【男の子と違う女の子】

 ボク、最近なんか変なんだ!

 この間、結婚式の夢を見たんだ。教会の中から出てくるあにぃを、ボクはじっと見てた。
 あにぃはピシッと燕尾服を着てすっごく大人っぽく見えて、とってもかっこよかったよ! その隣には、ウェディングドレスを着た女の人。真っ白なウェディングドレスがとってもまぶしくって、とってもキレイで……。ボクは、「あにぃ、おめでとう!」なんて言ってるけど、でも、なんだかあんまり嬉しい気持ちじゃなくって……。あにぃにのおめでたい日なんだから、もっと祝福してあげなくちゃ! って思うんだけど……。ボク、ちょっとイヤな子になってるかも……。
 なんて思ってたら、その花嫁さんがボクの方を向いてにっこり笑ったんだ! ボク、心臓が飛び出ちゃうかと思っちゃった!
 だって、その花嫁さんはボクだったんだから!!
 どうしてか、その花嫁さんはボクに似てる人とかじゃなくって、大人になったボクだと思ったんだよね。夢ってそういうところが不思議だなぁ、って思う。
 そしてその花嫁さんのボクは、ブーケを投げたんだ……。「あっ」と思って、ボクは思わず手を伸ばした。ブーケは、ゆっくりと孤を描いて……ボクの手の中に収まった。
 ……ブーケトス、取っちゃった……。
 ど、どうしよう! あ、あの、その、ボクには……。
 そうやってどうしていいか分からずに戸惑っていると、ボクの頭にポンと手を置いて、「いいんだよ」って言ってるような、あにぃが隣にいた。あ、あれ!? あにぃはあそこにいるんじゃ!? そう思ったのは一瞬。どっちのボクもボクだったように、どっちのあにぃもあにぃだってやっぱりどうしてだか思えたんだよね。ボクの隣にいるあにぃは、大人になったあにぃじゃなくって、いつも見ているボクの大好きなあにぃ♪
 ねぇ、あにぃ……。あの、このブーケどうしよう……。ボク、結婚なんて全然考えたこと無いし……結婚したい人だって……その……。


 そこで目が覚めたんだ。なんだかすっごいすっごい変な夢だった。
 大人になったボクとあにぃの結婚式があって、ボクがブーケを取って、隣にはあにぃがいて……。でも、ボク、あにぃと……その、け、結婚なんて考えたこともないしなんか違うと思うんだよね。そりゃ、ボクはあにぃのパートナーになりたいって、ずっと思ってきたよ。でもそれは、あにぃといつまでも一緒に遊べたら、ずっとあにぃの隣にいられたらって、それだけのこと。
 だから、ボクはずっと男の子だったらよかったのにな、って思ってきたんだけど……ボクってやっぱり女の子、なんだよね……。


 そんな夢のことなんか忘れてたと思ってたある日曜日。その日は空の上の上の方まで見えちゃいそうなくらいスッゴク天気がよかったから、絶好の自転車日和! って思って、隣の町まで行ってみたんだ!
 ふぅー、今日はやっぱり暑いや!
 風を切って走るのはとっても気持ちがいいんだけど、それでもすっかり汗ばんじゃうくらいに暑くてさ。喉が乾いちゃたからジュースでも飲もうと思って目に付いた自動販売機に近寄っていったら、チラッと白いものが見えて、あれ? ってなんとなく気になったから、そっちの方を向いてみると、

「……うわぁ、ウェディングドレスだぁ……」

 そこは貸衣装屋さんだったみたいで、ガラスの向こうには、あの時夢に見たような真っ白なウェディングドレスが飾ってあったんだ!


 家に帰ってからはベッドに寝転がって、昼間に見たウェディングドレスのことがどうしても頭から離れなくって、そのことばっかり考えてしまったんだ。
 あんなヒラヒラしたのは、ボクには似合わないよね、あはは♪ ……はは……。でも、夢の中に出てきた花嫁のボクはすっごくキレイで、似合ってた。
 この前のイベントの時だって、あにぃは、「スカート似合うよ」って言ってくれたし、あにぃが喜んでくれるなら、ボクも女の子っぽい格好をしてみてもいいのかな? って少しだけど確かに思うようになってきたんだ。

 ボクは不安なんだ。ボクが自分のことを女の子だって思うたびに、きっとあにぃには追いつけないって、分かってきちゃうから……。あにぃの隣に立つには、あにぃと同じじゃなくちゃダメなんだって思ってきた。だから、あにぃの真似をして一緒の遊びをしてきたんだよ、あにぃ。

 ……結婚ってさ、ボクの考えてるのとは少し違うかもしれないけど、パートナーになるってことだよね。お互い同じじゃなくてもパートナーになれるんだ……。それどころか違うところの方が多いよね。だからなのかな? 違うから……きっとお互いの足りないところを助けてあげられるんじゃないかな? それだったら、ボクがこのまま心も身体も女の子っぽくなっていっちゃっても、あにぃのパートナーになれる、ってことだよね? あにぃ、ボクが今よりも女の子っぽくなっちゃっても、ボクのこと嫌いになっちゃっりしないかなぁ……。
 あにぃは優しいから、「衛は衛らしいのが一番だよ」って言ってくれるとは思うんだけど、今のままのボクじゃあにぃを助けてあげられることなんて何にもないと思うから……。スノボだって、サッカーだって、お料理だって、お洗濯だって、お掃除だって、ボクの得意なことも苦手なことも全部あにぃの方が上手いんだもん! あーあ、ママやクラスのお友達に少しは女の子っぽいことも教えてもらった方がいいのかなぁ。

 あにぃ♪ ボク、きっと見つけるよ、ボクにしかできないことをさ♪ ボクにしかできなくて、あにぃを助けてあげられること。あにぃのパートナーにはボクしかいないって思っちゃうくらいのこと。だから、いつまでもボクだけのあにぃでいてほしいな♪

 

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