【形あるもの、ないもの】

「ねぇ、じいや……兄や、まだ?」
「亞里亞さま様、先ほどから申し上げているように、兄やさまはもう少しでいらっしゃいますよ」
「兄や、早く来ないかなぁ……」

 ここから窓の外を眺めていると、兄やがやってきたらすぐに分かるから、ここが亞里亞のお迎え場所。
 ここから兄やが見えたら、ピューって兄やの元に走っていくの♪
 ……あっ、兄や来た♪

「あ、亞里亞さま、どこへ……」
「兄やが来たの♪」
「……ふう。相変わらず亞里亞さまはよくお分かりになりますね。だって、まだ兄やさまのお姿は見えていないのですから……」

 じいやが何か言っていたみたいだったけど、今は兄やをお出迎えするほうが大事なの♪ だって、今日は亞里亞の誕生日です♪

 エントランスの扉を開けて、門のところにいる兄やのところまで走っていきます。兄やの姿が見えると、亞里亞とっても嬉しくなってきて、足もなんだか羽が生えたみたいに軽くなっちゃうの♪ だからいつも、あっという間に兄やのところに着いちゃう……♪

「亞里亞、お出迎えご苦労様。今日はいつもよりも早かったんじゃないかい?」
「だって、今日は亞里亞の誕生日だから、たっくさん兄やと一緒にいたかったの♪ だから、足に羽が生えたのよ♪」

 亞里亞は空いている兄やの左腕にしがみつくと、わぁ♪ とっても暖かい♪ それに兄やのにおいがするの♪
 そのまま、亞里亞のお部屋まで一緒に行きました。

「亞里亞、誕生日おめでとう」
「うわぁ、とってもキレイ♪ こんなケーキ見たことない……」

 誕生日になると、兄やは亞里亞が見たことのないお菓子を持ってきてくれるの♪ 
 一口食べてみると、とっても甘くってほっぺがトローンって落ちそうになっちゃった。
 あ、もしかしてこれが「アイ」なのかな?

 じいやは「兄やさまは、亞里亞様にアイをくれる御方ですよ」って言っていたの。
 だから亞里亞、日本に来てから兄やがアイをくれるのをずーっと待っていたの。
 兄やに初めて会ったとき、すぐにアイをくれるものだと思っていたのだけど、兄やは何もくれなかったの。でも、一日中遊んでとってもとっても楽しかった♪
 それからも、亞里亞は兄やがアイをくれるのをずーっとずーっと待ってたの。でも、兄やと一緒にいるときはいつもとっても楽しくなっちゃうから、アイのことは忘れちゃうの……くすん。アイのことを思い出すのは、兄やが帰って夜眠るときなの……。

「ねえ兄や……これがアイなの?」
「え? うーん……そうかもしれないね」
「やっぱり、これがアイなのね♪」
「いや、なんて言うのかな……。アイには色々な形があるんだよ」

 いろいろな形? アイって、このケーキのことじゃないのかな? もっと他のお菓子にもアイがあるのかな?

「兄や……他にはどんなアイがあるの?」
「うーん、難しいね。ただ一つ言えることは、こうして亞里亞と一緒にいるだけで、僕は亞里亞にアイをあげていると思うんだ」

 ??? 亞里亞、なんだか難しくてよくわからなかったんだけど、アイってお菓子のことじゃないのかもしれない、って思いました。でも……兄やは亞里亞にアイをあげてるって言ってたけど、亞里亞何をもらってるのかな?

 その時、トントン、って扉を叩く音が聞こえました。

「亞里亞さま、そろそろ皆も亞里亞さまをお祝いする準備ができましたよ」
「はーい」

 亞里亞がフランスにいたときから、誕生日にはお家の皆がお祝いしてくれるの♪ 日本に来てからも毎年お祝いしてくれるんだけど、兄やがいるからもっと素敵になったの♪

「亞里亞さま……。あら、今年はケーキですか。ウフフ、亞里亞さま、コック長が日本に来てから亞里亞さまが自分の作ったケーキをあんまり食べてくれなくなった、って嘆いていましたよ」
「でも、兄やのケーキ、とっても甘くておいしいから……♪」

 兄やはなんだか少し困ったようなお顔をしていました。? どこか具合でも悪いのかな? 兄や、大丈夫?

「ああ、大丈夫だよ、亞里亞。さあ、行こう」
「はい♪ 今日は……兄やとずーっといっしょにいるの♪」

 そうして、皆の待つホールへ向かいました。

 HAPPY BIRTHDAY 亞里亞!

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