【思い出の花】

 ビュービュー、ゴーゴー。お家が吹き飛ばされそうって思っちゃうくらい、その日はとっても強い台風がやって来ました。
 だから今日は学校も早く終わっちゃって、チアの練習も中止になっちゃたの。

 今朝は「傘はきっと役に立たないから」ってママが言ってくれたから、レインコートを着て学校に行ったんだ。ママが言ったとおり、周りを歩いてたスーツの人も、セーラー服を着た高校生のお姉さんも、持ってた傘はひっくり返っちゃたり、骨が曲がっちゃったりして大変だったみたい。
 でも、花穂もレインコートの隙間から雨が入ってきて冷たいし、それにお風で飛ばされそうになっちゃったりして、ちょっぴり怖かったの……。でも、きっとお兄ちゃまも花穂と同じで、この台風の中を学校に通ってるんだ、って思ったら元気が出てきてなんとか学校までたどり着けました♪


 帰ってきてからはお外にも行けないから、ボーッと窓の向こうのどんよりとした灰色の空とザーザーと激しい音を立てて降る大粒の雨を見ながら、お兄ちゃま大丈夫かなぁ、って考えていたら、花穂、とっても大事なことを忘れてるのに気が付いちゃった!
 
「あ! お兄ちゃまと花穂のお花、守らなくっちゃ!」

 お兄ちゃまと花穂、2人だけの秘密の場所に植えた、2人だけの秘密のお花。
 前にお兄ちゃまと一緒にハイキングに行った時にね、いつもは見たことの無いお花がいっぱい咲いていて、すっごくキレイで、花穂もすっごく嬉しくなっちゃって♪ だから、「お兄ちゃま、ありがとう♪」ってその丘に響き渡るくらいの声で言ったんだぁ♪ ……えへへ♪
 それでね、そのたくさんのお花の中に種がむき出しになっているお花があって、お兄ちゃまとハイキングに来た記念に持って帰って植えることにしたんだ♪


 大事な大事なお兄ちゃまと花穂の思い出のお花、もうつぼみも大きく膨らんでいて、もう少しで咲きそうだったのに……。
 だから、花穂、我慢できなくなって、まだずぶぬれのレインコートを着て、お花を助けに行くことにしたの!

 雨も風もどんどんどんどん強くなってるような気がして……花穂もまた何回か飛ばされそうになっちゃうくらいだから、もしかしたらお花はもう……ぐすっ……。
 ……ううん! ……きっと大丈夫! だって、お兄ちゃまと一緒に取って、一緒に植えたお花だもん! 花穂とお兄ちゃまの思い出、飛ばされたりなんかしないもん!

 ……あ、あった♪ よかったぁ……ほら、やっぱりまだちゃーんとあった♪
 ……でも、やっぱりこのままじゃ飛ばされそう……どうしよう……。
 と、とにかく風に当たらないようにしないと……いけないよね。
 ……台風、いつまで続くのかなぁ……。花穂、このままお花を守れるかな……。ううん、ダメダメ! お兄ちゃまとの約束守るんだもん!

 そう思って、頑張ってお花の上に覆い被さってたんだけど、急に強い風が吹いてきて……。
 ……キャッ!
 ふえーん! 花穂のお尻泥だらけになっちゃったーー!!

 ……う、うわぁぁぁんーー!! お、お兄ちゃまー!!

「大丈夫かい? 花穂」

 えっ? って思って声のした方を見ると、そこには……花穂の大好きなお兄ちゃま!!
 やっぱりお兄ちゃまは、花穂が困ってるとすぐに助けに来てくれるんだぁ♪
 あのねあのね、お兄ちゃま。このままだと、お兄ちゃまと花穂のお花が飛んじゃうの!
 花穂がそう言ったら、お兄ちゃまが手に持っていた鉢を指差して、「これに移しかえよう」って♪ でも、後で思ったんだけど、どうしてお兄ちゃまは植木鉢なんて持ってきたのかなぁ? やっぱり、お兄ちゃまは花穂のこと何でもお見通しなんだぁ♪
 

 その植木鉢は花穂のお家まで持って帰ってきて、花穂のベッドのそばにある窓の前の日当たりのいい場所に置いて、そのままお花が咲くのを待つことにしました。
 そうやって何日か経ったある朝……あれ? なんだかいつもと違うって思って、窓のところに置いてある植木鉢を見ると……あぁ! 咲いてるっ!!
 そのお花は、とってもキレイな紅色のお花。見ているだけで、なんだかうっとりしてきちゃう……♪ それから、お兄ちゃまと一緒に行ったハイキングのことも思い出してきて、わぁ♪ なんだかとっても楽しい気分になってきちゃった♪

 お兄ちゃまが守ってくれた、花穂とお兄ちゃまのお花が咲きました♪ お兄ちゃまとのお約束通り、早速これからお兄ちゃまのところに見せに行くから、待っててね、お兄ちゃま♪

BACK