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EVA・全てに滅びをと彼は願った 《全年齢版》

  by saiki 20021112-20030715


全てを焼き尽くす光が視界を覆い、成層圏まで爆炎が立ち昇る・・・・
やがて・・・かって第三新東京市と呼ばれていた場所から、
黒煙がゆっくり晴れ、巨大なすり鉢状のクレーターが姿を表す・・・

何も無いはずのその底には、巨大な人型の紫の鬼がたたずむ・・・
紫の鬼は、その口を開け心を削り取るような雄たけびを上げた・・・
鬼の背から幽鬼の様に揺らめく6対のオレンジの羽が広がる・・・
紫の忌まわしい怪物の目が光った・・・

 ・第一章  Mana(マナ)


ここは第3新東京市のはずれの、うち廃られた巨大マンションの一室・・・

薄汚れた打ちっ放しのコンクリートの壁、窓にはカーテン代わりにダンボールを
テープで貼り付けて光が漏れないようにしてある、電気、ガス、水道は私が
配管や配線をうまく細工して使える用にした、でも好きでやってるんじゃないわ、
わけあって、勝手にこの部屋を使っている私達には他に選択の余地が無いからなの・・・

そして、部屋に在る冷蔵庫なんかの家電と生活用品一式は買ったり、拾ったり、
盗んだり・・・ちょっと心が痛んだけど、ともかく在るとあらゆる方法で入手したわ・・・
買い物も、変装して出来るだけ出なくて良いようにまとめて買出しをしているし・・・

日本で有数な軍事組織、
戦略自衛隊を敵に回している私達には微細な事にこだわっている余裕は無いの・・・
私が愛する彼・・・気が弱くて繊細でとても優しい・・・碇シンジ君・・・
彼を守るためなら、私はそれが人を殺める事だって平然とやる、それで彼に嫌われたって本望だわ・・・

もともと孤児の私は、戦自に買取られてトライデントという戦略兵器の開発パイロットをしていたの、
でもその計画は潰れて、元孤児の仲間達はちりじりになった、そんな私が投入されたのがネルフの
司令官の長男”碇シンジ”君の内偵。
何故私が選ばれたのか、
おそらく体術の成績が良くて潜入工作の座学を専攻してたのがその理由みたいね。

たしか、転校初日、私があの人に言った第一声はこうだったわ・・・
「本日、わたし霧島マナは、
碇シンジ君の為に朝7時に起きて、この制服を着てまいりました!・・・どう、似合うかな?」
いまでも、たまに思い出して頬を染めるわ・・・我ながら、なに考えてたんだろうって・・・・

もともと、人付き合いが悪かったシンジ君は私の挨拶が元で、クラスの中で完全に孤立した・・・
それを私は、シンジ君を自分に繋ぎ止める絶好の機会だと捉えたの・・・
いま思うと、自分で自分が許せなくなるわ・・・私はなんて浅はかだったんだろうって・・・

やがて、所詮付け焼刃の私は早々とシンジ君に戦自のスパイだとばれてしまった・・・
でも・・・そんな私をシンジ君は邪険にしなかった、むしろ謝りさえしたわ・・・
”父さんには10年前に捨てられたから、霧島さんの力になれないや”って・・・
私は打ちひしがれたの・・・私と同じようにシンジ君も親に捨てられたんだって判ったから・・・

それからの私は、虚偽の報告を混ぜるようになったの、だって私はシンジ君と別れたくなかったから・・・
学校をサボってデートへ行って、プール、映画、ピクニックへも行ったわ・・・
でも、そんな私達にとって天国のような時は長くは続かなかった・・・

ある日、私の上司からシンジ君を誘拐するから連れ出せって指令が届いたわ・・・
いつの間にか事態は、これ以上、私の力ではどうにもならない所まで来ていたの・・・
私は泣きながらシンジ君にわけを話して、私は警察に自首するから貴方はお父さんを頼ってって・・・

もちろん私は、警察に自首した後、間違いなく自分が戦自に消されるだろうって判って言ったの・・・
その間のごたごたで、
少しでもシンジ君が戦自から逃れる機会が増えるなら、たとえ死んでも良いって思ってたから。

シンジ君は私が死ぬ気だって気づいたみたい、自分を捨てた親に頼るのはいやだって・・・
一緒に逃げようって言ってくれたの・・・私が死ぬかもしれないよって言うと、自分は何も出来ないけど
私の弾除けにぐらいにはなるからって・・・
その時私は、思わすシンジ君を抱きしめて大人のキスをしてた・・・

そして、シンジ君の誘拐実行の前日、
打ち合わせと称して私は実行犯を呼び出してかえり打ちにしたわ・・・
その時の死体の処理は、すごく辛かったけど私とシンジ君が青くなって泣きながらやったの・・・
なぜかって、それは追っ手を少しでも近づけないため・・・
それから、彼らの乗ってきた車へ身の回りの荷物だけを詰め込んで、
幸い運転の講習を終わってた私が運転して、いま住んでるところまで運転したわ・・・
その後、車は湖に沈めて・・・橋の下や公園で野宿をしながら、やっとここを見つけたの・・・

ここは取壊しが決まってるみたいだから、
いつまでも居られないけど、しばらくほとぼりを冷ますにはもってこいだわ・・・
どうやらこの1万人規模の団地には、私達と、髪を蒼く染めた女学生の子しか住んでいないようなの・・・

だから見つかりにくいし、逆に探されるとすぐわかるはず・・・
トラップとセンサーを回りの道路へめぐらした私は、いまは、安心してシンジ君と一つの布団の中・・・

寝返りをうつと、すぐ横に私の愛する彼の顔がある・・・ちょっと中性的だけど整った顔だち・・・
私はちょっと意地悪な気分になって、彼に馬乗りになると上半身をかがめて唇を奪う・・・

