【可憐の星とお兄ちゃんの星】



 きゃっ!

 ……停電、みたい……。
 宿題、明日までなのに……すぐに直るかなぁ?
 それに……真っ暗なのは、何が出てきても分からないから……ちょっと恐いです……。
 だから、下に居るママのところへ行こうと思ったのだけれど……まだ目が慣れていなかったし、階段を降りるのが大変だなって思って……目が慣れるまでじっとしていることにしました。
 ……こんな時お兄ちゃんがいてくれたら、きっとすぐに可憐の所に駆けつけてくれて、可憐の手をぎゅって握って「僕が来たからもう安心だよ」って、可憐の側にいてくれるの♪ あ、もしそうなったら、可憐、ずーっと停電でいてください、ってお願いしちゃうかも♪

 段々目が慣れてきて、もう下に下りられるかな? って思ってイスから立ちあがったら……さっきは気付かなかったんだけど、カーテンの隙間から白い光が差し込んでいるのが見えたんです。
 それで可憐、窓の側に寄ってカーテンを開け放つと……うわぁ♪ キレイ♪
 お空には、真っ白な満月とたくさんのお星様が瞬いているのが見えました♪ 停電で辺りの明かりが消えたから、お空のお星様が見えるようになったのね♪

 可憐、自分のお家からこんなにたくさんのお星様が見えることに、なんだか嬉しくなっちゃって、窓を開けて……少しだけ身を乗り出して……お空のお星様を眺めることにしました♪

 うふふ♪ 今日ならきっと、色々な星座が見えるかも♪
 昔の人は、こうやってお空の星を見上げながら……あの星とこの星を結ぶと水瓶に見えるとか、こっちの星とあっちの星を結ぶと天秤に見えるとか、考えていたのかなぁ……。ふふ♪ 昔の人って、すっごくロマンチック♪

 ……可憐なら、絶対に「お兄ちゃん座」を作っちゃう♪ 一年中見える北の空、北極星の辺りにお兄ちゃん座があったら……夜になると、一年中可憐のことを見守ってくれるんだもの♪ そうしたら、可憐、きっと夜も恐くなくなっちゃっうし……お兄ちゃんに会えなくて寂しい夜も、お空を見上げたらお兄ちゃんのことを思い出して、寂しくなくなっちゃうと思うの♪

 あ、そうだ! 今ならきっと見えるはずよね、可憐のお星様♪

 可憐のお部屋の窓からは、南のお空が見えます。
 可憐がじーっと目を凝らすと……大きく、白く輝く星とオレンジ色に輝く星を見つけました。そして、その二つの星の先に、もう一つ白く輝く星があるのがわかりました。
 春の大三角形です♪
 しし座のデネボラ、うしかい座のアークトゥルス、そして……おとめ座のスピカ♪
 可憐はおとめ座だから、白く輝くスピカが大好き♪ だって……スピカは可憐のお星様なの♪ それに、白く輝くスピカは“真珠星”とも言うのですって♪ 小さくって丸くって、そして時折虹色に光る白い珠の様子は……可憐にぴったり♪
 そして、可憐の考えたお兄ちゃん座はないけれど、“お兄ちゃんの星”は“可憐の星”を包み込むようにちゃんと輝いていました……。ね、お兄ちゃん?


 あれは、可憐がまだ小さくて……幼稚園の年長さんくらいの時だったと思うのだけれど……今日みたいに停電が起きたことがあったの。
 その時の可憐は、今までお兄ちゃんと楽しくお話していたのに急に真っ暗になっちゃったのがとっても恐くって、「ぐすっ……お兄ちゃんがいなくなっちゃた! ……お兄ちゃん、どこー!」って、泣きながら叫んでいたの……。
 そうしたらお兄ちゃんは、「僕はここだよ」って、可憐のおでこにコツンってお兄ちゃんのおでこをくっつけてくれて♪ 可憐、目の前にお兄ちゃんの顔が見えて、すっごく安心できた♪

