……ーん……あ、アニキ……おはよう……。
……ん?
……って、これ写真じゃないの……。もう、私ったらバカねぇ♪ エヘヘ♪
さぁてと、そろそろ充電も……あーーーーっ!!
「メカ鈴凛が消えた!?」
「そ、そうなのよアニキ! どうしよう!!」
ブラインドの隙間から差す西日が眩しくて、その暖かさで目が覚めるとメカ鈴凛がいるはずの場所には、誰もいなかったの。
メカ鈴凛の新しいバッテリーの試運転ために色々徹夜で調整して、後は充電するだけ! ってそのまま眠っちゃったみたい。
電源系の最終チェックが甘かったんだわ、きっと……。それできっと勝手に起動しちゃって……。
あの子はまだ外の世界のことをほとんど知らないのよ! この近所の情報は念のためって入れてあるけど実物を見たことがあるわけじゃないし、私とアニキ以外の人には触らせたこともないのよ! もし誰かに触られたらどうなっちゃうか、まだ全然予想もつかないのに!!
メカ鈴凛が一人でどこかに行っちゃうなんて……と、とにかく探しに行かないと!
「鈴凛! 落ちついて!」
え、あ……うん。でも、早く見つけてあげないとあの子が……!
「どこか、心当たりはないのかい?」
「えっ?」
心当たり……。メカ鈴凛が行きそうな場所……?
メカ鈴凛が知ってる場所なんて、このラボくらいだし……他には、うーん……ダメ、思いつかない……。……ううん、よく考えるのよ鈴凛。私はあの子のマスター、あの子の親。あの子を見つけられるのは私だけなんだから。
でも、この敷地内を出ていくとはやっぱり考えにくいのよねぇ。他に見たことのある場所でもあるなら別なんだけど……。
……? メカ鈴凛が見られた場所? この部屋の中でメカ鈴凛が見られた場所……。
! もしかして!
「あ、これ懐かしいな、鈴凛。この写真……」
「それよ! アニキ!」
そう、きっとそうよ! あの場所は、メカ鈴凛にもインプットしてある場所だもん。あの場所に行ったに違いないわ!
アニキと小さい頃登った小高い丘。今登ったら、やっぱりそんなに高くなかった。
空を飛びたくて、空に憧れて。いつかアニキと一緒にあの空を飛ぶんだって、小さい頃に約束した夢の卵。
「だったら、もっと空の近くに行こう!」そう言って、アニキは私の手を引っ張ってこの丘までやってきた。
あの頃はぐーんと空に近づけたような気がして、見渡す景色の広さにワクワクして、もっと高いところから見たらもっとすごいんだろうなぁ♪ ってドキドキして……。
そして記念に撮ったのがあの写真。
アルバムをしまってある棚を整理してたら、偶然ふわっと一枚だけ落ちてきて。なんだか懐かしくなってきちゃったから、フレームにいれてラボに飾っておいたの♪
それにしてもアニキったら、カメラなんて持ち出したりしてよかったのかしら? うふふふっ♪
メカ鈴凛は、そこにいた。私と同じ場所に立っていた。
夕焼けは緑の瞳を赤く染めて、そう、まるで私の瞳と同じ色だった。
「もう、メカ鈴凛のバカ!! すっごい、すっごい心配したんだから! ほら、もう、バッテリーも切れちゃってるじゃないの……」
私はいてもたってもいられなくって、メカ鈴凛をギュッと抱きしめた。
まったく……あんまり親に心配かけるものじゃないわよ、なんてちょっぴり変な気分。メカ鈴凛がここまで一人で来れたのは素直に嬉しかったから……♪
でも、メカ鈴凛はどうしてこんな場所に来ようとしたのかしら?
メカ鈴凛は私と同じ場所に立って、いったい何を見ようとしていたのかしら?
ねぇ、メカ鈴凛……空の向こう側に何が見えた? 私と同じモノ? それとも違うモノ?
「さぁ、帰りましょう、メカ鈴凛」
こんな時のために、って思ってつけたサブのバッテリーが、こんなに早く役に立つ時が来るとはねぇ。
スイッチを入れるとメカ鈴凛の目に光がともって、そして、アニキの顔を見た途端顔が真っ赤に……って、えーっ!! こんなところでオーバーヒートなの!?
「うわっ!」
メカ鈴凛ったら、そのままアニキごと倒れこんじゃった……あちゃー、まだ恥ずかしがり屋の部分はそのまんま、か。
仕方ない、アニキ、メカ鈴凛をなんとかラボまで運んでいってもらいたいんだけど……って、何やってるの、アニキ?
「……重い」
……まあ、そりゃあ“メカ”鈴凛っていうくらいだもん、重いに決まってるのよね……。はぁ、これは苦労しそう……。
「……しっかし、こんなところまで鈴凛そっくりにできてるんだなぁ」
「なっ! ちょっとアニキ! 私はそんなに重くないわよ!!」
もう、アニキったら知らないんだから! ……ウフフフフフ♪
「……アハハハハ♪」
「ウフフフフフ♪」
「…………」
メカ鈴凛、今度はその恥ずかしがり屋を治して、アニキと私と三人でまたこの場所に来ようね♪ 約束♪