【結ばれるもの】
ウフフ♪ 今日はにいさまとデートですの♪
お弁当の用意も出来たし、後は今日来ていく服を選ぶだけね♪ うーん、どの服がいいかしら? こっちのはこの前着て行ったし……あ、これなんかどうかしら? チェック柄のエプロンが可愛らしい感じ♪ でも、こっちの大き目のエプロンがついたのもちょっと捨て難いですの……。にいさまには姫の一番を見せたいから、姫、迷っちゃう♪
そんな時、ふと、この間の休み時間にお友達に言われたことを思い出しました。
「白雪ちゃんって、ちょっと子供っぽい感じがするよね。いっつも大きなリボンしてるし」
この事を言われたのは、もう大分前になるような気がしたんですのけれど、なんで今ごろになって思い出したのかしら……? そのことがなんだか妙に気になって……だから、クローゼットの奥の方に自然と目が行ってしまったんですの。そう、エプロンの付いてない洋服がかかっている方へ……。
「にいさま……なんて言ってくれるのかしら……」
子供っぽい方が好きだな、って……? それとも、大人っぽくて素敵だよ、なんて……♪ キャー! もう、にいさまったら♪ ムフン♪ 姫、いつでもOKですのよ♪
にいさまの隣にいるためには、いつまでも子どもっぽい格好だったら、きっとだめなんですの。だから、姫、今日はこの服にします。久しぶりに袖を通してみると、鏡に写っているのは姫じゃないみたい。あと、本当はとっても、姫とにいさまの大事な物なんですけどリボンもはずして……。本当に何だか別の人になっちゃったみたいで、鏡の向こうの世界が見えるような気がしました。なんだか吸い込まれそう……
……はっ、いけないですの。ボーっとしている場合じゃなかったんですの。左の手首を返すと、もうそろそろ家を出ないと待ち合わせに遅れてしまう時間でした。にいさまのお腹がペコペコになっちゃう前に、早く行かなきゃですの♪
「にいさま〜♪」
にいさまは、駅前の広場にある噴水の側のベンチに座って本を読んでいました。こっちに気づいたみたいで、本に栞を挟んで――半分くらいまで読み終わっていたみたい。ちょっと待たせすぎちゃったかしら?――立ち上がってこっちを見ると、なんだかびっくりしたような、ちょっと怪訝そうなお顔……。
「やぁ、白雪。なんだか今日は、いつもと雰囲気が違うね」
「えっ? 何か変ですの?」
「いや、変というか……ちょっと不思議な感じがしただけだよ。大丈夫、よく似合ってるよ」
「ふふ♪ ありがとうですの、にいさま♪」
やっぱり、にいさまもビックリしたみたい。いつもは頭に大きなリボン、そしてエプロンの付いたお洋服なんですから、それも仕方ないですの。
今日行く公園はとっても大きな公園で、ボートに乗れるくらいのでっかい池があるんですの。そこへは大体歩いて30分くらいかしら?
にいさまの左手にはお弁当の入ったバスケット。にいさまの右手には姫。腕を組むと「お、おい、白雪」なんて、ちょっと恥ずかしがったりするんですけど、姫は全然かまわないんですのよ♪
そうやって二人並んで歩いて、そろそろお腹も空いてきた辺りで、姫、にいさまに聞いてみることにしました。だって、にいさまったらさっきから姫のことチラチラと見てるんですもの♪
「あの、にいさま? 姫を見るんだったら、もっと堂々と見てもいいんですのよ♪ ムフン♪」
「え? あぁ……うーん、ごめん。僕、そんなに白雪の方を見ていたかい?」
「ええ、歩き出してからもう何度も」
「そっか……。いや、あのね、白雪ってこんなに小さかったんだなぁ、って思ってさ」
確かに、姫はクラスのお友達に比べると背は低い方ですけど、でもにいさまとは何度も会ってるわけだし、今更気になるようなことでもないような気がするんですのけど……。
「ほら、いつもは横を見るとリボンが見えるんだけど、今日はそれがないだろ。だからかなぁ……。白雪が小さいってことは分かっているつもりだったんだけどね」
あ……。そうですの、今日はリボンはつけてないんでした。にいさまにも、姫がなんだか別の人に見えちゃっているのかしら……? 今日は、にいさまの横顔がなんだかいつもより遠くに見えました……。
「にいさま、今日のお弁当は、見た目もカラフル中身もカラフルの12色おにぎりに、辛さで暑さを吹き飛ばす鳥の手羽先四川風、それからそれから……」
公園に着いた姫たちは、大きな木の木陰に腰を下ろして早速ランチタイムにすることにしました。一生懸命作った料理を食べさせてあげる姫と、美味しそうに姫のお弁当を食べるにいさま。いつもと同じ光景のはずなのに……それなのに、なんでこんなに遠くに感じるんですの……?
