量産少女 Type-A’

by 佐伯kouji 20030619
Copyright 2003 猫の結社




アタシの体を覆う赤い色のフードが、少し汗ばんだ体へとまとい付き、
下に何も付けていない、そのグラマラスな肢体を浮き彫りにする。
アタシは、汗で額へと張り付いた自慢の朱金の髪を、小うるさそうに掻き上げた。

アタシはアリス・ 12(ツヴェルフ) 、タイレル社の人工子宮から生み出されたアタシは、
レプリカントと呼ばれる、人へ絶対服従を心の奥底まで刷り込まれた人工生命体だ・・・

いまアタシは、自前の二本の足で歩いて自分自身を宅配してる最中だ・・・
何故歩きかと言うと、・・・この辺りは自然回復指定区域で、
動力を利用した乗物の乗り入れが禁止されているからだ・・・

人とは、なんとも厄介な事をするものだ・・・
もちろん、高額商品のアタシには少々頼りないけど、しっかりガードが付いている。

しかし・・・なんでこんなに歩いても、ご主人様宅へたどり着かないんだろう?
現在位置にちょっと不安になったアタシは、立ち止まって、自分の宅配伝票を確認する・・・
薄い (電子) ペーパーの上に刷り込まれたタッチポイントが、
アタシの指先の温度に反応して、現在の場所と地図上の場所を重ね合わせた。

ご主人様のお宅は・・・もう少しか・・・浮かび上がった地図で、
アタシは迷っていないことが確認できて、ホッと胸を撫で下ろす・・・

道に迷って、ご主人様に合えなかったなんて無様な事になったら
アタシは、他のアリス・シリーズの姉妹達に合わせる顔が無い・・・

そんなアタシの後ろに付いてきた、
ガードのレプリカントがアタシへ話し掛ける・・・

「ツヴェルフ、良いご主人様に当たると良いな・・・」
「ハン、アタシ達アリス・タイプは強運の星の上に生まれてんのよ・・・
だから、アンタごときに心配される必要なんて無いわよ・・・
一言多いのよね、Kタイプのガードのくせに・・・」

アタシは言葉とは裏腹に、嬉しそうにガードへ微笑む・・・
ガードのKタイプも、無精髭の残る顔でアタシへ微笑み返した・・・

「あはは・・・そいつは悪い事をしたな・・・」

全然悪くなさそうに、人好きする顔でKタイプは謝ると
アタシを置いて前に出る、アタシはKなにがしの後頭部へ縛ってまとめられた、
小さなポニーテールを追う羽目になった・・・

何でコイツ、さっさとアタシの前を行くのよ・・・
アタシは小走りに後を追いかける、コイツちゃんと行き先を知ってるんだろうか?

「ま・・・待ちなさいよ・・・
アンタ、アタシの行き先を知ってるの?」

アタシの声に、アイツが意外そうな顔で振り返った・・・
アタシは少し息を切らせながら、やっとKタイプへ追いつく事が出来た・・・

「もちろん・・・ついさっき、場所を確認しただろう?」
「あきれた・・・アンタ、レデイの物を盗み見るなんて最低よ」

アタシは少し頬を膨らませて、Kタイプを睨み付ける・・・
アイツは心地よさげに笑った、そしてアタシの後ろを指差す・・・

「ご主人様が見てなきゃ良いけどな・・・」
「え・・・ええ〜っ・・・」

後ろを振り向き、アタシは思いきり引きつった・・・
何時の間にかアタシは、ご主人様の、お宅の門を通り過ぎていた・・・

「まったく、いやみな奴だわねアンタは、ちゃんと言いなさいよね」

アタシは、コンマ三秒で大きな猫をかぶりなおすと、
アイツの足を、引き返すお駄賃代わりに思いきり踏み付けて、
ご主人様宅の門へと取って返した・・・

ああ、これがばれれば、アタシは他の姉妹から10年と言う短い生の中で、
一生後ろ指を刺されかねない・・・アタシの額に冷や汗が伝う・・・

「アンタ・・・もし、この事をばらしたら一生祟るからね・・・」

アタシは顔に作り笑いを貼り付けたまま、Kタイプを睨み付ける、
アイツはそれにウインクで答えた、その涼しげな表情が癇に障る・・・

「さあ、行きなお譲ちゃん、
きっとアンタのご主人様が、首を長くして待ってるぜ」
「あ・・・アンタなんかに、言われなくっても行くわよ・・・」

アタシは緊張して体を硬くしながら、震える声でアイツへ答える・・・
Kタイプが、優しくアタシの肩を前へと押し出すように叩く・・・
そのとたん、不思議な事にアタシの震るえが納まった・・・

