【コーヒー メイク】

 

「……ふわぁぁぁ……」

 ……あっと、いけないいけない。ハンダごて持ってるときによそ見なんかしたら火傷しちゃうもんね。うーん、さすがに24時間以上起きてると盛大なあくびも出ちゃうものよね。……こればっかりは、とてもアニキには見せられないなぁ……あは、あはははっ♪

 とりあえず作業は中断してコーヒーでも淹れることにしました。濃ーいコーヒーをブラックで飲む! 眠気覚ましにはヤッパリこれよね♪ まあ、本当は眠い時には眠るのが一番なんだけど、今作ってるマシーンがもうちょっとで完成するところだから、このまま一気に作っちゃいたいところなのよね……。
 えーっと、コーヒー……コーヒー……っと。あれ? 空っぽ……。あっちゃー、きらしてたか……。とは言っても……他のコーヒーはちょっと飲む気にはならないのよね……。このコーヒーは、アニキがいっつも持ってきてくれるものだから……。このコーヒー以外だとちょっと調子が狂っちゃうんだな、これが。

 私が今作ってるマシーンは、自動コーヒーメーカー! なんていったって、豆を入れるだけで抽出まで自動でやってくれちゃう優れものっ♪ もうこれさえあれば、アニキのコーヒーもばっちりいつでもおいしくいただけちゃう♪ ってわけ。……と言うのも、アニキの家のコーヒーミルを私が壊しちゃったからなんだけど……えへへ♪

 確か、アニキがこのコーヒーを持ってきたのは、珍しく早い初雪が冬の訪れを告げた、そんな冬の日だったっけ。

 その日は徹夜明けで、空が明るくなってきた頃に少しうとうとしてたのよね。そんな時、ラボに人の気配を感じて、そっと頭を上げると「あ、悪い。起こしちゃった?」って、ちょっとすまなそうな顔でアニキが立っていたの♪ 私は、ハッと気づいて慌てて身なりを整えたりして、えへへへ……♪ なんてちょっと苦笑い。
 あ、でもアニキどうしたの? こんな時間に。……どうやら、私がまた徹夜してるだろうって思って、心配になって見に来てくれたみたい。あは♪ さっすが私のアニキ♪ あ、うん。大丈夫だよ。って、そう言った後に――気が緩んじゃったからかな?――思わず大あくび! あっちゃー、またやっちゃった……。
 アニキったらそれはもう大笑いでさ、「久しぶりに見たなぁ、鈴凛の大あくび」って。も、もう! アニキったら知らない!
 しばらく笑った後、「ごめんごめん。お詫びにコレ。あんまり無理するなよ?」ってコーヒーの入った袋を私の目の前に、ポンって置いたの。袋を開けると、挽きたてのコーヒー豆のいい匂い♪ そこらへんのインスタントとは大違いよね♪ あ、でもでもアニキ。無理するなよ、って言ったわりになんでコーヒーなわけ?

「どうせ鈴凛のことだから、無理するなって言ったところで、眠気覚ましのコーヒーなんだろ? だったらさ、美味い方がいいだろ?」

 ……やっぱりアニキにはかなわないや……♪ それからアニキは、コーヒーがなくなりそうになると、いつも袋片手に私のところへ届けてくれるようになったの。
 アニキの優しさが詰まったコーヒー。私もさ、できるだけ無理はしないように心がけるけど、それでも必要な時にはアニキのことを思いながら、大事に飲ませてもらってます……ね、アニキ……。

 ……あ、れ? 今、人の気配がしたような……。どうやら私ったら、いつの間にかキッチンで寝ちゃってたみたい……。結局コーヒーを淹れられなかったから、そのまま寝ちゃったのか……失敗失敗。……あれ? この袋は……。
 眠る前には何も無かったはずの私の目の前に置いてあるのは……間違いなく、アニキのコーヒー! 私は急いでラボの外に駆け出して、辺りを見回して……いた! よかったー、さっきの気配はやっぱりアニキだったんだ!

 もう、アニキったら黙って行っちゃうことないじゃない? ……えーっと、アニキ……。あのさ……もうすぐ私の自信作! の自動コーヒーメーカーが完成するところなの! だからさ、それで、二人一緒にモーニングコーヒーでもいかが? ……なんちゃって、えへへっ♪

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