「シンジ君・・・もうお昼だよ・・・」

私が彼の上になるため () いだ薄い毛布には、もう同じみになった二人の体臭が染込んでいる・・・

「おきないと・・・ 悪戯(いたずら) しちゃうぞ・・・」

疲れてるかも知れないけど、良いよね、他にすることも無いし・・・
私は、ワキワキと指をうごめかし、シンジ君のわき腹へと迫る・・・

こうして何時ものように、私達が、仲睦ましくじゃれ合っている時、突然私達は急襲された・・・
テルミットでドアが焼切られ、大量のゴム・スタン弾が撃ち込まれる・・・

「ぐひっ!あぐっ!ぐあっっ!ひいぃぃぃっ!!」
「がはっ!・・・」

虚を突かれた私達には、なすすべが無かった、私達の悲鳴が部屋に響く・・・
射線は主に私を狙っていた、数十発が私の全身に当たり、
私の日に焼けていない、全裸の白い体を紅い痣だらけにする・・・・
そして何発かゴム・スタン弾がシンジ君へ兆弾し、彼を沈黙させた・・・

私は仰向けに倒れ、垂れ目気味の瞳から涙を流しながらも、隙をうかがう・・・
数人の黒服の男と、一人の少女が何の遠慮も無く部屋の中に入ってくる・・・
私が頑張らなくっちゃシンジ君が・・・ゴム・スタンに袋叩きになった痛みが全身を襲う・・・

少女はあの髪を青く染めた子だ、学校の服を着たその子が、
包帯を巻いた右腕で、軽機関銃を構えて無表情に部屋に上がり込む・・・
彼女の土に汚れた靴が、S−DATのカセットを踏みにじり二つに割った・・・
それは、私がシンジ君に始めてプレゼントした・・・思い出の・・・

私の瞳が怒りに燃える・・・許さない!あんただけは絶対に許すものか!
大量に分泌されたアドレナリンが体を駆け回る・・・私は布団の下に隠していた銃を引き抜いた・・・

銃口を、あの女に向けようとする私に、再び大量のゴム・スタンが撃ち込まれる。
たちまち私は後ろへ吹き飛ばされ、銃もどこかへ飛んで行ってしまう・・・

「ひいっ!ひぎっ!いやあっっ!」

うずくまり転げ回る私、それでもゴム・スタン弾が撃ち込まれた、
一発一発が、プロボクサーのストレートパンチの威力をに持つそれに、
肋骨が耐え切らずに折れ、内臓のいくつかが潰れる。
痛みに 痙攣(けいれん) する私の瞳に、無表情に引き金を引き続けるあの女の顔が焼き付けられる・・・

シンジ君、シンジ君、シンジ君、私は心中で彼の名を呼び続ける、
ああ、なぜ私は指一本も動かせないの・・・・
動いて、私の体・・・で無いと、シンジ君が連れて行かれてしまう・・・

動かなくなった私の傍らから、シンジ君が引きずられて行く・・・
いや!・・・私のシンジ君を連れて行かないで・・・

私の口からその叫びは出なかった・・・代わりに私は大量の血を吐く・・・
フローリングの床へ、紅い水溜りが私の体を中心に広がる・・・

「再三の召集に応じず、戦自のスパイと雲隠れして、そいつとジャレあってるとはなんて餓鬼だ!」
「マナ!・・・はなしてよ!・・・マナをどうするのさ!マナをたすけてよ!マナ!」

男の憎々しげな声に、私のシンジ君の弱々しい声が重なる・・・
全身が痣だらけで、内臓を傷つけられ 血を吐き身動きが出来ない私へ黒服の男が銃を向けた。

「世界で三人しかいないチルドレンを、お前は物にしたんだ、満足してあの世に行くんだな」

私はその黒服の男に額を撃ち抜かれる瞬間、心からシンジ君に謝った・・・
”ごめんシンジ君、私、あなたを守れなかった・・・”

私の頬を涙が伝う・・・打ちっ放しのコンクリートの壁に銃声が二発響く・・・
でも私には、一発目しか聞こえなかった・・・シンジ君、私は貴方を・・・・











「くそ!なんてこった奴は無傷だぞ!」
「アイオワとネバダの40センチ砲、気化爆弾も効果有りません」

艦隊提督とオペレーター達が、C3Iで作戦チャートを、苦虫を潰したような顔で睨み付ける・・・

「太平洋艦隊と、
このオーバー・ザ・レインボーの全兵力をもってしても、奴に対しては無力だと言うのか!」
「戦略級原潜レッド・オクトーパー、N弾頭発射体制に入りました」
「全艦退避!Nの洋上爆発に備えろ・・・対電磁波、対ショック体制!」
「5・4・3・2・1・・・全弾着弾します・・・」

突然、 (はるか) か彼方の洋上で閃光がきらめく・・・
わずかな間を置いて押し寄せる風と高波で、いく隻もの駆逐艦があっけなく海の 藻屑(もくず) になり、
巨大な戦艦や空母が、まるで風に舞う木の葉のように揺さぶられる・・・

「紫の奴はどうなった!」
「電波障害から回復!奴は健在です!傷一つ付いてません!」

自分達の無力さを思い知らされた彼は、
自分の帽子を忌々しそうに床に投げつけ足で踏みにじる。

「くそっ!悪魔め!」

 ・第二章  Rei(レイ)


私がそこから外へ出た後、扉を破壊され土足で蹂躙された家から二発の銃声が響く・・・

黒服の男が、私の前を黒髪の全裸の少年を引きずるようにして黒い車へ向かう・・・
私はスカートのポケットから携帯電話を出して、短縮ダイヤルを掛けた。

「・・・碇司令、保護対象者を確保しました、戦自の諜報員は抵抗したため射殺・・・」
『良くやった、レイ、撤収しろ』
「・・・はい、作戦を終了、撤収します・・・」

私は携帯を仕舞い込んで、黒服達の後を車に乗り込んだ・・・

「・・・現時刻を持って作戦を終了、撤収します・・・」
「はっ!・・・」

私は車の後部座席で、黒服を間に挟んで横に乗せられた、黒髪の少年を見ながら記憶と照合する。

碇シンジ 14歳 マルドゥック機関より選出された
サードチルドレン、エヴァンゲリオン初号機専属操縦者。
度重なる(たびかさなる) 召集に応じず、戦自の諜報員と共に逃亡。