「いい?・・・行くわよ・・・アタシ・・・」

アタシは気持ちを引き締め、思いのほか小ぶりな平屋建てのご主人様のお宅へと足を進める・・・
意外にも手入れが行届いた短い芝の上に、島のように並ぶ敷石がヒールの踵を擦った・・・

一瞬、躊躇したアタシの白魚のような指が、ノッカーを持ち上げる・・・
そして台座に打ち付けられた、ノッカーの金具が乾いた音をアタシの耳へと響かせた・・・

『だれ?・・・』
「始めましてご主人様、ご注文いただいた、
タイレル社レプリカントのアリスです、納品されに来ました・・・」

隠されたスピーカーから、アタシのご主人様の心地よいソプラノの声が流れる・・・
アタシは、こう言う時に言うようにと教え込まれた、
何処か文法に問題のありそうな定形文を、出来るだけ、愛想良く聞こえるように口にした・・・

だって、これがアタシとご主人様との始めての会話だもの・・・
アタシとしては、ご主人様に可愛いい奴って思ってもらいたいから・・・

『わかった・・・ちょっと待って、いま開けるから』
「はい・・・ご主人様」

アタシはしおらしく返事をして、ドアの開くのを、どきどきしながら待ちうける・・・
小さな音と共にドアが開錠され、分厚い天然の木で出来たドアが開いていく・・・

はうっ・・・これからアタシはご主人様に、ああして、こうされて・・・うふふっ・・・

「・・・貴方が新しくきた人ね・・・」

抑揚の乏しいガラスの風鈴を鳴らすような涼しい声に、甘い妄想の中からアタシは蹴りだされた・・・
正気に戻った自分の目の前には、赤味がかった眼がアタシを見つめている・・・
ドアを開けアタシを出迎えたのは、蒼銀の髪に薄地の白いトーガ風の物を羽織った少女だった・・・

「え・・・あ、アタシは、その、あの・・・」
「君は、ここのお宅の子だね?・・・伝票にサインしてくれるかな?」
「・・・ええ・・・伝票は?・・・」

いったいアタシの、あの綺麗なソプラノの声のご主人様はどこ?・・・
突然肩すかしを貰ったアタシは、混乱してパニックに陥る・・・
そんなアタシを差置いて、ガードのKタイプがしゃしゃり出て、
伝票にサインを求めた・・・彼の野太い声が、何故か自分には心強く感じられる・・・

「こ、ここにサインをお願いします・・・」

アタシは思い出したように、宅配伝票のeペーパーを取り出すと、
タッチポイントをつつき、受領サインモードに切り替える。
蒼銀の髪の少女、おそらくタイレル社製のレイン・タイプは、
その白亜の指を、優雅に宅配伝票に滑らせサインを済ました。

「どうも・・・じゃあな、ツヴェルフ、息災でな・・・」
「うん、アンタもねK・・・目覚めが悪いから、のたれ死ぬんじゃ無いわよ」

アタシは、別れを告げるガードのKタイプに、ニヤリと人の悪い笑顔を送る・・・
もう二度と、自分はコイツに会う事は無いんだろうな・・・

「・・・私に着いて来て・・・」
「あっ・・・まって・・・」

涼しげな声と共に、蒼銀の髪の少女が後ろも見ずにドアの中へと消える・・・
アタシは慌ててその後を追った、その後ろで音も無く重厚なドアが閉じた・・・

そして、家の中を見たアタシは目を丸くする、中はガランとしたワンルームになっていて、
家具はおろか人の住む気配さえ無い・・・その部屋の中央で、さっきの少女が私を持っていた。

「・・・何を驚いているの?・・・ここへ来て・・・」
「こ、ここって・・・何もないんですね・・・」

アタシは恐る恐る、彼女の傍へ足を進める・・・
少女の赤い目が困惑の色を湛えた・・・

「・・・何故そんな事を言うの?・・・玄関ホールに、貴方は何を求めるの?・・・」
「げ、玄関ホールですか?・・・」

意外な非難にアタシが答えに困っていると、彼女は空中でその白い指を優雅に躍らせる・・・
これって・・・アタシはその軌跡が、さっき宅配伝票に書かれたサインと同じ物だと気が付いた・・・
その後僅かな時間を置いて、足元がするりと沈み込む、穏やかな落下する感覚に五感を惑わされ瞬きしたアタシは、
何時の間にか周りを手すりに囲まれた、オープントップのエレベーターに乗っているのに気が付いた・・・

