【星に願いを】


「さやかちゃんが、昨日、流れ星を見たんだって」
「あ、私も見た見た」
「可憐ちゃんは見た?」
「ううん、可憐、昨日は早く眠っちゃったから……」

 今日の授業も終わって、放課後お友達が集まってみんなでお話しているから、何か変わったことでもあったのかな? って思ってたら、昨日、流れ星を見たっていうお話だったの。それから、みんな流れ星にどんなお願いをするかっていう話になって、可憐はもちろん「いつまでもお兄ちゃんと一緒にいられるようにお願いします♪」って言いました♪
 それから、可憐、夜になるとなんとなくお空を見上げては、流れ星が降るのを待ってしまいます。

「お兄ちゃん、今日の可憐の格好気に入ってくれるかな?」

 今日はお兄ちゃんとデートです♪
 昨日の夜からずーっと今日着ていく服を悩んでいたんだけれど、これからは段々と涼しくなってくるし折角だからノースリーブのワンピースに決めました。今年のまだ暑くなり始めのころに、偶然お兄ちゃんと学校の帰りが一緒になったときに寄り道した商店街で、お店のウィンドウから見えたのがこのワンピースだったの。淡いピンク色でとっても可愛かったんだけど、可憐にはまだちょっぴり早いかな? って思うようなデザインで。でも、お兄ちゃんが、可憐にはよく似合うんじゃないかな? って言ってくれたから、可憐、その後思い切って買っちゃった♪
 それで今年は何度か着ているんだけど、お兄ちゃんは、よく似合ってるよって言ってくれて♪ 可憐、思い切って買ってよかったです♪
 でも、お兄ちゃんに会うときはこのワンピースが多かったから、もう飽きちゃったりしてるかもなんて……。でもやっぱり、お兄ちゃんが選んでくれた服だから、お兄ちゃんと会う特別な時にはどうしてもこの格好を選んでしまうのです♪


 それから、待ち合わせ場所の、噴水のある公園のベンチでお兄ちゃんを待っていました。昨日からずーっと考えていた可憐の格好を気に入ってくれるかな? とか、お兄ちゃんは今日はどんな格好かな? とか、でもお兄ちゃんならどんな格好をしても似合っちゃうから、きっと可憐みたいにお洋服のことで長い時間悩むことなんてないかな? とか、そんなことをずーっと考えていると、お兄ちゃんを待っている間も全然退屈なんかはしなくって。それどころか逆に楽しいくらいなんだもん♪ お兄ちゃんのことを考えているだけで時間があっという間に過ぎちゃって、可憐、時々「え? もうこんな時間なの?」って時計を見てびっくりしちゃうことがあるくらい。お兄ちゃんと一緒にいなくっても、可憐をこんなにドキドキさせちゃうんだから、お兄ちゃんって本当にすごいな、って思います♪

「あ、お兄ちゃーん♪」

 お兄ちゃんと一緒なら、可憐はどこだって楽しいのだけれど、今日は行きたいところがあって、そこに連れて行ってもらいました♪
 その場所は最近できた水族館なんだけど、水槽がトンネルになっていてまるで海の中を歩いているみたいで、とってもロマンチックなの♪ 可憐の頭の上を大きなエイが通って行ったりして、ちょっぴりだけ怖かったけどお兄ちゃんが一緒だったし、それに水槽の中を泳ぎまわるお魚も近くで見られてとっても面白かったです♪

 イルカのショーを見終わったころには、すっかり辺りも夕焼けで真っ赤に染まっていて、残念だけどもうそろそろ帰らなくっちゃいけないかな、って思っていたらお兄ちゃんが、

「可憐に見せたいものがあるんだけど……」

 って突然言ったの! お兄ちゃんが可憐に見せたいものって何かな? 今日は可憐の行きたいところに連れてきてもらったし、それでなくてもお兄ちゃんの頼みなら、可憐はいつだってOKしちゃいます♪