黒髪の少年はただひたすら前を見つめ、小さな声で 呟き(つぶやき) 続けている、彼は、私を見ようともしない・・・
この人が碇司令の子供・・・なんだか写真と違う感じがする・・・そう、存在感が希薄なのね・・・

   ・
   ・
   ・

昼なお暗い司令長官室、いまこの広い部屋にいるのは6人だけ、
私、碇司令、副司令、赤木博士、碇司令の子供、保安部の人・・・

保安部の人から報告の後、誰も話さない、
碇司令も三年ぶりにあった子供に何も言う事は無いのかしら・・・
あの人たちには、私と違って親子と言う絆が在るはずなのに・・・
何故この人達はいつまでもしゃべらないの・・・

「シンジ、 何故(なぜ) 呼ばれたのに来なかった」

重く垂れ込める沈黙を破るように、碇司令が口火を切った・・・でも誰も答えない・・・

「シンジ、何故答えない」

今度は威圧感を掛けて、再び碇司令が口を開く、
一人を除いて皆が、その心をザワリと削る感覚にその身を震わすほどに・・・

なぜ・・・私でさえ威圧感を感じるというのに・・・
私は彼の目を見て判った・・・彼はここに居ないの・・・
だから、誰の呼びかけも恫喝も彼には届かない・・・

「すでに奴は 強羅絶対防衛線(ごうらぜったいぼうえいせん) を越えつつある、シンジ君ばかりに 構って(かまって) おれんぞ、碇」
「わかっている、冬月」

それに気が付いた私の、無いはずの心がざわめく・・・
貴方は私と同じ・・・いえ、私以上に何も無いのね・・・

「シンジはこのまま営倉へいれろ、レイ、出撃準備だ」
「シンジ君は病院に入れたほうが良くないか、碇」

貴方の絆は・・・そう・・・碇司令とでは無いのね・・・
私の中で、ゴム・スタン弾を体に受けながら、
動けるはずも無いのに私に向かってくる、あの少女の姿がよみがえる・・・

「提案します、碇司令、シンジ君をこのまま初号機で出して見てはいかがでしょうか」
「な、何を言うのだ赤木君・・・」

あの子は・・・貴方を守ろうとしていたのね・・・貴方の絆はあの子とつながっていたの?・・・
私の体に震えが走る・・・私が・・・私が、貴方の絆を切ったの・・・この私が・・・・

「ショック療法です、リスクは大きいですが、うまく行けば彼は正気に戻ります、
もともと初号機の暴走はシナリオに織り込み済みです、少なくとも使徒の殲滅は達成出来ます」

なぜか目頭が熱くなる・・・私はどうしたの・・・何故こんなに、心が凍て付くように冷たいの・・・

「レイ、どうしたの・・・」
「・・・なにか、赤木博士・・・」

気が付くと碇司令の子供以外の人が、みんな私の方を見つめていた・・・
赤木博士が私を何か場違いな物を発見したように見つめる・・・

「あなた、泣いてるわよ・・・」
「・・・問題ありません・・・」

私は、何時もの様に感情のこもらない声で答える・・・
でも、私の頬はなぜか涙でぬれていた・・・

   ・
   ・
   ・

私の喉の奥から呻き声が漏れる・・・

「くふっ・・・・あくっ!!」

何故、貴方はこんな事をするの・・・
私が何か悪い事をしたから?・・・私の存在その物が、いけない事なの・・・

「ユ!・・・!・・・」

黒い影が私に覆いかぶさり、私を押しつぶそうとその全質量を掛ける・・・
私は悪夢の中で、無抵抗にその黒い影に蹂躙され、プレスされたように平たくなり、
血を噴き出しながら、ジャンクと化していった・・・

   ・
   ・
   ・

『プラグ固定完了、第一次接続開始!』
『エントリープラグ注水』

私の意識が幻覚から現実に戻る・・・

『主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート、シナプス挿入』
『A−10神経接続異常なし、初期コンタクト全て問題無し』

私は発令所の片隅で、プラグスーツを着て両ひざを抱いて床に座る・・・
私の周りでは忙しそうに立ち回る私が知らない人々・・・

『全ハーモニクスクリアー、シンクロ率31.3%!!』

スクリーンへ映る生気の無い彼の黒い瞳には、虚ろな虚無が広がる・・・
その虚無を彼に与えてしまったのは私・・・彼の絆を切ったのは私の両の手・・・

『エヴァンゲリオン初号機発進準備』
『第一ロックボルト外せ!』

私の白い手は、目に見えない赤い血で染まったまま・・・
この血はどんなに洗っても落ちない・・・それは邪悪な私の心に付いた血だから・・・

『解除、続いてアンビリカルブリッジ移動!』
『第一、第二拘束具除去、第3第4拘束具除去』

碇司令の子供は、赤木博士の進言で初号機に乗せられ、
いま敵の前に生贄の子羊として放り出されようとしている・・・

『1番から15番までの安全装置解除。』
『内部電源充電完了、外部コンセント異常なし』

意味も判らず上に従う、私と同じ愚かな人たち・・・
知っていて、なおもそれを助ける愚かな老人・・・

『エヴァンゲリオン初号機、射出口へ。』
『進路クリアー、オールグリーン!発進準備完了。』

触れ合うことを恐れる 小心者(しょうしんもの) の大人・・・
妄執(ぼうしゅう) にとらわれ復讐のみに生きる、血塗られた母性・・・

「・・発進!」

私の心を、読んだ時には意味が解からなかった言葉がよぎる・・・
”祈りをささげよ、やがて裁きの日は 速やか(すみやか) に貴方の元を訪れる”

