【あなたしか見えない】
ここ最近は、ずーっとメカ鈴凛にかかりっきりだったの。本当はアニキの為にどんな猛暑の中でも凍えそうになるほど強力なハイパークーラー2号でも作ろうかと思ってたんだけど、メカ鈴凛の進み具合が芳しくなかったから残念ながら中止。……まあ、それを聞いたアニキは少し安心してたみたいなんだけど。失礼しちゃうわね、出力の調整くらいもう間違えたりしないんだから……多分。エヘヘッ……♪
そんなわけで、今日もメカ鈴凛の起動実験をしてみたんだけど、ものの数分で顔を真っ赤にして倒れちゃったの!
あちゃー、ここの回路が焼き切れちゃてるわ。ただでさえ恥ずかしがりやで、アニキに触れられちゃったりするとすぐオーバーヒートしちゃうのに、ここに来てまた熱問題かぁ。今年の夏は特に暑いから、こりゃ今のうちになんとかしなくちゃいけないんだけど……。まさか液体窒素でも使うわけにはいかないし、もう少し効率のいい冷却法と放熱法を考えるしかないかぁ。そのためにはやっぱり……。
「鈴凛ー、いるかーい」
あら♪ 噂をすればなんとやら♪ 神様仏様アニキ様♪
はーい、アニキ♪ わざわざ可愛い妹の為に陣中見舞なんて、いやぁ、世の中のアニキの鑑だねぇ。
あ、そうなのよ、またメカ鈴凛が故障しちゃって。やっぱりいままでのメカ達とは違って、精密な部分も多いしフレキシブルに設定してる部分も多いから、その分手がかかっちゃうのよね、どうしても。残念ながら照れ屋なところはまだ治ってないから触っちゃダメよ、アニキ♪ あ、でも大丈夫よ。ちゃんと治してアニキのお世話をばっちりさせちゃうんだから♪ そのためには、もっともっといろんな機能が必要で……
「メカ鈴凛が完成すると、鈴凛いなくなっちゃうんだよなぁ」
え?
うん、そうよ。私が留学する為に、アニキのお世話をさせる為に、――そして、アニキに私を忘れて欲しくないから、だから――メカ鈴凛を作ってるのよ。
……さ、そろそろ作業を再開しなくっちゃ。メカ鈴凛を早く完成させないとね。
作業を再開したのは、なんだかアニキの顔を見るのが気まずくなったから。
メカ鈴凛が完成したらアニキと離れ離れになってしまう、そんなことは留学を考えたときからわかっていたことじゃない。
でも、ふと思ってしまった。
私は本当にメカ鈴凛を完成させたいの? 私がメカ鈴凛に付け加え様としてる機能は本当に必要なの? 完成を先延ばしにしてるだけじゃないの? 本当に、アニキと離れ離れになってもいいの?
そんなことは十分分かっていた、分かっていたけど……このことを考えるたびに胸が痛くなるの。
留学は私の夢、アニキの夢、みんなの夢。アニキとの小さい頃の約束を果たすため、もっともっとアニキの役に立つマシンを作るため。そのためにはどうしても留学が必要なの。
はぁ……何度考えても、はっきりした答えは出ない、か。ううん、答えは本当は出ているの。私が、強くならなくちゃいけない、って……。
☆
あ、あれ? ここは? あ、アニキ! と、メカ鈴凛!
いつの間に完成させたのかなぁ? それにアニキだって、なんだか大人っぽくなってるじゃない!!
「そういう鈴凛だって、結構雰囲気変わったぞ」
え? あ、そうか、私ったら留学から帰って来たんだった。
こんな晴れた日は外でランチタイム♪ こうやってアニキと会うのも久しぶりだもんねぇ。それにしても、メカ鈴凛に料理機能を付けておいてよかったわぁ♪ 何せ、私じゃサンドイッチが限界だからねぇ……、あはは。それでも少しは向こうで上達したのよ。今度アニキに振舞ってあげるわね♪
それにしても、アンタは変わらないわねぇ、メカ鈴凛。まあ、メカなんだから当たり前なんだけど。
「ホント、メカ鈴凛はあの頃の鈴凛そのまんまなんだよなぁ」
ウフフ♪ 確かにちょっと変な気分かも。私ってこんな顔してたっけ? それでも、きちんとアニキのお世話をしてくれて、アニキのこと守ってくれたみたいだし……それにアニキに私のことを忘れて欲しくない、っていうのも叶えられた、かな。アニキには、私だけのことを考えていてほしかったから……。でも私がアニキのことを忘れないように、っていうのは考えなかったのよね。だって、いくら忙しい時だって、私がアニキのことを考えないなんてことがあるとは思わないじゃない?
やっぱりそうだった……♪ 色んなマシンをいじってる間も、講義を聞いている間も、こうしたらアニキの役に立つものが出きるんじゃないか、なんとかこの成果をアニキに見せてあげられないか、そんなことばかり考えていたんだもの♪ それで、メールのやりとりなんかも結構な量だったんじゃないかな?
そう、結局私は私でメカ鈴凛はメカ鈴凛。別に私は私を作りたかったんじゃない、アニキの役に立つものが作りたかったんだ。会えないときは、そりゃ寂しかったわよ。だけど、だけど……
ん? どうしたのメカ鈴凛。そんな楽しそうに笑って。……ウフフ♪ ごめんなさいメカ鈴凛、そして、ありがとう……。
☆
「……とう、メカ鈴凛……」
……? メカ鈴凛……? 夢? そうか、いつの間にか寝ちゃってたか、私。やっぱり、最近の無理がたたったかしら? でも、メカ鈴凛とアニキのためだもん。ね、メカ鈴凛。……笑ってる? あれ? 電源入れてないよね……。あれ、夢、じゃなかったのかな。
メカ鈴凛の嬉しそうな笑顔を見ているときに、ふと目に入ったの。机の上に何かが置いてあるのが。
『無理するなよ、鈴凛』
それは、見慣れたちょっと癖のあるアニキの字。ありがとう、アニキ。でもね、女の子に対するプレゼントが栄養ドリンクっていうのは、ちょっと違うと思うんだ。
……もう、私のこと分かりすぎなのよ、アニキは。
アニキと離れ離れになって、今まではそれでもうまくやってこれてんだもの。留学したって、うまくやっていける。私達兄妹の絆は、きっと織姫と彦星も羨むくらいだわ。だから、その時までにうーんと甘えておかなくっちゃ、ね♪
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