【笑顔のマホウ】


「花穂ちゃんって、お兄ちゃんに恋をしてるんだね♪」
「え? えっ?」


 花穂、急にそんなこと言われちゃったからびっくりしちゃった!
 

 帰りのホームルームが終わって、やっと帰りの時間♪ 今日はいつもより1時間授業の多い日で、その日はいつもよりなんだかすっごく疲れちゃうの。いつもよりも頭を使ってる、ってことかな? えへへ♪
 今日はすっごく寒いから、ほっかほかのタイヤキなんかとってもおいしそうだなぁ♪ うーん、でも肉まんも捨てがたいかも♪
 あ、そうだ♪ お兄ちゃまと半分こすればいいんだ♪ そうしたら、どっちも食べられるし、お兄ちゃまと一緒だからぜーったいおいしいんだもん♪
 そうなふうに、お兄ちゃまのことを考えていたら……

「……ちゃん、花穂ちゃん!」

 え? あ、姫子ちゃん、どうしたの?

「どうしたの? じゃなくって……。もう、またお兄ちゃんのこと考えてたんでしょ」

 えへへ……♪ そうみたい♪ 花穂、またやっちゃった♪
 お兄ちゃまのことを考えてると、花穂とお兄ちゃましかいないみたいになって、周りの声や音が聞こえなくなっちゃうことがあるんだぁ。とっても不思議!

「……でも、花穂ちゃんがうらやましいなぁ。花穂ちゃんのお兄ちゃんが私のお兄ちゃんだったらよかったのになぁ」

 そうやって姫子ちゃんにお兄ちゃまを褒められると、花穂もすっごく嬉しくなっちゃったんだ♪ お兄ちゃまは、花穂が転んじゃっても「大丈夫?」って、すぐに励ましてくれるし、花穂が勉強で分からないところもすらすら解いちゃうし、……それにお兄ちゃま一緒にいるとすっごくあったかいし、とっても落ち着くもん♪
 でもね……だからね……

「あの……姫子ちゃん、ゴメンなさい。お兄ちゃまは花穂のお兄ちゃまだから……その……」

 そうしたら、姫子ちゃんは大笑い! 花穂ちゃんのお兄ちゃん好きには負けるもの、だって。それから、こう言ったの。

「花穂ちゃんって、お兄ちゃんに恋をしてるんだね♪」

 姫子ちゃんが帰った後も、花穂は教室でしばらく考えてました。
 花穂、お兄ちゃまのことは好きだけど、それって恋……なのかな? 恋って、男の人を好きになることだよね? でもでも、花穂とお兄ちゃまとは兄妹だし……だけどお兄ちゃまは男の人だし……あーん、全然わかんないよぉー!!

 なんだか頭の中がぐちゃぐちゃのままで、胸の奥がきゅっとして……とにかく帰らなくちゃと思って校門まで来てみると……お兄ちゃま!!

「遅かったね、花穂。これから、タイヤキでも食べに行かないかい?」
「うん♪」

 お兄ちゃまとタイヤキ♪ さっすがお兄ちゃま♪ 花穂の考えてることはなんでも分かっちゃうんだなぁ♪ って、お兄ちゃまのお顔を見ながらお兄ちゃまの横を歩いていると、「花穂ちゃんって、お兄ちゃんに恋をしてるんだね♪」って、さっき姫子ちゃんに言われたことを思い出して……。
 そうしたら、なんだか急に顔がカーッと熱くなってきて、胸もどきどきしてきて、お兄ちゃまのお顔が見られなくなっちゃった。花穂、なんか変……。
 それからお兄ちゃまが色々花穂に話しかけてきてくれたんだけど、花穂は「うん……」って答えるのが精一杯で、もしかしたらお兄ちゃまに嫌われちゃったかも! でも、どきどきは収まんないし……何かしゃべらなくっちゃって思えば思うほど、喉の奥がつっかえるような感じで、何もしゃべれなくなっちゃうし……ううっ……ぐすっ……。花穂……お兄ちゃまに見捨てられちゃうよー……!!

 タイヤキ屋さんに着いた時には、花穂、ちょっぴり涙が出ちゃって目の下が冷たくなっちゃってた。だから、お兄ちゃまに見られないようにって、ずーっと地面を見たりして……。

「ほら、花穂。これ食べて元気出して」

 って、お兄ちゃまが買ってきてくれたタイヤキ。最近新しくできたお店で、お兄ちゃまと一緒に来たいな、って思ってたお店。
 タイヤキを手に持ってると、冷たく固まってた手がだんだんほぐれてきて、あんこの甘い匂いと皮の香ばしい匂いが花穂のお腹をぐーって鳴らします。
 お兄ちゃまが花穂のために買ってくれたタイヤキだもんね、食べないとバチが当たっちゃうもん。ぱくっ。

「おいしーい♪」

 ねぇねぇお兄ちゃま♪ このタイヤキ、すっごくおいしいよ♪

「やっと笑ってくれたね♪」

 え? あっ……。
 ごめんなさい、お兄ちゃま……。
 うん、そうだよね、さっき花穂に話しかけてくれたお兄ちゃまのお顔がなんだか寂しそうだったのは、花穂が暗い顔してたからなんだね。花穂が笑ってなかったからなんだね。
 お兄ちゃまは、花穂の笑顔のことを素敵だね、って言ってくれるの。だから、花穂、お兄ちゃまの前ではいっぱい笑おうって決めてたのに……。花穂を笑顔にしてくれるのは、やっぱりお兄ちゃまだった♪

 あれ? お兄ちゃま。そのタイヤキ、2人で食べるにはちょっと多いんじゃない?

「いや、花穂ならこれくらいペロリだろ?」

 もーっ! お兄ちゃま! 花穂、そんなに食いしん坊じゃないよー! それに、そんなに食べたらまた太っちゃうもん!
 でも、本当はきっとそれも花穂に笑ってほしかったからなんだよね、お兄ちゃま?

 花穂、恋とかそういうのはまだよく分からないけど、大好きなお兄ちゃまが笑ってくれるように、これからも笑顔いっぱいでいられたらいいなぁって思います♪
 そして、これだけは絶対間違いない、自信を持って言える花穂の本当の気持ち……。

「お兄ちゃま、だーい好き♪」

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