『最終安全装置解除!エヴァンゲリオン初号機リフト・オフ!!』

生贄の子羊が狼の前に放り出された・・・
彼は動かない・・・いえ、動けないのね・・・そう、あそこにいる彼は抜け殻だから・・・

「エヴァ動きません、使徒が初号機の腕を・・・」

使徒と呼ばれる敵が、エヴァの腕をへし折り頭部を鷲掴みにする・・・
それを見る赤木博士の顔に、猫が鼠をいたぶる様な笑みが浮かぶ・・・

「エヴァ頭部、敵光学兵器が貫きました!」
「パイロット、反応在りません」

私は悲しくなる・・・私には、祈りを捧げるべき神はいない・・・
貴方達は彼に何を期待しているの・・・私のせいで、心が死んでしまった彼に・・・

「初号機完全に沈黙」
「始まるわ・・・・」

赤木博士の低い呟き・・・何が始まるの・・・赤木博士・・・
私は 俯き(うつむき) 、組んだ両腕に押し付けていた顔を上げる・・・
同時に魂を震え上がらせるような唸り声が、発令所の中へ響き渡った・・・

「エヴァ再起動!」
「シンクロ率急上昇・・・220・・・290・・・330」

私は思わず両の手で肩を抱く・・・体が酷く寒い、自分でも振るえているのが解かる・・・
この、心を凍らすような 雄叫び(おたけび) は何?・・・彼に何が起こってるの・・・

「マヤ!シンクロ率を下げて!急いで!」
「だめです先輩!エヴァ、全ての制御を受け付けません!

赤木博士があわてている・・・そう、これは貴方の予想外の出来事なのね・・・
私は、だらしなく目の前を塞ぐ蒼い髪越しにスクリーンを見つめる・・・

「シンクロ率400%!・・・エントリープラグ内映像回復します!」
「シンジ君!・・・リツコこれはどういうことよ!」

エントリープラグ内に彼の姿は無い・・・彼はどこへ行ったの・・・
作戦部長が赤木博士を睨み付ける・・・葛城一尉、貴方も彼を載せるのに承知したのに・・・
なぜ赤木博士を責めるの・・・良心の 呵責(かしゃく) ?それとも自分の復讐の駒が減ったから?・・・

「シンジ!」
「こ、これは・・・まずいぞ、碇」

碇司令、副司令も呆然と言葉を吐く・・・そう、貴方達にとっても計算外なのね・・・
初号機が再び吼える・・・その動きは目にも止まらぬ速さ・・・何がおきているの・・・

「アンビリカルケーブル断線!エヴァ内臓電源に切り替わりました!」
「敵ATフィールドを展開!初号機もATフィールドを展開、瞬殺しました」

再び魂を揺さぶる唸り・・・何か、人で無い物が目覚めたのね・・・

「エヴァ、敵性体を殲滅・・・いえ、敵を引きちぎって・・・
うぐっ・・・食ってる・・・うぅぅぅぅっ・・・げぇっ」
「マヤ!しっかりしなさい、内臓電源は後何秒?」

エヴァが自らずたずたにした使徒の肉を食らう・・・
耐え切れずに伊吹二尉が吐いた・・・私も気分が悪い・・肉は嫌い・・・

「ご・・ごめんなさい先輩!エヴァ内臓電源・・・電源!カウントマイナス!」
「電源無しで勝手に動いてるの・・・まさか、使徒のS2機関を取り込んで!」

呆然(ぼうぜん) とたたずむ赤木博士・・・そう、貴方にはもう手の打ち (よう) が無いのね・・・
私は初号機の装甲がたわみ一部のパーツが 剥奪(はくだつ) していくのを見た、
エヴァが、初号機が人の手を離れて行く・・・
貴方は私と違って、もう誰の人形でも無いのね・・・私はあれがうらやましい・・・
私と違って、誰の手も及ばぬ自由と言う翼を手に入れたから・・・

「リツコ、電源無しでエヴァが動くって、どういうことなのよ!」
「暴走してるのよ、私達には止めようが無いわ・・・
S2機関を取り込んだエヴァ、アダムのコピー、あれはすでに使徒となんら変わりないわ」

うわ言の様に呟く赤木博士・・・その彼女を葛城一尉が殴り倒す・・・
床に倒れる赤木博士、葛城一尉の (こぶし) が振るえる・・・貴方は、自分には責任は無いと言うの一尉・・・

「エヴァ初号機を使徒として殲滅します、よろしいですね碇司令」
「くうっ!葛城一尉・・・」
「初号機にこだわるな、碇!・・・構わん!殲滅したまえ葛城一尉!」

葛城一尉が断定して、エヴァ初号機を切って捨てる・・・何故そんなに簡単に、物事を切り捨てられるの・・・
全ては復讐の為、何時かあなた自身が誰かに見放された時、貴方はそれに納得できるの・・・

「レイ、ベークライトを爆破して除去、零号機で出て、目標はエヴァ初号機の殲滅、いいかしら」
「・・・はい了解しました葛城一尉、零号機で出撃、エヴァ初号機を殲滅します・・・」

葛城一尉、貴方はそこで命令するだけで事が進むと思ってるのね・・・
私は人形・・・貴方達の思惑で踊る人形・・・命令を拒絶する権利は誰も与えてくれなかった・・・
そして今日、私が過ちの果てに・・・絆を切ってしまった少年は、消えてしまった・・・
きっと、次ぎは私の番・・・何の根拠も無いけど・・・
神とやらがいるなら、こんな私を長くほって置くはずはないわ・・・

   ・
   ・
   ・

ケージが揺れる・・・私は、自分を包むLCLが微かに波打つのを感じた・・・
指向性爆薬で無理やり剥ぎ取られた、特殊ベークライトがそこらじゅうに散らばっている・・・

『22枚在るうちの、第1から第19までの装甲が大破』
『レイ、まだなの!』

金切り声を上げる葛城一尉、彼女の声が気に障る・・・
前は暴走した零号機だが、今回は無事に起動した・・・
私は自分の思うとおりに動く機体を、ゆっくりとウオーミングアップさせる・・
左足の部分が少し引きつる様に痛い・・・爆破でエヴァを痛めたのかもしれない・・・

