【パートナー】

「はぁ…やっぱりボクは……」 

 今日、学校でサッカーに誘われたんだ。とっても久しぶりのことだったから、喜んで参加したんだけど……ボクって球技が苦手何なんだよね……。案の定失敗ばっかりで、挙句の果てに気を失っちゃったりなんかしちゃってさ……。ちょっと焦っちゃったりしてたんだよね。
 保健室で目が覚めたとき、周りにいた男の子たちが話していたんだ……ボクが女の子らしい方がいいって……。だけど……だけど、そんなのひどすぎるよ……。だって、ボクは……ボクは……。

 そんなことを考えながら、家の前の公園でサッカーボールを蹴っていたら……あちゃあ……また、大きくはずしちゃったよ……。でも、そのボールの先にいたのは、

「あ、あにぃ!?」

 ボク、思わずあにぃにの元に駆けつけて、思わず抱きついちゃって、思わず泣いちゃって……。
 急に泣き出したボクを見てあにぃはビックリしたみたいで、「どうした? まだどこか痛むのか?」って言ってくれたんだけど、ボクが大丈夫なことを伝えると、「そうか」って言って、しばらくそのままでいてくれたんだ。どうやらあにぃは、ボクが学校で倒れたことを聞いてやって来てくれたみたいだった。

 しばらくして落ち着いたボクとあにぃは、ブランコに座って、今日学校であったこと話したんだ。サッカーに誘われて嬉しかったこと、だけど失敗ばっかりで結局気を失っちゃったこと、そして……男の子たちが、ボクが女の子らしい方がいいって話していたこと……。やっぱり、大好きなあにぃには聞いて欲しかったから。そして、あにぃにも聞いてみたかったから……。

「あにぃも……ボクが女の子らしい方がいい……?」

 って。少し考えた風だったあにぃは、ボクの乗っているブランコの鎖を引っ張って、顔を真正面に見ながらこう言ったんだ。

「衛は、今のままでいいんだよ」

 そう、だよね。ボクは今のままでいいんだよね。本当は迷う必要なんて無かったのかもしれない。だってボクは、あにぃのパートナーになるんだから。それがどんな形であれ、男の子か女の子かなんて、きっとあんまり関係ないのかもしれない。
 その時ふいに、あにぃが持っていたボールでボクを小突いた。

「サッカーの練習はさ、一人より二人の方がいいだろ?」
「……うん!」

 考えてみれば、ボクが得意なスポーツはみんなあにぃに教えてもらったものなんだ♪ スキーにスノボ、水泳でしょ、それから走るのだって……。いつだってあにぃと一緒だったから、ボクはどんなスポーツでも楽しみながら上達することができたんだ♪ 最近では、ボクの方が得意になっちゃったスポーツもあるよ! あにぃに初めて勝てたとき、ほんっとうに嬉しかった♪ これで、あにぃを一つ追い越すことができたんだ、って。あにぃのパートナーに一歩近づけたんだ、って♪ だって、パートナーになるにはあにぃと同じじゃダメなんだと思う。パートナーっていうのはお互いが苦手なところを支えあっていかなきゃならないと思うから、ボクがあにぃを支えられるものが無くちゃ、ってずっと思ってたんだ♪
 だからサッカーだって、ボクがいくら球技が苦手だって言ったって、あにぃと一緒ならいつかできるようになると思うんだ♪

「あにぃ、行っくよー!」

 あにぃ目掛けて思いっきりボールを蹴ったら……ちょっと変な曲がり方をしちゃってさ、逸れたと思って油断してたあにぃの顔面にヒットしちゃった! うわっ、大変! と思って、すかさず倒れたあにぃの元へ向かったんだ! ボクのせいであにぃが怪我なんてしちゃったら大変だもん!
 少ししゃがんで、地面に倒れてるあにぃを覗き込むと、どうやら大したことは無かったみたいだった……顔が真っ赤になっちゃってる以外は……。

「ゴ、ゴメン! あにぃ! まさかあんな風に曲がるなんて……」
「衛……ナイスシュートだったぞ」

 えっ? ボク、一瞬何を言われたのかよく分かんなかったんだけど、すぐにちゃんと狙ったところに行ったんだって気づいたんだ。ちょっぴりだけ、上の方に行っちゃったけどね、えへへ♪

「あははははっ!」
「あははははっ♪」

 その後は、空を見上げたまま急に笑い出したあにぃと二人で、月まで届くくらいに、いつまでもいつまでも笑っていたんだ♪

 

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