 お兄ちゃんが可憐の手をとって一緒に歩いてくれたから、可憐もギュッって思わず握り返して、そうしたらなんだかとってもドキドキしちゃって、可憐のドキドキお兄ちゃんに伝わっちゃったりしないかな? でも逆に、お兄ちゃんの手の温もりが可憐に伝わってきてとってもあったかい♪
 そうやってお兄ちゃんが可憐を連れて来てくれたところは、水族館の近くに立っているタワーだったの! このタワーも水族館と一緒にできたもので、ニュースや新聞でも話題になってたし、クラスのお友達もみんなお話していました。ここの展望台は夜景がとっても綺麗で、もうデートスポットとして有名なんですって。
 ……お兄ちゃんが可憐をここに連れてきたっていうことは……。なんだか可憐、お兄ちゃんがちょっぴり大人の男の人に見えて、お熱があるみたいにボーっとしてきちゃって、胸のドキドキもさっきよりも大きくなってきたみたい……どうしよう、お兄ちゃんのお顔が見られないよぉ……。

「ほら、着いた」

 エレベーターで最上階まで上って、お兄ちゃんが声をかけてくれても、可憐、やっぱりまだ恥ずかしくってなかなかお顔を上げられなかったんだけど、お兄ちゃんが見てごらん、って言ったのを聞いて、折角お兄ちゃんが連れてきてくれたのにこのままじゃ可憐、いけない子だよね、って思ってお顔を上げると、

「うわぁ、キレイ♪」

 目の前に広がっていたのは街の夜景……じゃなくて、満天の星空だったの♪ ここの展望台は海沿いに立っているから、片側は街が反対側は海が見えるのですって。それで、明るいうちは海の方を見る人が多くて、夜になって暗くなると街の方を見る人が多いんですって。だから、可憐が今見てるのは海と空の境目が分からないほど真っ黒で吸い込まれそうな海と空。しかも、空にはたくさんの星が瞬いていて……♪ でも、これが可憐に見せたいものってどういうことなんですか、お兄ちゃん?

「可憐、流れ星が見たいって言ってただろ?」

 うわぁ♪ お兄ちゃん、可憐が言ったこと覚えていてくれたんですね♪ それでお兄ちゃんは、夜にこのタワーの展望台から海の方を見ると、街の明かりが邪魔しないので星が見えることを聞いて、可憐を連れてきてくれたんですって♪
 それから、二人でイスに腰掛けて星空を眺めていました。可憐はその間中、流れ星に気付くのが遅れても大丈夫なようにって、ずっと心の中で「お兄ちゃんと一緒にいられますように」ってお願いをしていました♪ 
 結局その日は流れ星を見ることはできなかったのだけれど、可憐が一生懸命お星様にお願いしてたからか、ちょっぴりだけお願いが叶いました♪ 今日はもう遅くなっちゃったから、可憐のお家にお泊りしていってくれるんですって♪ ウフフ♪ 可憐とお兄ちゃんの思い出の場所がまた一つ増えました♪

 可憐のお家で一緒にお夕食を食べてお風呂に入っちゃうと、あっという間に寝る時間になってしまいました。可憐、本当はもっともっとお兄ちゃんとお話したいことがあったのにな。でも、明日の朝、お兄ちゃんを起こしたり、朝食の用意をしたりしないといけないから、名残惜しいけれど素直に眠ることにしました。
 そろそろお兄ちゃんにお休みのご挨拶をして眠ろうかな、って思っていると、トントンってドアを叩く音が聞こえて、お休みの挨拶をしに来たお兄ちゃんがお部屋に入ってきました。
 可憐、今お兄ちゃんのところに行こうとしていたんですよ♪

「可憐、まだ空を見ていたのかい?」

 はい♪ だって、やっぱり流れ星のことが気になっちゃって……。
 今日はずっとお兄ちゃんといられたけど……って思うと、きっと大丈夫って思っていても流れ星にお願いをしてみたくなってしまうんです。
 そうしたらお兄ちゃんが、「そんなに流れ星が気になるの? だったら、また一緒に展望台に行こうね」って♪ だったら可憐、流れ星が見えない方がいいかも。だって、そうしたらずっとお兄ちゃんと一緒に展望台にいけるもん♪

 ウフフ♪ 流れ星にお願いしなくっても、やっぱり可憐とお兄ちゃんはずっと一緒にいられますよね? 可憐とお兄ちゃんが、ずっと同じ気持ちでいられますように♪ だから、今日はおやすみなさい。
 お兄ちゃん、大好き♪

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