『もう間に合わないわ、零号機はジオフロント内に射出するわよ、レイ!』
「・・・はい、葛城一尉・・・」

私の乗った零号機が実験棟からリニアカタパルトへ移動を開始する。
LCLに浸かった私は、消え去る運命を受け入れたように心静かだった・・・

『レイ、試作前期型のパレットライフルとポジトロンライフルを出すわ使って見て』
「・・・了解、両試作兵器を使います、赤木博士・・・」

赤木博士は、試作前期型と言う言葉を、
密造拳銃なみでいつ問題を起こしてもおかしくないと言う意味で使う。
本来は実戦で使うような物では無いのだ、
これらの使用場所は、対爆実験室のテストベッドこそがふさわしい。

『零号機、ジオフロント内へ射出』
『最終安全装置解除!エヴァ零号機リフト・オフ!』

ジオフロントの中へ出た私は、兵装コンテナからパレットライフルとポジトロンライフルを取り出し構えた。
私の視線の向こう、天井都市の方向で十字の爆発が広がる・・・
彼だ、使徒とされたエヴァ初号機を、
私は無意識に自分の手で絆を壊してしまった少年とダブらせていた・・・

『エヴァ零号機ポジトロンライフルからパレットライフルに射撃切り替えました』
『零号機ポジトロンライフル 投擲(とうてき) 、ライフル過負荷で爆発!』

私は彼に無数の射撃を加える、だが一筋の傷も付けられない・・・
発令所は騒いでるけど、驚く事は無い、予想出来たことだ・・・

私はパレットライフルを休むことなく撃ち続ける、
劣化ウラン弾の着弾で一瞬、彼の姿が視界から消える・・・
目の前に光る 双眸(そうぼう) が現れたと思った瞬間、私の零号機は喉元をつかまれ、地面に叩き付けられる・・・

叩き付けられたショックで、アンビリカルケーブルが断線し内臓電源に切り替わる・・・
各種遠隔サーボ断絶、発令所との通信も切れ、私はふってわいたような静けさに包まれた・・・
サーボ、通信系はエヴァの背面に装備されている・・・
そこがごっそりやられたと言う事は、エントリープラグが潰れなかったのが奇跡のようだ・・・
左手で喉を押さえながら、初号機の腕が何のためらいも無く零号機の左手を引きちぎる・・・

「ひいいいっ!・・・ぎぁっ!」

私の叫びがプラグの中に響く、
エヴァの左肩から血が 噴出す(ふきだす) 、思わず私の右手は左肩を押さえようとする・・・
初号機の腕が零号機の右腕を捕らえ、回すようにひねり上げて行く、関節が音をたたて砕けた・・・

「いやあぁぁぁぁぁっ!・・・ぐがっ!」

エヴァからのフィードバッグが私にダメージを追わせる、私は思わず吐いた・・・
これが罪の罰・・・私へ与えられる罪の 報い(むくい) ・・・私の両腕から、狂うほどの痛みが押し寄せる・・・

「ひっ・・・ひあっ・・・ひいいっ・・・」

私は硬く眼を閉じ生まれて始めて苦痛で泣いていた・・・そんな私の左太腿に重さがかかる・・・
背筋を冷たい汗が滴った・・・目を上げると初号機が、私のエヴァの左太腿に、足を乗せ体重を掛けた・・・

「や・・・やめ!・・・ひああぁぁぁっ・・・」

音を立てて、私のエヴァの左太腿が砕ける・・・私は叫びのたうつ・・・
あの、少年を守ろうとした少女のように・・・エヴァの両腕と左足から伝えられる痛みは私への報い?・・・

「ぐぁっ・・ぎはっ・・ひぎぃぃっ・・・」

動きが取れなくなった私の零号機の内臓を、彼が腹を割いて引きずり出し 貪る(むさぼる) ・・・
私の物で無い内臓を、掻き回され貪られる感触に再び私はLCLの中へ吐いた・・・

「いやっ・・・くあっ・・・やめ・・・ぎひっ・・・あうっ・・・」

でも、負けるわけには行かない・・・私は苦痛に翻弄されつつも、体を捻り座席の後ろへ顔を向ける・・・
(あご) でボタンを押しパネルを開ける、私の蒼い髪の毛が、冷や汗でじっとり (ひたい) 纏わり(まとわり) 着く・・・

「・・・さようなら・・・」

私は誰へともなく別れの言葉を呟く・・・
あるいは、初号機に取り込まれてしまったあの少年へかもしれない・・・
私は、赤い瞳を閉じてレバーを口にくわえて引く・・・
インテリアの背後のドライブが、 MODE:D(自爆モード) で回転を始める・・・

これで無に帰れる・・・私は生まれて始めて、嬉しくて泣いた・・・
これで私は、罪から解き放たれるかもしれない・・・
私の閉じたまぶたに光が溢れる・・・やっと、この苦痛からも・・・・

   ・
   ・
   ・

私はセントラルドグマのLCL水槽の中で目覚めた・・・そう、あの私は死んでしまったのね・・・
私の魂が、両手をもがれ、足を 踏み砕かれ(ふみくだかれ) 、内蔵をむさぼられた記憶に悲鳴を上げる・・・
私は心の痛みに、思わず胎児の様に四脚を引き寄せる・・・私の目から涙が漏れる・・・
それを見守る多くの赤い瞳・・・一緒にLCLの中を漂う私達が居る・・・
私を珍しい物でも見るように、好奇の見つめる無数の赤い眼たち・・・

LCL越しに微かな振動がここまで伝わってくる・・・感じるでしょう死神が近づいて来るのが・・・
駄目だったのね・・・もう、あれは誰にも止められない・・・私の足掻きも無駄に終わったのね・・・
何も知らない無垢な私達・・・ごめんね、私達・・・貴方達もきっと今日、無に帰る・・・

