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EVA・きっと沢山の冴えたやり方 外伝

・ 朱銀の髪の少女、悪夢への帰省   by saiki 20021011




|やましさを隠す為か薄暗い実験室中でその作業は行われていた・・・
|シャーレの中に浮かぶ受精済みの受精卵・・・それが顕微鏡下で分割される・・・
|4つに分割されたそれが、それぞれ分裂を始めた・・・

私の自慢の朱金の髪が心地よい冷たい風に揺れる・・・
サードインパクトから半年・・・私、惣流・アスカ・ラングレーはシンジとレイ、
それと”キョウコ”ママを日本に残して、養父母の住むここドイツに帰ってきた・・・

リニア鉄道でベルリンから2時間、針葉樹林の森が続く平原をバスを乗り継ぐこと
2時間かなり辺鄙な村のはずれに私の養父母達が住む家がある。
いつから使われているのか、あちらこちらペンキが剥げ掛けた古いバスが耳障りな
ブレーキ音を響かせ村はずれの板一枚の屋根もない停留所にとまり
目の前のドアがエアが抜ける音とともに開く、私は硬貨を何枚か料金箱へと投げ入れると
傍らから赤いスーツケースを持ち上げ、擦り切れたステップを下りて故郷の地に立った・・・

|暗い海の底、魚にも似た使徒の歯に貫かれ引きずり回される朱色のエヴァ・・・
|エントリープラグの中、朱金の髪の少女が苦痛にのたうち回り意識を失う・・・
|失神したパイロットをシートから引きずり落ろし、入れ替わる蒼い髪の少女・・・

|少女がつぶやく・・・
|『ごめんなさいキョウコさん、そこをどいて、
|このままでは貴方の娘が死んでしまうわ・・・』
|朱色のエヴァの4つ碧の目が突然輝きを増す・・・

ひんやりとした風が私の自慢の朱金の髪を揺らす・・・
私はゆっくり歩きながら、深呼吸して久しぶりに故郷の空気で胸を満たした・・・
後ろでは軽く汽笛を鳴らしたバスが、薄い黒煙をマフラーから噴出しながら次の停留所へと
ゆっくりと去っていく・・・朱金の髪の上に紅いベレーをかぶり、ネルフの軍用コートを
羽織った私は軍用ブーツの右足を後ろに引くと無意識に踵を軸にくるりと向きを変える・・・
誰も見て居ないのに・・・浮かれる変な私・・・自然と笑みがこぼれる・・・

「ふふっ・・・帰ってきたんだ・・・私・・・」

|『君の知らない君と約束したんだ・・・どうするか選ばせるって・・・』
|『何の事なのよ!あんたの言ってること、わけわかんないわょ!』
|漆黒の髪の少年が魅力的な笑顔を、戸惑う朱金の髪の少女に向ける・・・

|『もし君がエヴァに乗るのをあきらめれば・・・
|君の一番合いたい人が帰ってくるとしたら・・・君はどちらを選ぶ?』
|『そ・それはどういう意味よ!』

ひび割れたアスファルトの小道、針葉樹林の林を抜けると小さな雑貨店がある
この村にはここしか店がないので、ここへ戻るたびに何度か養父母と買い物に行った店だ。
おなじみの白髪の髭の店主が外を掃除しているを見て、私はにっこりと笑って挨拶した。
「おはようございますゲーニッツさん」
挨拶されたゲーニッツさんが目を丸くして私の方を見る、
まるで見知らぬ人を見たような目で・・・
どうしたんだろう・・・
そういえばあのころの私はいつも顔をしかめてたから分からないのかも・・・
・・・私そんなひどい顔してたの?・・・もし、そうなら情けないわね、
リツコなら無様と切って捨てるかも・・・

|弐号機の胸のパネルがはずされ赤いコアがむき出しになっている、
|その中へ無造作に差し込まれる手・・・
|少しして引き出される手には、白い一目で女性の物だと分かる手が握られていた・・・

