【本当の嘘】

 こんな時間に呼び出したりしてごめんなさい、お兄様。
 でも、どうしても聞いてもらいことがあったの……。
 ……今日は、お別れを言いに来たの……。

 お兄様、そんなに驚かないで……そりゃ、無理もないとは思うけど……。これはずっと前から決まってたことなの……私がなかなか言い出せなかっただけ……。私だって、もう胸が張り裂けそうなくらいよ……。お兄様と別れるくらいなら死んだ方がましよ! そう、思ったりもしたわ……。でも、生きてさえいれば……きっとまた会えるから……、私達の絆はこのくらいの障害なんて、きっと乗り越えられるって信じているから……だから……今日、こうしてここに来たの……。


 すっかり、血の気がひいてしまったお兄様……。沈黙が痛い……。
 ……さすがに、少し気の毒だったかしら? ちらりと腕時計を見る。そろそろ種明かしをしましょうか♪

「お兄様……!」

 こんなに体が冷えてしまって……私が暖めてあげる……。
 ……お兄様、聞いて……。私、お兄様のことが好きよ……。この世界中の誰よりもお兄様が好き、この世界中の誰よりもお兄様のことを愛してる……。ずっと離したくない……。
 ……好きよ……お兄様……。

 それからね、お兄様……私、お兄様に謝らなければいけないことがあるの。……実は、さっきの話は嘘なの♪

 落ち着いて、お兄様。ほら、この時計を見て。今は4月1日の午後11時55分……エイプリルフールよ♪ ごめんなさい、お兄様♪ ちょっと、お兄様のことを試してみたくなっちゃっただけなの♪ お兄様は、やっぱり私のお兄様だったわ♪ だって、こんなに真剣に私のことで悩んでくれたんだもの♪ うふふふふふ♪


 ……でもね、お兄様、結局私はお兄様を騙してしまっているのよ……。実は、この時計10分遅れてるの。だから本当は、もうエイプリルフールは終わってるの。確かに私が遠くへ行ってしまうのは嘘、でも世界中の誰よりもお兄様のことを愛していて、ずっと離したくない、っていうのは本当。お兄様だって、本当は私の気持ちに気付いているんでしょう? …………。

「さ、帰りましょ♪ お兄様♪」

 いつまでも、下を向いてなんかいられないものね♪ だって……、強く……強くならなくちゃいけないから♪

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