『人工知能により 自律自爆(じりつじばく) が決議されました、所員は速やかに退避して下さい』

聞こえるでしょう・・・愚かな人たちの、最後まで愚かな足掻きが・・・
死が近づいてくる・・・でも貴方達に罪は無い恐れも無い・・・罪は全て私のもの・・・
何故だろう私の体が振るえてる・・・そう、怖いのね無に帰るのが・・・私の心を凍らせる、これが恐怖・・・
・・・恐怖・・・それは、人形だった私が得た唯一つの感情・・・
恐怖に振るえながら、訪れる死を待つのが私への罪・・・

突然私の回りの世界が灼熱の光に包まれる・・・
私の意識が消え入る寸前・・・
あの少年の姿が浮かぶ、漆黒の髪、引き込まれるような虚ろな目、中性的な顔立ち・・・
ごめんなさい・・・私のせいで絆を失った貴方・・・











『第1次接続開始、第1から第6520区まで送電始め』
『電圧上昇中、電流 偏差推移(へんさすいい) よし』
『全冷却機出力最大へ』

スクリーンを凝視するゲルマン系の厳つい男達が叫ぶ

『陽電子流入、加速装置温度安定』
『第2次接続!』
『最終加速器運転開始、強制収束機作動!』

太い送電線が電磁誘導で、細かく振るえ唸りを発する・・・
発熱を少しでも減らすため、臨時に取り付けられたベンチレーターが、
フル稼働し。あたりを羽が風を切る音で満たした・・・

『全電力ドーラ砲台増設変電所へ』
『最終安全装置解除!』
『第6次接続』

指揮所のスクリーンには、全力稼動に入ったドーラ砲台と
勝気な容貌を浮かべるクオーターの少女が写る・・・

「UNは良く足止めしてくれましたよ」
「その代わり、ゴビ砂漠とエベレストがNで穴だらけだ、
あとは、 (じょう) ちゃんが目標をどこまで足止め出来るかだな」

見事な髭をたくわえた指揮官が、憂いを浮かべた視線を
スクリーンに写る少女へ向け・・・顔をしかめる・・・

「世界の運命を孫と同じ年頃の少女の肩に任せる羽目になるとは・・・
わがドイツ陸軍の威厳も地に落ちたな・・・」
『ドーラ陽電子砲台スタンバイ』

 ・第三章  Asuka(アスカ)


私は加持さんの手をぎゅっとつかむ・・・
だから私は、蒼い目に涙を溜めて願う・・・加持さん、私に思い出を頂戴・・・

「エヴァ初号機・・・紫の悪魔・・・」
「私は聞いたわ、本部の零号機が自爆しても無傷だったって・・・」

そう、加持さんもあの事を知ってるのね・・・
でも・・・あれを、私ほど詳しく知ってるはずは無いわ・・・

「せめてミサトの奴がいてくれたら、多少なりとも事実がわかるんだが・・・」
「加持さんやめてよ・・・ミサト、第三新東京市にいたんでしょ・・・」

ミサト・・・私達の共通の知り合い、加持さんは元恋人だって言ってた・・・
8年前に分かれたって・・・加持さん、お願い、いまは私の事だけを見て・・・

「ああ、ネルフ本部で戦闘指揮を取っていたはずだ」
「あそこにはいま、何も無いって聞いたわ・・・クレーターだけだって」

体が心の寒さで振るえる、私は加持さんにも言えない秘密が在る・・・
私は見たわ・・・零号機と初号機の戦いの記録を、あれは戦いなんて物じゃなかった・・・

「知ってるのか・・・アスカ」
「私はエヴァのパイロットだもの・・・いろいろ噂が入るわよ・・・」

初号機による一方的な虐殺・・・零号機は、両手をもがれ、足を踏み砕かれ、内蔵をむさぼられた
私はあまりのおぞましさに、吐いたわ・・・そして、最初の一撃で、おそらく零号機の神経接続が、
繋がったままだったかもしれないと聞いて・・・青くなって・・・気を失い掛けた・・・

「アスカ・・・俺はミサトの事を・・・」
「良いの知ってるわ・・・でもいまは、私を見て、私だけを・・・」

零号機パイロットは、
機体からのフィールドバックで自分が貪られる感触に耐えながら、自爆装置を動かした・・・
私にはあんな事とても出来ない・・・あれに比べれば、麻酔なしで盲腸を取るたとえさえ生易しい・・・
エンジニアは機体側にも、緊急の神経接続切断装置を付けると請け負ってくれたけど・・・私は怖い・・・

「やっぱり・・・アスカでも怖いのか・・・」
「怖いわよ・・・あれは使徒なんて生易しい物じゃ無いわ、化け物以上よ、まさに悪魔」

あの記憶を見て以来、毎晩夢に出てくる・・・
闇の中から何か恐怖が迫るのを感じ、急いで後ずさろうとするけど私には四脚が無いの、
やがて紫の鬼が姿を表し、私の腹を割き内臓を食らう・・・いつもそこで、悲鳴を上げて目を覚ます・・・

「すまん、アスカ・・・俺達大人は何もしてやれない・・・」
「良いの、でも思い切り抱きしめて、加持さん・・・本番で、私が振るえないように・・・」

   ・
   ・
   ・

『惣流・アスカ・ラングレー特務二尉』
「ヤー、コマンダー」

私は頭を一振りして、昨日の加持さんとの甘い一夜を、頭の中から追い払った・・・
エントリープラグ内の、仮想ウインドウに上官の姿が写る・・・

『硬くなるな特務二尉、君はドーラ砲台の前に奴を足止めするだけで () い』
「ヤー、エヴァ弐号機はこれより、目標をドーラ砲台の前に足止めします」

上官は私を少しでもリラックスさせようと、厳つい顔に笑顔を見せ通信を閉じる・・・
紫の悪魔の移動方向が判明し、私達はこの一週間でここへドーラ陽電子砲台を
何とか急設する事に成功した、私の役目は奴をどんな手を使っても良い足止めすることだ。

「わたしは・・・負けられないのよっ!」

そう、小さな時から私が何もかも捨てて訓練に打ち込んで来たのは、
こう言う時の為なのよ、アスカ!・・・きっと加持さんも見てるわ、無様な真似は出来ないわよ!