「えっ、あっ・・・」
「・・・驚く事は無いわ・・・
ここは富士火山脈の溶岩道の中・・・大きな空洞になっているの・・・」

あまりの体験にアタシがフラフラしている内に下降が止まり、正面の壁が開く・・・
其処は赤い絨毯が引き詰められたシックな通路だった、中世風のデザインに間接照明が柔らかな光を投げかける。
蒼銀の髪の少女の紅い眼が、アタシへ付いて来いと無言で語りかける・・・

「こんなとこへ住んでるなんて・・・ご主人様はお金持ちなんですね・・・」
「・・・そう・・・そうなの?・・・」

アタシの前を行く蒼銀の頭が、少しだけ傾げられる・・・

「えっ、だって・・・これだけ凄いとこにお住みなんだから?」
「・・・そうかもしれない・・・
でも、私そう言うのに興味が無いから・・・ただ、ご主人様がいらっしゃれば良いもの・・・」」

アタシの、ちょっとはしゃいだ声に答えた彼女の声は、少しだけ艶やかな色を帯びていたような気がした・・・
その蒼銀の髪が急に立ち止まる・・・危うく突っかかりそうになったアタシは慌てた・・・

「えっ、ああああっ・・・」
「・・・貴方・・・何を慌てているの?・・・
まあ、いいわ・・・ともかく脱いで・・・」

彼女はアタシへ唐突に言い放つと、其処だけ洋風の中に、
浮いた装いの和風の 暖簾(のれん) らしき物を潜って脱衣所のような所へと入り、
素早く身にまとっていたトーガを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になりアタシの前に立つ・・・

アタシは、自分の前に立つ彼女の形の良い胸に、
乳首を貫くように銀のピアスが光っているのを目にして、何故か凄くうらやましく感じた・・・

「あの・・・これから、ご主人様にお会いするんじゃあ?」
「・・・あなた、そのいでたちでご主人様の前に出たいの?・・・」

どう見ても、風呂場への入り口にしか見えない扉を前に、アタシは躊躇した・・・
彼女の言う通り、いまのアタシは汗を掻いていて、とても見れた状態じゃ無い、でも・・・

「えっ・・・それは・・・
汗が流せたら・・・でも、ご主人様の方はよろしいのですか?」
「・・・貴方、何か勘違いしてる・・・ご主人様はこの中でお持ちだから・・・
早く行かないと、ご主人様が湯あたりなさるかもしれない・・・」

どんな理由が有れ、ご主人様をお待たせするわけには行かない・・・
アタシは慌てて紅いフードを脱ぎ捨て、その肌を少し冷たい空気にさらす・・・
確かに何時もは張りの良いアタシの滑らかな肌は、汗に濡れて元気が無い・・・

「・・・いらっしゃい・・・汗を流す時間はあるから・・・」
「あ、はい・・・」

アタシはこの蒼銀の髪の少女に、思わす臣下の礼を取ってひたすら後を追従する。
扉を抜けたアタシ達は思いもよらぬ広さの浴室を横切り、打ち湯と思われる場所で、
彼女の手で、徹底的にシャボンを塗りたくられて、頭から爪先まで磨き上げられた。

「・・・気になるの?・・・」
「はい、羨ましいなと思って・・・」

そんなに露骨に、自分は彼女の胸元を見ていたのだろうか、
唐突に彼女に聞かれて、アタシは率直に答えてしまった・・・

「・・・たぶん、ご主人様が貴方にもプレゼントしてくれる・・・
でも、それまで、私ので良かったら貸すわ・・・どお?・・・」
「えっ、お、お願いできますか・・・?」

自分の答えに、彼女はコクリと頷くと素早く席を立ち、
小さな小箱を手に帰って来た、そして、それを開きアタシへ確認する・・・

「・・・貴方には金色が似合うと思ったの・・・サイズはこれで良いかしら・・・」
「はい、ありがとうございます・・・」

アタシは借りたそれを、自分で乳首に開けられた穴へと通してネジを締める・・・
傍らの姿見へ写したアタシの裸身は、朱金の髪と、
乳首に付けたUの字型のピアスがワンポイントになって、凄く艶かしく仕上がっていた・・・

「・・・良いようね・・・きて、ご主人様にお目通りしましょう・・・」
「はい・・・」

アタシを従えて、蒼銀の髪の少女は、ジャングル風呂のような浴室の奥へと足を進める・・・
アタシはすっかり、目の前の少女に従順になっている自分を発見して、少し驚いた・・・
湯船から溢れるお湯が、温泉なのか硫黄の匂いが微かに漂う、
並々とお湯を湛えた湯船を通り過ぎ、奥まった其処に湯煙越しに人影が見えた・・・