|ずるりと引き出される全裸の黒髪の女性・・・
|最初は驚き、やがて泣きながらその体にすがり付く朱金の髪の少女・・・
|『ママ・・・ママ!・・・ママッ!!!』

私は小さな村の中を通る道を足早に、正面に見える小さな丘へ日本に残して来た
大切な人たちの事を考えながら歩いて行く・・・
”キョウコ”ママは”ユイ”お義母様と仲良くやってるかな・・・まあ大丈夫か
もと東方の三賢者のうちの二人だもの・・・シンジもレイと仲良くやってるんだろうな・・・
私はシンジとレイが夜、何をやってるのか思い出して思わず耳まで赤面した・・・

|漆黒の髪を持つ少年が上半身を起こしベッドに横たわっている、その横には蒼い髪の
|少女が寄りかかるように寝そべる・・・その体は夜の闇と月の光だけをまとっていた・・・
|蒼い髪の少女の舌が淫らに唇をなめる・・・
|『・・・いらっしゃいアスカ・・・碇君が待ちくたびれてしまうわ・・・』

|蒼い髪の少女の濡れた視線の先に、バスロープを羽織った朱金の髪の少女がたたずむ・・・
|少女は蒼い目を輝かせてくすりと笑うと、羽織ったバスロープを床へと落とした・・・
|少女の容貌の年に似合わないしっとりと湯気をまとった豊かな胸とお尻がプルンと揺れ、
|朱金の髪から垂れた水滴がその上を伝う・・・

顔を上気させた私は思わず左右を見回す、よかった誰も居ない・・・
私、何を恥ずかしがってるんだろう・・・
私だってレイと同じ事をシンジとやってるんだ、ううん、ちょっとほかの人より早くって、
ほかの人より激しいかもしれないけど、みんなやって、いや子供の居る親ならみんな
したはずなんだ・・・
でも、何でその事を思い出すと、こんなに動悸が激しくなるんだろう、
そして何で胸が熱くなるんだろう・・・
・・・私、なにやってんだろうシンジ・・・だめ、だめ!なんかほかの事を考えなくっちゃ・・・

|コピーのロンギヌスの槍が朱色のエヴァの左顔面に突き刺さる・・・
|それに気味が悪いほど生物的なエヴァ量産機が襲い掛かりたちまち食い尽くされていく・・・
|これは前世の悪夢・・・

セルフコントロールで胸の動悸を収めた私は、再び町外れの丘へと歩き出す・・・
そういえばカヲルの奴、今頃どこに居るんだろう・・・使徒タブリス・・・
自由をつかさどるもの・・・
まあ元だけど・・・ATフィールドが使えなくなったからって、
ネルフで護身術習ってたみたいだけど・・・
今まで縛られた人生だったからって大人びた事言って、
まさか危ない所ばっかり行ってんじゃないでしょうね・・・
まあ、あんたの人生だから命はうまく大事に使いなさいね・・・
ああ、なんで私、あんなわけのわかんない奴の事思い出してんだろう・・・

|『シンジ君!初号機に乗ってたんじゃないのかい?』
|銀髪の少年がいぶがしげに頭を振る
|『カヲル君、初号機はちょっとほかの人に頼んで乗ってもらってるんだ、
|君を説得する時間がほしくてね』
|『僕は使徒だよシンジ君、その僕を説得できると思うのかい、
|生と死は僕にとって等価値なのに』

|にこやかに笑う銀髪の少年、
|それに勝るとも劣らないまさに天使の微笑を浮かべる漆黒の髪の少年
|『大丈夫、自信があるから・・・では、紹介させてもらうよカヲル君、今回の僕の秘密兵器、
|自称僕の2号さん、かつ、超絶天才スーパー美少女、赤い魔獣こと惣流・アスカ・ラングレー嬢!』
|初号機のエントリープラグが排出され、中から赤いプラグスーツに身を包んだ朱金の髪の少女が、
|LCLを滴らせながら初号機の手の平へ飛び降りる、
|少女はぼきぼきと指を鳴らしながらほがらかに微笑んだ・・・

|『は〜〜〜ぃ、シンジの愛人の惣流・アスカ・ラングレーです、よ・ろ・し・く!』
|『カヲル君が僕の申し出を断った時は、悪いけど彼女に半殺しにしてもらうよ・・・
|と言う事で返事がほしいんだけど』
|朱金の髪の少女が不気味ににやりと笑うと、銀髪の少年の笑顔が引きつる・・・