「いくわよ!アスカ!」

EUとロシア、ウクライナから奴のATフィールドを力づくで破るため、2億5千万キロワットの
大電力が超伝導ケーブルでドーラ陽電子砲台へ注ぎ込まれる・・・私はエヴァ弐号機を起動させた・・・

「来たわね・・・紫の悪魔・・・」

私は舌なめずりをして、小高い丘の中腹に掘った塹壕に身を潜め待ち受ける・・・
スクリーンには管制誘導機からのデータが表示されてる、奴がトラップに近づく・・・

『ファイエル!!!』

発令所からの指令と共に、
ドイツ駐留UN空軍が 雲霞(うんか) のごとく襲い掛かる、通常弾頭とミサイルが奴に打ち込まれる・・・
奴が唸りながらハエをたたき潰すように腕を振るう・・・私は唇を噛みしめ出番を待つ・・・

『ツヴァイ!』

通常弾に変わり今度は特製ミサイルが奴を襲う、特殊ベークライト弾と対電波素材入りのペイント弾だ・・・
ベークライトが足を止め、滝のように注がれるペイントが奴の視界をさえぎる・・・

『ドライ!』

指揮官が叫ぶ、奴の足元が爆破され、奴は鉱山後に腰まで地面に埋まる・・・
振るえるな、もうすぐ・・・もうすぐ、私の出番だ・・・

『フィーァ!』

私の出番だ!私は塹壕の偽装を跳ね除けると槍を 投擲(とうてき) した・・・
分子振動装置付きの試作プログ・ランスと、気休めの特殊合金製の槍だ・・・

「やった!」

私の放った槍は8割が奴に命中し、その紫の体を地面に縫い付ける・・・
私は獲物を狩る、ゾクゾクする感覚が背筋を駆け上がるのを感じる・・・

『フュンフ!』

指揮官の合図の下、全ヨーロッパの電力を次ぎ込まれた、
ドーラ陽電子砲台が吼え、その必殺の陽電子ビームが悪魔の腹を抉る・・・
戦車にゲリラ戦を仕掛けるように、私達は悪魔にローテクでたち向かっている・・・

「さすが!やっぱドイツの科学力は世界いちーっ!」

悪魔が苦しそうに吼える・・・しかし、奴の胴を両断寸前にビームが止まった・・・
ちっ!なんてこと!まさかドーラにトラブル・・・

『ドーラへの送電設備に火災発生、第二射は不可能です』
『フロライン・・・アスカ特務二尉、止めは君がさせ』

私は武者震いする・・・訓練で体へとすり込まれた戦士の血が騒ぐ・・・
私は舌で唇をなめると、プログナイフを装備する・・・

「ヤー、アスカ特務二尉止めを挿します!」

私は地面に縫い止められた、紫の悪魔へプログナイフを腰だめにして駆けよる・・・
私の自慢>の朱金の髪がLCLの中でたなびく・・・

「うりゃあぁぁぁぁぁっ!」

私の華麗な一撃が、奴の首をはんば切り落とす・・・
奴の赤い血が噴出し、私の紅い二号機をさらに朱に染める・・・

「でえぇぇぇいっ!」

返す力でプログナイフを奴の左胸に、突き立て抉り込む・・・
快心の一撃・・・プログ・ナイフを持った手が奴を貫き背から突き出す・・・
私は蒼い目を、満足そうに細める・・・・加持さん、私ついにやったよ・・・

『良くやった、特務二尉』
「ダンケシェーン、サー」

私はにこやかに微笑む、これであの悪夢から開放される・・・加持さん・・・
私は、腕を引き抜こうと左手を奴の胸に当て力をいれた、ずるりと腕が抜ける・・・
その時、私は見た、奴の目が再び力に輝くのを・・・

『倒したはずの初号機が活動再開しました!』
『なんだとーっ!』
「ぎゃあああああああぁぁぁぁ」

私の腕が・・・エヴァ弐号機の右手が奴に取り込まれる・・・
私は咄嗟に右手を切り離す、鈍い音と共に弐号機の右肩から血が噴出した・・・

「こんちきしょうーーーっ」

私は呪いの言葉を吐き、右足を軸に左足で回し蹴りを奴に繰り出す・・・
奴は私の蹴りを右手で軽く受け止め、足首を捻り潰す・・・私は苦痛に叫んだ・・・

「ひああああああっっっっ・・・・」

紫の悪魔の傷が、沸騰したように盛り上がり一瞬の内に再生する・・・
うそでしょ、なんていんきちで非常識な奴なのよ・・・私は、青くなった・・・
奴が、私達をあざ笑うように吼える・・・私はその声に、真に恐怖を感じ振るえる・・・
奴に刺さっていた槍が、増殖する筋肉に押し出され、一本また一本と鈍い音と共に地面に転がった・・・

「来るなら、こいっ!帰り打ちにしてやるわ!」

私は振るえながらも、弐号機を後ずさりさせ当たらなかった槍を拾わせる・・・
奴が来る・・・私は身構える、一瞬の隙が何処かに在る筈よ、アスカ!
紫の悪魔は私を見て笑った・・・少なくとも自分にはそう見えた、そして私に背を向けゆっくり歩き去る・・・

「こんな良い女ほっといて、どこ行く気なのよお前は!・・・かかってきなさいよ!この悪魔!」

あっけに取られていた私が、我に返って槍を 投擲(とうてき) する・・・
鋭い音と共に槍は、奴のATフィールドに弾かれた・・・

「ちょっとどこ行くのよ!私に止めを挿しなさいよ!」

私は歯軋りする・・・悔しい・・・
奴にとって私は、止めを刺すにも、あたいしないと言うのか・・・

「無視するな!このとうへんぼく!あんた最低よ!」

悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!・・・
私の心が、血の悔し涙を流し叫び続ける・・・頭が割れるようにいたい・・・