アレが、アタシのご主人様なの?
アタシの心が、期待と不安に高なる・・・

「・・・連れてまいりました・・・」
「うん、レイン、ご苦労様・・・」

ああ、この声だ・・・玄関で聞いたソプラノの声が、アタシの耳へ甘く響く・・・

「・・・長湯はお体に毒です・・・」

目の前の蒼銀の髪の少女が、恐れ多い事にご主人様に意見する・・・
アタシは、目の前の彼女の命知らずな振舞いに、思わず目を見開いた・・・

「そうだね、分かったよ、レイン・・・」

だが、さらにアタシは、自分達の生権与奪の力を持つご主人様が、
それに従うのを見て、眩暈にも似た混乱に心を揺さぶられる・・・

「ああ・・・いらっしゃいアリス・・・疲れは取れたかい?」
「はい、ご主人様・・・」

アタシは、自分の中で吹き荒れる混乱の中、機械的に返事を返していた・・・
自分へタイレル社によって、深層意識の奥底まで刷り込まれた、
人に服従せよと言う、絶対命令が炎の文字となってアタシを焼き焦がす・・・

「ピアスは・・・うん、レインのだね・・・」
「・・・はい、私の予備を貸しました・・・」

先輩たる蒼銀の髪の少女は、そんな事にお構いなく、
アタシの前で、ご主人様へ微かに穏やかな笑みを浮かべる・・・

「うん、色も含めてこの子には似合ってるよ・・・
レインの見立ても、中々の物だね・・・」
「・・・ありがとうございます・・・」

蒼銀の髪の少女が、微かに頬を紅く染め、僅かだが頭を下げる・・・
アタシは、目の前の状況が理解できていない・・・
レプリカントは人に隷属しなくてはならない・・・アタシに刷り込まれた禁忌が、心の中をかき乱す・・・

「さあ、おいで・・・
僕が君の主人のシンヤだ・・・アリス・・・何に当たるのかな?」

ご主人様が、アタシをほって置いた事に気が付いて、
再びその柔らかい声で、アタシを呼びその心を蕩かせる・・・
さらさらの濡羽色の髪が、黒曜石から削りだしたような、黒い瞳がアタシを魅了した・・・

「ツヴェルフです・・・ご主人様・・・
でも、アリスとお呼び戴ければ幸せです・・・」

アタシは、ご主人様の笑みに心を癒されるような、暖かさが内に広がるのを感じる・・・
ああっ・・・さすが、アタシのご主人様・・・お湯で上気した肌も凄く色めかしい・・・
正に、このアタシのご主人様になるべくして、生まれられたようなお方だわ・・・

「うん・・・じゃあ、アリス・・・おいで・・・」
「はいっ、ご主人様っ・・・♥」

ご主人様が、自らアタシを手招かれる・・・
アタシは、飛びつきたいのを懸命に押さえて、静々とご主人様の胸に抱かれた・・・
ご主人様の両の (かいな) が、アタシのグラマラスなお尻を包みこみ、優しくその輪郭をなぞる・・・

「ご、ご主人様・・・契約の口付けを・・・お、お願いします・・・」
「うん、わかった・・・」

上がりまくったアタシは、どもりながらやっとの思いで、性奴としての隷属の儀式を口にした・・・
ご主人の胸に抱かれた事で、アタシの耳へ自分の心臓が、バクバクと音を立てて脈打つのが聞こえる・・・

ご主人様の顔が近づいてくる・・・アタシは頬を熱く火照らせて、静かに眼を閉じた・・・
そして、ご主人様の唇が、アタシの唇を塞ぎ・・・重なる、
アタシとご主人様の初めてのキスで、神聖な隷属の儀式が締めくくられた・・・



at point the story comes to an abruptEND.....



-後書-

トーガ = 古代ローマ市民がトゥニカの上に着装した布を巻き付けたような平常着。
タイレル社 = レプリカントの製造会社。
レプリカント = 人へ絶対服従を心の奥底まで刷り込まれた人工生命体。
  その材料は人以外のイルカやサル、豚などのDNAが使われるが、外見を人に似せるため、
  形状を決める遺伝子部分だけは、ジーンスキンと言う技術で人の姿が刷り込まれている。
  彼らは、人工子宮から引き上げられた時点の表層年齢に固定され、その容貌のままに
  10年の寿命を全うする、その命の終わりは肺や脳機能の低下として生じ、最終的には
  眠るがごとき死を向かえる(と言う設定)
(電子)ペーパー =  この世界では一般的に多用されている、プラスチックの特殊紙の上に電子回路を印字した物、
使用者の体温を感知し表面の表示を変えたり、サインを記憶したりいろいろと凝った動作が出来る。

書けと言う、天からの啓示が下されたとは言え・・・(苦笑
私は、自分のメイン連載をほっておいて何をしてるんでしょう・・・(滝汗



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