アイマス1時間SS (7/2:テーマは「記念日」)

【やよいの日】

 夕暮れにカラスが鳴いています。
 今日もお仕事は大成功! で、すっごく機嫌がよくってルンルン気分でお家に帰ってきました。
 途中、嬉しすぎて知らないうちにスキップしちゃってました!
 八百屋のおじさんに言われて気が付いたんですけど、私があんまり嬉しそうだからって、「やよいちゃん、これ持ってきな」って、ニンジンをおまけしてくれたんですよ!
 嬉しいことがあると、周りの人に伝わるんですね! そして、どんどんいいことが連鎖していくんです。八百屋のおじさんにも誰かがおまけしてくれるといいな。
「ただいまー」
「お姉ちゃん、おかえりー!」
 玄関のドアを開けると、弟達の大きな声がお出迎えしてくれました。
「遅くなってごめんねー。今、晩ご飯の支度するから」
「カスミお姉ちゃんがお母さんのお手伝いしてるから大丈夫だよ。やよいお姉ちゃんは休んでて」
「え?」
 いつもは私がお母さんのお手伝いをしてるんだけど、カスミが手伝いをしてるの?
 なんだか不思議に思って台所に行ってみると、
「あ、お姉ちゃん、おかえりー」
 と器用に台所で動き回るカスミの姿が見えました。
「お母さんは?」
「買い物」
「カスミ、後は私がやるよ」
「いいからいいから、お姉ちゃんは休んでて」
「でも……」
 私がアイドルのお仕事で家を空けることが多くなってから、弟の世話やお母さんのお手伝いはカスミがすることが多くなってきてはいたんだけど、こうして早く帰ったときは私がちゃんとやるようにはしてたんだ。
 けど、今日のカスミは岩みたいにしっかりとして、私にお手伝いをさせてくれませんでした。
 そういえば、さっきの弟達の様子もちょっと変だったし……。うーん、どうしちゃったのかなあ?
 それから今日はずっと、私はなぜかカスミや弟達から休んでてとか、疲れてない? とか、肩揉んであげるとか、おもてなしされてばっかりなんです。
 カスミや弟達の気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりちょっと調子が狂っちゃうというか、くすぐったい気分。
 だから、晩ご飯の片付けが終わった後に、今日はいったいどうしたの? って訊いてみることにしました。
「あのね、今日はね、おねーちゃんの日なの」
「お姉ちゃんの日?」
 うーん、どういうことなのかなあ?
 私の誕生日……はもうちょっと先だし、オーディションに受かったーとか、テレビに出たーとかでもないし。他に私に関係あるような記念日なんてあったかな?
 うんうん頭をひねってみても、答えは全然出てきませんでした。
「うーん、分かんない! お姉ちゃん、降参!」
「だから、おねーちゃんの日なの」
「あのね、お姉ちゃん、私が説明するね」
 弟達の言うことが理解できなかった私を見かねて、カスミが説明してくれることになりました。さすが、カスミ!
「あのね、今朝のテレビで言ってたんだけど、今日って『姉の日』なんだって。だから、今日一日は、お姉ちゃんに楽させてあげよう、って」
「姉の日?」
 私もそんな日があるなんて全然知らなかったんだけど、12月6日は「姉の日」なんだって。
 それをテレビで見た、カスミや弟達は普段アイドルのお仕事で頑張ってる私を、少しでも休ませてあげたいって思って、今日あんなに私のことを気遣ってくれてたみたい。
 うっうー! 私、感激しちゃいました!
 いつまでも小さいと思っていたのに、みんなすっかり大きくなっていたんですね。
 そうだよね、カスミももう小学校だし、私と同じようにみんな成長してるんだよね。
「うー! みんな、ありがとう!」
 あ、でも……。
「えっと、カスミお姉ちゃんもお姉ちゃんなんだから、大事にしてあげなきゃだめだよ」
 そうなんです。私から見たらカスミは妹だけど、弟達からみたらお姉ちゃんなんだから、カスミも一緒に大事にしてあげるのが正しいと思うんです。
「いいの、お姉ちゃん。今日はやよいお姉ちゃんの日なんだから」
「でも……」
 やっぱり今日のカスミはどこか頑固で、結局私は押し切られてしまいました。
 その後、二人で弟達を寝かしつけて、私達も次の日に備えて眠ることにしました。
「ねえ、カスミ」
「なあに、お姉ちゃん」
「今日はありがとう」
 私がそう言うと、カスミはすっかり照れたみたいで、「えへへ」という声が布団の方から漏れてきました。
「あのね、お姉ちゃんは私の自慢なの」
「自慢?」
「うん。テレビに出て、歌ったり踊ったり、本物のアイドルなんだもん。テレビの中のお姉ちゃんは、ちょっと遠くに行っちゃったみたいで寂しいんだけど、でもすっごく輝いてるの」
 そっか、やっぱり寂しい想いさせちゃってるんだよね……。
「キラキラしてて、私もお姉ちゃんみたいになりたいって思ったの!」
「そっか。うん、嬉しいよ、カスミ」
「お姉ちゃん、大好き!」
 そんなカスミのことが急に愛しくなった私は、カスミを私の布団に手招きしてぎゅーっと抱きしめました。
「私も、カスミのこと大好き。弟達のことも大好き。お姉ちゃん、これからも頑張るからね」
 こんなに、アイドルを始めて良かったな、って思ったのは今日が初めてかも、って思うくらい、今日はすっごく嬉しい日でした。

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