私は取りとめなく、くだらない事を、頭の中で走馬灯の様にグルグルと回しながら歩き続ける・・・
やがて町外れにたどり着くとアスファルトの舗装が途切れ、
軍用ブーツの下で霜柱が砕けシャリシャリと音を立てる・・・
私は村はずれの丘へ続くなだらかな傾斜の小道を、やっくりと登り始めた・・・

|テノールの歌声が響く中、3体のエヴァがその装甲を自ら脱ぎ捨ててゆく・・・
|そして現らわになった素体のシミ一つない肩の上に立つ2人の少女と一人の少年・・・
|彼らの目はルビー色に輝きその唇からは破壊と創造の壮大な歌が紡がれて行く・・・

小高い丘の頂に立った私は、紅いベレーを脱ぐとハンカチを取り出して額の汗をぬぐう。
ちょっと考えた末、私は軍用コートの前をはだける事にした。

「ふぅ・・・ここんところ書類整理と引継ぎばっかりだったから・・・
すっかり体がなまっちゃったわね」

そして木立の向こうへ目線を・・・あまりいい思い出のない、
しかし今となってはそれさえも思い出となってしまった、
あの自分の主観では陰気で暗い家が一望の下に望めるはずだった・・・
私の手から赤いスーツケースが道端の草の上へと落ちる・・・

「なによ!これは・・・ちょっと・・・そんな!ばかな!」

私は蒼い目を見開いて怒りに任せてこぶしを振り下ろすと、
丘のふもとへ向かう道へと駆け出して行った・・・

|黒と赤のプラグスーツを着た少女が朱色のエヴァを介してにらみ合う・・・
|二人の姿かたちは朱金と銀髪、髪の色を除いて鏡に映したようにそっくりだった・・・
|『サード、いえツヴァイ!あんたのせいで私とドラィがどんな目に会ったか・・・』
|『私のせいでっ?あんた、いったいだれよっ!』朱金の少女が目を大きく見開いて叫ぶ・・・

赤いベレーは駆け降りてくる途中どこかへ飛んでしまい、
朱金の髪は風にまかれ乱れまう・・・
駆け下りた丘のふもとに立ち止まった私は、
振るえながら自分を抱きしめるように胸をかき抱く・・・

「なんで・・・どうしちゃったのよ・・・
たしかに何年も帰ってないけど、確かにいたのよ!
ここに・・・でも・・・どうして・・・どうしてここには何もないのよ〜〜〜〜っ!」

私の振り絞るような声は最後の方はかすれてしまい、ゆっくりと両の足の力が抜けて行く・・・
あふれ出てくる涙で目の前の信じられない現実がかすんで見える・・・
私は思わずそこへ座り込んでしまった・・・

私の家が合ったはずの場所には、太い針葉樹林の森が広がっている、丘からの道は、
そのまま森を抜ける細い小道となってどこまでも続いていた・・・
過去そこに何か合った痕跡は・・・な・か・っ・た・・・

|朱金の幼い少女の白く折れそうに細い首を、黒髪の女の両の腕がぎしぎしと締め上げる・・・
|『一緒に死んで頂戴・・・アスカ・・・』
|『私を殺さないで!・・・私を殺さないで〜〜っ!!』

分かりたくない・・・でも分かってしまう・・・
私の心が、今まで私の中でばらばらたったジグゾーパスルのピースを
情け容赦もなく繋ぎ合わせてしまった・・・
私の皮肉にゆがむ口から自分をあざ笑うように、苦い笑いがこみ上げてきた・・・

「そおっかっ・・・くくくっ・・・そういうことだったんだ・・・」

いつまでも分かりたくなかった、でも・・・もう遅い・・・
だって私は何があったか分かってしまったんだもの・・・
私の目からは止め処も無く、涙があふれ出て行き頬を伝う・・・
心に何か大きな穴が開いた様で・・・思わず鳩尾に拳を当てて体をわななかせた・・・

「くはははっ・・・私なにやってたんだろう・・・私・・・私もレイと同じなんだ・・・」

ママが人工授精で私を生んだのは知ってたけど、
それだけじゃなかった私はたぶん受精卵分割型のクローンなんだ・・・
最初の私はきっと、失敗に終わったサルベージで狂った
”キョウコ”ママに殺されたのだろう・・・だから、今の私はたぶん二人目・・・