 そうしたらお兄ちゃんは、急ににこっと笑い出して、可憐の手を取ってお庭の方まで可憐を連れていきました。可憐にいいもの見せてあげる、って。

 いいものってなにかなぁ? って考えながら、お兄ちゃんと一緒にお外に出ると……暖かくなってきてたとはいっても夜だったから、すっと体の中を風が通りすぎるような寒さで体が震えました。でも、その分余計に、お兄ちゃんの手ってとっても暖かいんだ♪ って感じることができたの♪

 お兄ちゃんはお庭に座って……おいでおいでをしてたから、可憐はお兄ちゃんのお膝の上に座っちゃいました♪
 お兄ちゃんが「ほら」って指を指した先には……満天の星空♪
 「うわぁ……♪ お兄ちゃん、お星様がたくさん! スッゴクきれい♪」って、キラキラ光るお星様が、絵本に出てくるお姫様が身に付けているようなきらびやかな宝石に見えて、可憐、うっとりしちゃった♪

 それからお兄ちゃんは、そのお空に輝くお星様のことをお話してくれました……。後になってわかったのだけれど、お兄ちゃんは学校でお星様のことを習ったばっかりだったの。それで、お話ししたくて仕方がなかったんだって♪

「あそこにあるのがおとめ座で、その中で一番光ってる白いのがスピカ!」
「ねぇ、お兄ちゃん。可憐もおとめ座だよ?」
「じゃあ、あの星は可憐の星だね♪」

 スピカが可憐の星♪ たくさん輝いている星の中でも、一際目立って輝いているスピカ。可憐はスピカみたいに輝いているんだ、お兄ちゃんには可憐のことがスピカみたいに見えるんだ、って思うと、さっきまで泣いていたのが嘘のようにぱぁっと笑顔になっちゃった♪
 そしてね、可憐、「あれ?」って思ったことをお兄ちゃんに聞いてみたんです。

「お兄ちゃんのお星様はどれですか?」

 お兄ちゃんは、予想も付かなかったのか、ちょっとびっくりした顔をしていました♪ それから……ちょっと考えた後、お兄ちゃんはスピカから始まって三つの星を空で結びました。

「僕は……この3つの星でできた三角形だよ」
「うわぁ……お兄ちゃんのお星様大きい♪」

 お兄ちゃんが結んだのは、春の大三角形。
 スピカの可憐を見守ってくれてるような、包みこむような、大きなお星様の三角形。
 その三角形が、ちょうどお兄ちゃんとそのお膝に座ってる可憐のようにも見えて……心の奥がじんわりあったかくなって……可憐、すっごくすっごく嬉しかった♪


 ふいに気が付くと、辺りはすっかり明るくなっていて……お空のお星様達はすっかり見えなくなっていました。どうやら、停電は収まったみたいね。
 と、その時「トントン」とドアをノックする音が聞こえて、可憐は「はーい」と返事をして慌ててドアの方へ駆けていきました。

「やぁ、可憐。大丈夫だった?」
「お、お兄ちゃん♪」

 ドアを開けると、目の前にお兄ちゃんがいてびっくり! きっと、お空のお兄ちゃんのお星様が消えちゃったから、交代で今度は地上のお兄ちゃんが来てくれたのね♪ 
 でもねお兄ちゃん、可憐、大丈夫でしたよ♪ だって、お兄ちゃんがお空から見守ってくれていたんですもの♪ うふふ♪
 ねぇ、お兄ちゃん? あの時みたいにまた、可憐にお星様のお話、聞かせて欲しいな♪ もちろん、お兄ちゃんのお膝の上で♪ ……もう子供じゃないだろ、って言われちゃうかなぁ? でもでも、やっぱりお兄ちゃんのお膝の上がいいんです。だって……可憐は、お兄ちゃんのスピカなんだから……♪

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