【きっかけはレディ】


「亞里亞さま! また、お勉強をサボってなさるのですか!」

 ……くすん。じいやのお目目、三角なの……。
 亞里亞、サボってないの。窓の外から赤い羽の小鳥さんが、赤いお花をくわえて亞里亞のお部屋にやってきたから、わぁ、キレイ♪ って、亞里亞嬉しくなっちゃって。もっともっとくれるかな? って思って、ずーっと窓の外を眺めてただけなのに……くすん。
 亞里亞、お勉強キライ。小鳥さんと遊んでる方が楽しいもの。それに、きっと兄やと一緒ならもーっと楽しいの♪ うわぁ、兄や♪ そうだ、ねえ、じいや。兄やに、亞里亞のところに来てくださいってお願いしてください♪
 そうしたらじいやは、三角お目目のままで、

「亞里亞さま! きちんとお勉強をしてステキなレディにならないと、兄やさまに嫌われてしまいますよ」

 って……。亞里亞、兄やに嫌われたくない。兄やに嫌われちゃったら、亞里亞、いなくなっちゃう……。亞里亞、お勉強する……。

 じいやが言うにはね、亞里亞のお勉強は、亞里亞がステキなレディになるためのものなのですって。でもね、亞里亞は、兄やが亞里亞のこと好きでいてくれたらいいの。それに、亞里亞、もう小さい頃とはちがうの。もうステキなレディなの。だって、兄やが「亞里亞は小さなレディだよ」って言ってくれたんですもの♪
 あっ、そうだ♪ 兄やに「亞里亞はもう、ステキなレディですよ」ってじいやに言ってもらえば、きっとじいやも、「そうですね。もうお勉強はいいですよ」って言ってくれるに違いないの♪
 兄やに会いに行かなきゃ♪ でも、お屋敷を出るのをじいやに見つかったら、きっとじいやはまた三角お目目……。
 だから、亞里亞、こっそりお屋敷を出て、兄やのお家へ行くことにしました……。
 こっそり、こっそり……。

「亞里亞さま、お庭でお遊びですか? 3時のおやつまでにはお屋敷にお戻りくださいね」
「はぁーい♪」

 3時のおやつだって♪ 今日のおやつは何かな? あまーいチョコレートソースがかかったパンケーキかな? 亞里亞の大好きな、ハチミツのかかったアイスクリームかな? この間食べたミルフィーユは、ぽろぽろこぼれて食べづらかったから……亞里亞は別のがいいな♪
 それからミルクティーには、薔薇のお砂糖を浮かべて、くるくる、くるくる、薔薇がなくなってしまうまでぐるぐるするの……♪ 亞里亞は、薔薇が一つじゃ足りないから、もう一つ浮かべて、くるくる、くるくる……。
 うわぁ♪ すごく楽しみ♪ 兄やと一緒に食べたいな♪ 早く兄やを探さないと、兄やと一緒に3時のおやつが食べられないの……。

 お庭をずーっと歩いていくと、亞里亞のお家の門とは反対側に、庭師さんとか郵便屋さんが通る小さな扉があるの。ここからお外の世界に出たら、兄やに会えるのかな? 兄や、今行くから待っててね♪

 亞里亞、お外の世界にはあんまり出たことがありません。それに、いっつもじいやがいっしょだったから、亞里亞、1人でお外の世界に出るのは初めて……。
 じいやは、お外にはこわーい人がたくさんいるから、気をつけなければいけませんよ、って言うのだけれど、お外の世界には兄やもいるの♪ 亞里亞がこわーい人に会っても、「亞里亞には触らせないぞ」って、兄やが助けに来てくれるの♪ だから、亞里亞、お外でも怖くないの♪

トコトコトコ……。

 ……あれ? ここ、どこかなぁ? いっぱいいっぱい歩いたのに……兄やのお家、まだかな? 猫さん、兄やのお家はどこですか? あっ……行っちゃった……。
 周りは、灰色の壁のお家ばかりで、なんだかお空まで灰色に見えてくるの……くすん。

 ……? 亞里亞のこと、じーっと見てる……。キラキラお羽が光ってる真っ黒なカラスさん……。亞里亞、この前読んだご本を思い出しました。道に迷った旅の人が、怪我を治してあげたカラスさんに道案内されるお話……。だから、亞里亞、「兄やのお家に連れてって下さい♪」ってお願いしたの。そうしたら、バサッて一度大きく羽を広げて、そのままバササササッって、お空に飛び上がっちゃったの!
 あー、待ってー。
 亞里亞、カラスさんに置いて行かれないように、お空を見上げながらちょっぴり急いで走っていたのだけれど、カラスさんはぐんぐん飛んでいって……すぐに見えなくなっちゃった……くすん。
 でも、すぐに亞里亞の右のお耳に「こんなところでどうしたんだい?」って、兄やの声が聞こえたの♪

 あ、兄や♪

 亞里亞、すぐに兄やに飛び込んじゃった♪ 亞里亞ね、兄やに会いに来たの♪ それでね、亞里亞、道案内のカラスさんに兄やのところまで連れてきてもらったの♪ きっと、さっきのカラスさんは兄やのお友達なのね♪ ウフフ♪
 ねえ、兄や……亞里亞、兄やに会えたら……なんだかフワフワしてきちゃった……。

 ふわぁ〜…………。

「あの、兄やさま。亞里亞さまは、こちらにいらしてないでしょうか?」 「しーっ……。起きちゃいますから、ね」

 ねぇ、兄や……。亞里亞はもう、立派なレディなの……。だから、もうじいやには叱られないのよ……♪ これからは、兄やといつでも一緒にいられるの……♪ 兄や、だぁい好き……♪

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