【もっと私を見て】

 
 今日のデートもすっごく楽しかったわ♪ お泊りしていってくれなかったのがちょっぴり残念だけど……あんまりワガママばっかり言ってるとお兄様に嫌われちゃうから、たまには仕方ないわよね。
 はぁ……今日あったことを色々思い出すだけで、頬が緩んできちゃう♪ ウフフッ♪

 ……あっ。余計なことまで思い出しちゃった……。
 お兄様は、いつも私の服装を「似合ってるね」とか「かわいいね」って褒めてくれるわ。もちろん、私は誰よりお兄様のその言葉が聞きたくて、情報収集だって欠かさないし、時には一日中かけて色んなお店を見て回ったりしてるんだもの。妥協なんてできるわけない。流行り、私に似合うか、お兄様の好みか、それからそれから……。きっと、お兄様が考えてるよりもずっとずっと努力してるつもりよ。
 だから、お兄様からその言葉が聞けた時は胸の奥がきゅんとなって、今すぐにでもお兄様に抱きつきたくなっちゃう♪

 でも、でもね……だからこそ「そんなミニスカートで寒くないのか?」って……もう、お兄様のバカ! 寒いに決まってるじゃない!
 わかってる、私のこと心配して言ってくれてるのよね。でもね、お兄様、私がこんなミニをはいてるのも、私が一番キレイに見える姿をお兄様に見せられると思っているからなのに……。鈍感にも程があるわよ、お兄様。そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうぞ。
 ……そんなところもお兄様のいいところなんだけどね、なんて思っちゃうなのは、私もまだまだ甘い……かしら?


 その日は、今度のお兄様のデートの時につけていこうかな、って思ってるリップを試してみたの。学校のお友達にも結構評判いいみたい♪ うふふっ♪ これなら、お兄様をうーんと誘惑できちゃうかも♪
 そうやってウキウキした気分でお家に帰ろうとしたら、あら? お兄様ーー♪ どうやら、デートの前に一足お先に披露することになるみたい、なんてね。

「はーい、お兄様♪ お兄様も今帰り?」
「あぁ、うん。……咲耶、それ新しい色かい?」

 え? あんまり突然だったから、一瞬お兄様が何を言ったのか理解できなくって。お兄様の視線は、私の唇をじーっと見ていて……なんだか急に恥ずかしくなっちゃった私は、思わず右手で唇を隠してしまったの。
 お兄様なんだもん、気付くわけないと思ってた。
 顔がカーッと熱くなっていくのがわかったわ。お兄様の顔なんてまともに見られなくなっちゃって、それにきっとすっごく赤くなった私の顔をお兄様に見られたくない……どうしよう……。

 お兄様の思わぬ不意打ちに、すっかり顔を伏せちゃってた私だけど、お兄様の後ろをついて歩いているうちにだんだん冷静になってきたの。それでなんとか顔を上げてお兄様の方を見たら、ちょっぴりばつの悪そうな顔をしていたわ。ウフフッ♪
 大丈夫よ、お兄様♪ お兄様は何も悪いことなんてしていないんだから。それどころか、ちゃんと私のこと見ててくれたんだって分かったから。
 恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちと、お兄様が大好きな気持ちと……色んな気持ちが私の全身を震えさせて、「ああ、私、恋をしているんだわ」って、心臓が飛び出そうなほど感じさせてくれたから……。
 だから、そんなお兄様の頬に顔を近づけて……チュッってキスをしちゃった♪ 新しいリップ、早速役に立っちゃった♪
 ダメよ、お兄様、そんなに慌てたって。私をその気にさせたのは、お兄様なんだからね♪ これからも、ずーっと目を離してあげないんだから♪

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