ドイツ支部で何年もエヴァの訓練をしてきたと思ってたけど、
私はひょっとすると2年ぐらいしか生きていないのかもしれない・・・
養父母の家の記憶はきっと植えつけられた記憶・・・悲しい偽物の記憶・・・
私もレイのように、あのオレンジ色のLCLの中に浮かんでいたのだろうか・・・
いつか戦った私の妹達と一緒に・・・

「レイ・・・ごめん・・・」

最愛のシンジをめぐる恋敵、そして戦友でもある、
ここには居ない蒼い髪のアルビノの少女への謝罪の言葉が、ぽつりと口からこぼれる・・・
私あんたの事を分かっているつもりで、全然分かってなかったんだね・・・
ほんとに心が凍て付くようで寒い・・・

なぜ彼女がシンジにすがりつくようにしていたのか、今になって私は知った・・・
人のぬくもりがほしかったんだ・・・
私はまるで年端のいかぬ子供のように泣きじゃくる・・・

「シンジ・・・寒いよ・・・シンジ〜〜ィ・・ぐすっ・・ううぅぅっ・・・」

私は思わず涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげると、
そのはるか彼方の愛する人を見つけようとするかのように
ぽおっと雲ひとつない空を見上げ泣き続ける・・・
私の目と同じ色の蒼い空を見上げながら・・・

きっとシンジ、いまごろレイと仲良くやってるんだろうな・・・
そのとき私は突然、吐き気を覚え口を押さえて前かがみにへたり込んだ・・・

「〜〜〜〜〜うううっ〜〜〜〜うえっ〜〜〜」

私は不覚にも朝、食べたものを吐き戻してしまった・・・
ああ、久しぶりに食べた本場物のウインナー・・・

「なんだってのよっ!・・・何でこの私がこんな目に・・・
それで無くても、泣きたいような目に合ってるってのにさっ!」

へんだ・・・常夏の日本ならいざ知らずこのドイツで食中毒なんてあるわけ無い、
しかも一流ホテルのモーニングで・・・
私の体はどうしちゃったんだろう・・・何か悪い病気なんだろうか・・・

たしかに下腹部になんだか今まで感じた事の無い不思議な感触がある・・・
これはいったい何だろう・・・暖かいような気がする・・・
やさしい天子の指で触られるようなこの感触・・・

「・・・あ・・あれ・・・ひょっとすると・・・」

ざめざめと泣いていた私が、虚を突かれて呆然となる・・・
そういえばなんだかここの所、あんまり忙しくて忘れてたけど月の物が来ていない・・・
帰還者のシンジ達に手伝ってもらって、使徒モードに入る前まであんなに辛かった、
あの、月に1度の苦痛と自分が女なんだと、いやでも思い知らされるイベント・・・

私はすばやく計算を済ますと・・・
自分の体のそこから嬉しさが止め処もなく沸きあがって来るのを感じた・・・

「シンジ・・・ありがとう・・・」

げんきんな私は今度は嬉し涙を流しながら、
ここに居ない最愛の人シンジに感謝の言葉を送る・・・
もしそうなら、体を冷やすのは良くない・・・
私はスカートのほこりを払いながら立ち上がった・・・
なんだか、さっきまであれほど冷え冷えとしていた体が温かい・・・

「まずは確認ね、産婦人科へ行かなきゃ・・・
シンジ・・・驚いてくれるかしら・・・くすっ・・・」

シンジの天使の笑顔に匹敵する笑みを浮かべながら、
私はしっかりとした足取りで来た道を戻り始める・・・最愛のシンジの待つ場所へと・・・



At that point the story comes to an abruptEND.....



-後書-


WebのEVE小説にかぶれちゃったよどうしよう&ちょっと早い540000HITお祝いです
しかし、我ながら本編の前に外伝をWeb発表とは、ちょっといかれてるかも(涙)
地元ではTVで放映されなかったのですが、東京の友人にVTRを送ってもらったと言う大変いわくつきの番組です
いまさらこんなものを書こうとは思いませんでした、たとえ中年になっても心はいつまでも大学生と言う感じですね(爆笑)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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