なんの役に立つんですか、この状況で。
ただひたすら満たす僕らの欲。
「普賢」
望ちゃんが僕を抱きなおす。
向かいあって深い熱い口付け、それから目元に突きつけられる刃物。
「いけると思う?」
「わかん……ない……でも……」
「でも?」
「……だいじょうぶ……だと思う……」
ぶつ。
躊躇なく差し込まれた。
視界の半分が消えて、ほとばしる熱が、熱が。
「―――ッ!」
気持ちよくて、脳髄が焼け落ちるような快感が。
赤いかすみのかかった視界の向こうで、望ちゃんがえぐりとった眼球を刃先からはずして口に入れるのが見えた。
僕の視線に気づくと望ちゃんはそのまま唇を寄せてきて、僕の口の中に体液にまみれたぬるぬるした丸いものを、そのままふたりでひとつの飴玉をなめるみたいに。
のみこみきれなかったなまぬるい液体がのどにからんで僕はむせた。
呼吸が落ち着くまで僕を抱きしめて、ふたりでなめてた飴玉を望ちゃんの舌がすくいとる。
何かを飲み込む音が聞こえた。
「……普賢」
声が嗤ってる、うれしそうに。
「ぼぉちゃん……」
望ちゃんがキスをくれる。
頬に、額に、まぶたに、唇の熱さが僕を恍惚とさせる。
「ぅあ!」
空になった眼窩に望ちゃんの舌が入ってくる。
内側をじかに舐められて体が痙攣する。
「ひぃ、あ、ぁ、あは、ぁ、んあ……」
ねち、ぐじゅ、ぴちゃ、くちゅ、ねと、じゅる、じゅるじゅるじゅる。
粘液をすする望ちゃんの舌の動きにあわせて、僕の体が跳ねる。
「ぼ、ちゃん……い、いい、の……いい……」
「普賢」
べろりと僕の顔を舐めて、それから触れるだけのキスをたくさん。
耳たぶを甘噛みされて、ああそのまま食いちぎってほしい、ささやくキミの声。
「……中に出していい?」
何度もうなづく僕のわき腹に刃先があたる。
はじけるような感覚のあとに冷えた硬いものが僕の中に入り込んでくる。
はらわたをかきまわすそれに声にならない悲鳴をあげた。
すぐに刃物は引き抜かれ、かわりに望ちゃん熱いのが入ってくる。
「普賢はこんなに細いのに……なかはたっぷり詰まってるよな……」
根元まで埋め込んで満足げな吐息を漏らすキミが、独り言みたいに言う。
望ちゃんの腕が僕を抱きなおして、ゆっくりと僕の体をゆらしはじめた。
「ひ、い……ぐ……うう……」
ひとつだけになった目から涙がこぼれる。
つらいからじゃなくて痛いからじゃなくて、キミが僕の中にいてくれるのがたまらなくうれしい。
「普賢」
望ちゃんが僕を呼ぶ。
答えなきゃ、応えなきゃ。
望ちゃん、何処?
何も見えない。
赤い闇の向こうに手を伸ばして、手を伸ばして。
あたたかな手が僕の腕をつかむ。
「普賢、死なないよな?」
「う、ん……しなな……いよ……」
「死なないよな?」
「しな……な……よ……しな、ない……」
うながされた僕の手がやっと、望ちゃんを捕まえる。
やさしい肌に無我夢中でしがみついて、ところかまわず噛みつくようなキスをする。
何度も何度も、離れたら望ちゃんが消えちゃいそうで。
「普賢……!」
望ちゃんが僕におおいかぶさる。
ねとついた舌がぽっかりあいた眼窩を犯す。
貫く勢いが強く、激しくなる。
おなかのなかぐちゃぐちゃかきまわされて、びちゃびちゃ音を立ててまぶたの裏を舐めまわされて、
全身にかかる望ちゃんの重みがうれしくてうれしくてもう僕は。
「あ……ぼぉちゃん、あ、あ、あ!だめ、ふあ、いく!」
「普賢、ぅく、ごめん、がまんできな……!」
望ちゃんの背が反り返る。
僕の血で汚れた体がぶるぶる震えて、おなかのなかに熱いものがひろがっていく。
喉の奥から血の塊がこみあげてきて、僕は意識を手放す。
かすかに精液の味がした。目を覚ますと、望ちゃんが心配そうに僕をのぞき込んでいた。
僕と目があうと、望ちゃんは安心したように顔をゆるませる。
「だいじょうぶか?」
返事をしようとして引きつれた音がでた。
かわりにうなづくと、望ちゃんは濡れたふきんで額をぬぐってくれる。
全身に包帯を巻かれて、僕は寝台に寝かされていた。
体中がしびれて上手く動かない、治癒の術がゆっくりと僕の体を再生させているのがわかる。
「食べる?」
望ちゃんが枕もとの小卓から桃をとった。
……なんで仙桃がここにあるんだろう、しかもそれ元始様のお庭のやつじゃなかったっけ。
「食べろ。傷にもいいから」
返事をしない僕の頬にもにっと桃を押し付ける。
うなづくと望ちゃんは桃の皮をむいて、ちいさく切って口元に運んでくれた。
のどの奥につるんとすべりこんでいく桃はひんやりしてとても美味しい。
こころなしか息苦しさもとれた気がする。
「ありがとう、望ちゃん」
今度はちゃんと言えた。
望ちゃんが僕の頬をなでてくれる。
「よかった。最近治りが遅いから……心配した」
「だいじょうぶだよ。いっぱいあそんでくれるから、ちょっと疲れてるだけ」
「そうか?ならいいいんだが」
望ちゃんの顔が近づいてくる。
とじたまぶたの上にやさしい口付けが落ちてくる。
えぐりだされたはずの眼球はもう再生している、まだ視界が半分、霞にかかったようだけど。
「普賢……死なないよな?」
こころぼそげなささやきが聞こえて、僕は微笑んだ。
「死なないよ」
「死なないよな?」
「死なないよ。望ちゃんが何しても、僕は死なないよ」
「ほんとに?」
「心配なら、また確かめてもいいよ」
望ちゃんのおとがいを引き寄せて、僕は唇で触れる。
「……やめとく。怪我も治りきってないし」
殊勝なことを言うけれど、また夜になったらさみしくてたまらなくなるんだ、望ちゃんは。
「望ちゃん、仙桃もうひとつちょうだい」
「どうした?」
「早く治したいんだ。僕もキミと遊びたいから」
「……ん」
望ちゃんの手が桃の皮をするするとむいていく。
部屋の中にもういちど甘い香りがたちこめる。
それはどこか、浴室のむせかえるような紅のにおいを思い出させる。
「普賢、死なないよな?」
桃の切れ端を僕の口元に運びながら、望ちゃんが聞いてくる。
「死なないよ」
何度でも、僕は同じセリフを繰り返す。
進まない問答。
同じところで、ぐるぐる回ってる僕ら。
「死なないよな?」
「死なないよ」
キミの瞳でゆらめく暗い炎が、いつか僕を飲みつくすのかな。
それはそれで、きっととてもうれしい。「僕だけは、望ちゃんを置いて行ったりしないよ」
■ノヒト ... 2010/04/13(火)02:54 [編集・削除]
とかいってどーんと自爆するわけですな。