「ああっ・・・うううっ・・・」

足首を握りつぶされた、左足がひどく痛む・・・右肩も鈍痛がひどい・・・
私は弐号機に槍を杖にして、奴の後を追わせる・・・食い縛った口の端から血がにじむ・・・

「殺してやる・・・」

奴はすでに遥か彼方、UN空軍が町の被害を無視して、小型のN爆雷を投下している・・・
その言葉は自然と私の唇から漏れた・・・奴が憎い、殺しても飽きたら無いほどに・・・

「殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる・・・」

は奴の足止めすらなっていない・・・ 怨嗟(えんさ) が私の心を埋め尽くす・・・
私は邪魔になったアンビリカルケーブルを、無意識のうちに切り離した・・・

「殺してやる、殺してやる、殺してやる」

内部電源のカウントが、見る見る間に減って行く・・・
私の額に血管が浮かび・・・怒りに体が振るえる・・・奴が憎い・・・
悔し涙が目からこぼれた・・・母さんが死んだ時、もう泣かないって決めたのに・・・

「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる」

電子音と共に内臓電源が切れ弐号機が停止する・・・
でも私は 呪詛(じゅそ) を繰り返しながらインダクションレバーを引き続ける・・・

「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる
殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる・・・」

やがて、前方で光が広がり、12枚の光の羽が衛星軌道へと広げられてゆく・・・
それは恐ろしく美しく、見る物全てを 魅了(みりょう) し、私を含めて見る物全てから言葉を奪っていった・・・

それは、一介のパイロットには知らされない真相、
ゼーレーの手配により、ドイツ支部に保管されたアダムの欠片・・・
それとの接触で、リリスのコピーたるエヴァ初号機は無制御なサードインパクトを起こしたのだ・・・

無へと 還元(かんげん) されて行く、ネルフドイツ支部と数千のその職員達、
彼らの残骸がナトリュウムに 還元(かんげん) されながら、空中を 彷徨う(さまよう) ・・・
町がシリコンの欠片となって光の中に消え、
UNの空軍の戦闘機達がジュラルミンの塵となって宙を舞う・・・

ドーラ陽電子砲台も、一瞬の内に吹き消されるように消えた・・・
私の上司も、戦友も、出撃前にアタシの肩を叩いて、がんばれって言ってくれた整備員達も・・・

消失の光臨はEUの諸国を飲み込み、ウクライナもロシアも、やがてエベレストやサハラも飲み込む・・・
その力の前では、どんな強固なシェルターもアルミ箔ほどの抵抗も出来なかった・・・
全ての命は単純なナトリュウムに還元され、光の中で塩の塊として残される・・・

そして、海もその 組成(そせい) を変えて行く・・・
赤く、どこまでも赤く変化する海の中でも、次々と生命が消えていった・・・
プランクトンが、魚が、鮫が、鯨が赤く変質した海の中で、次々とその姿を崩しながら消えていく・・・

私はそんな激変の中で、まだ生きている・・・
何故だか分からないが、とっくに電源が切れたエヴァのエントリープラグの中で呆然としていた・・・

全てが消えた光の中で・・・私とATフィールドに包まれた、手負いの弐号機が残っていた・・・
そして気が付いた・・・残った人は、私一人なのだと・・・私はもう二度と、誰にも会えないのだと・・・

「いっ・・・いやあぁぁぁぁぁぁぁっ」

私の絶望が、悲鳴となってエントリープラグの中のLCLを振るわせる・・・
私はレバーをめちゃめちゃに揺さぶる・・・設計限界を越えたレバーが折れた・・・
すでに冷静さを欠いた私は、かまわずレバーを握り締め、インテリアの側面を叩き付ける・・・
その音が、私にまだ生きてると言う事を僅かに主張してるようで、私は叩き続けた・・・

鈍痛がひどい右肩が急に感覚をなくす、やがて左腕も・・・
私は悟った・・・弐号機を包み込んだ、ATフィールドが弱くなってきている・・・
私の青い瞳は、弐号機の両の肩から先が消失したのを確認する・・・

急に、足首を握りつぶされた左足の感覚が無くなる・・・そして右足も・・・
そして弐号機が前のめりに倒れ込み・・・私は気がつく、両の足がいま塩の塊へと代わって行った事を・・・

「あはっ・・・はぁぁぁ・・・もう終わりなのね・・・」

ごめん弐号機、私をぼろぼろになってまで守ってくれたのね・・・でもう良いの・・・ありがとう・・・
私は目の前で、エントリープラグの内壁がチタンの削りカスとなって、瞬時に消失するのを見た・・・
LCLが一瞬で 昇華(しょうか) し、私の体を覆う赤いプラグスーツが消えて行く・・・
私は自分の体が、無へと薄れていくのを感じた・・・でも、ここに居るのは私だけじゃない・・・
最後まで、私を包み込み守ろうとする、懐かしく暖かいこの感触は・・・そう・・・私の・・・

《ママ・・・ここにいたのね・・・ママッ・・・・・》

全てを焼き尽くす光の 只中(ただなか) で、最後まで残っていた私が消失する・・・・・
そして西暦は終わり、誰も時計やカレンダーを気にする者はいなくなった・・・



At that point the story comes to an abruptEND...



-後書-


テルミット = 粉末アルミと粉末酸化鉄の混合物。点火すると超高熱を発生する
ゴム・スタン弾 = 鉛玉の代わりにゴムの弾を打ち出す当たるとボクサーに殴られたくらいの威力が在り大変いたい。
もちろん腹部や頭部に集中的に撃込まれると内臓破裂や内出血で死にいたることも在る。
ファイエル = 嘘です(出、銀英伝)フォイエル?が正しいようです

私の初めての中編を、再編集して全年齢化してみました。
良く考えると、うちのHPで、マナが出たのはこれが初めてだった様です。
その後も”きっと沢山の…”で出る予定がありますがまだ先で(20030715時点では)、
他では出て無いので、珍しいといえば、大変珍しいのかもしれません。
少しでも、お読みになられる方がおられれば、幸いです。


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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