悪魔のいけにえ





 この世で一番怖いのは子供だ。
 我々大人なんて比にもならない。
 自分より強いものから、肉体的に加えられた暴力の痛みはいつか消えるけれど、子供から心に突き立
てられた傷は永遠だ──。


 まるで心臓に突き刺され、吹き上がった血で染められたように空は赤い。
 森の向こうに太陽が沈んで行くのを、佐藤は別荘番の家の前から見ていた。
 その隣には何故だか”おぼっちゃん”がいて、居心地が悪い。
 この精神的異端児のことは、正直苦手だ。
 子供らしい可愛い顔を真っ赤に染めて、少しだけ笑みを浮かべて。
 人を騙すことに痛みもない。
 人を消すことに痛みもない、きっと。
 僕は森で出会った蛙のような男を思い出した。
 僕の推理が正しければ―――。


「なぁ、家ダニ」
「・・・はい」
 考え事の途中で話し掛けられ、佐藤は大きく肩を竦めた。
 馬鹿らしい。こんな子供相手に。
「ぼくは、お前のことが結構好きなんだ」
「・・・・・・・・・・」
 悪魔に呪われた。
 優しい言葉で懐柔して、一体何が目的なのか。
 嫌がる顔が見たかったなんて、つまらない理由でからかわれていることを、哀れにも佐藤は知らない。



20080811