「……ゆき、白雪」
「え? あ、なんですの、にいさま」
「だから、もうお弁当は空だよ、って」
え? と思ってお弁当箱のほうに目をやると、確かにお弁当箱は空っぽ。
にいさまったらいつの間に全部食べちゃったのかしら?
「あ、にいさまごめんなさい。今、デザートを……」
「なあ白雪、どこか体の具合でも悪いのかい? さっきからなんだか上の空みたいだけど」
にいさまは気付いているみたい、姫がにいさまのことをちょっと遠くに感じているのが。やっぱり、リボンがないと、姫ダメなんですの。なんだか、ちょっぴり自分に自身が持てなくて、心にぽっかり隙間が開いてしまったよう。にいさまは、リボンをつけた姫と、リボンをはずした姫のどっちが好きなの?
「ねえ、にいさま! にいさまは、リボンをつけた姫とリボンをはずした姫、どっちが……」
「ミャア!」
姫がにいさまにどっちの姫が好きなのか聞こうとした時、突然1匹の真っ白いネコが飛び出してきたんですの! まだ、とっても小さくて、フワフワしていて、もうすっごく可愛いんですの♪ 迷子さんかしら?
そんなことを考えていると、にいさまの笑い声が聞こえてきたんですの。
「にいさま、突然どうしたですの?」
「いや、ちょっと昔を思い出しちゃってさ。白雪がネコになっちゃった時のこと♪」
え? にいさまも覚えていてくれたんですの?
あの時も確かに、こんなちっちゃいネコが現れて、まだその時小さかった姫はスッゴク興奮しちゃってずーっとネコさんの真似をしていたんですの。姫がリボンをつけるようになったのも、その出来事がきっかけでした。
「なあ白雪、あの頃はさ、白雪はまだリボンなんてしてなかっただろ。それでも白雪が大切なことには変わりなかった。それは今でも一緒さ。リボンをしてたってしてなくたって、白雪は白雪だろ? まあ、白雪を悩ませるような原因を作ったのは僕なんだけどね♪」
にいさま……。にいさまは子供っぽい笑みを浮かべてそう言いました。姫もなんだかあの頃に戻ったような気がして、嬉しくって、にいさまに抱きついちゃいました♪
「にいさまー!」
にいさまは姫を優しく受け止めてくれて、ずーっと頭を撫でてくれました。だって、姫は顔を上げることが出来なかったんですのから。そう、涙の乾いた後が出来るまでは……。
辺りはすっかり黄昏時で、あのネコちゃんもどこかに行っちゃったみたい。きっとあのネコちゃんは姫を元気付けるために来てくれたのね♪
帰りも二人並んで歩きました♪ にいさまの左手にはすっかり軽くなったバスケット。にいさまの右手には姫。やっぱり今度も恥ずかしがったにいさまだけど、こんなににいさまの近くにいられる機会なんて滅多に無いんですのから、覚悟してもらわなきゃダメなんですの♪
近くのお家から夕食を準備する音や匂いが漂ってきて、今日の夕食はどうしましょう? なんて考え始めたら、
「白雪、ちょっと待っててくれないか」
そう言ってにいさまは、街路樹の陰まで行ってなにやら始めたんですの。一体何かしら? とは思ったんですけど、にいさまが待っててって言ったんですもの、にいさまを信じて待つことにしました。きちんと待たないと、鶴に逃げられるかもしれないですし♪
そうこうしているうちににいさまが帰ってきました。後ろ手に何か持っているようですの。
「白雪、じっとしててね」
そう言うとにいさまは姫の頭に手をかけて……あ! それは!
「はい、できた♪」
にいさまの後ろ手にあった物。にいさまが姫の頭に結んでくれたもの。それはあの時と同じ、ハンカチでできたリボンでした♪ でも、にいさまどうして?
「これはお守りみたいなものかな。白雪がいつも笑顔でいてくれますように、って」
「にいさま♪ でも、さっきはリボンは関係ないって……」
「うーん、まあそうなんだけど……そう、リボンは象徴みたいなものさ」
そう言って、姫の頭に手を載せたにいさま。この手の温もりがにいさまと姫の絆。
にいさま、姫、これからもリボンをつけ続けると思います。子供っぽく思われたって、これは譲れないんですの。だって、その方がにいさまを強く感じていられる気がするんですの♪
姫とにいさまはずーっと一緒で、常につながっているんですの。だからにいさま、姫のこと、これからもずーっと見ていて下さいですの♪