【魔法の修理屋さん】

「う、うーん……まぶしい……」

 ……あれ? 私ったらいつの間に寝ちゃってたのかしら?
 確か、メカ鈴凛用の新しいモジュールを色々試作していたような……。
 目の前にあるのは、やっぱり試作の残骸。……えへへっ♪ 失敗ばっかりだったのよね、今回は。
 それにしても、なんだか変な感じ。この違和感は……何かしら?
 大体、いつもは外が明るくなる前に目が覚めるのよね。ボーン、ボーンっていう時計の音で……。

「……あっ!」

 時計! そのことに気づいた私は、急いで時計のかかってる壁に目を向けると案の定! 時計は針も振り子も止まってたの。
 とりあえず、振り子時計を壁から下ろしてぜんまいを巻いてはみたものの、うんともすんとも言わなくって。うーん、これは本格的に困ったかも……。

 この時計は、ジジがふらっと出かけた先の時計屋さんで一目惚れして買ってきた、って言ってたものなんだけど、一目惚れしたのは本当にこの時計なのかな? だって、ジジったらよくその時計屋さんの女主人のことを話していたんだもの。うふふ♪
 とにかく、この時計は古すぎて私の手には負えない代物なのよね……。ジジは器用に直してたのになぁ……。

 こんな時頼りにしてるのは、商店街のはずれに建っている魔法の修理屋さん。本当はそんな名前じゃないんだけど、古い時計から新しいおもちゃまでどんなものでも直してしまうから、小さい頃から私が勝手にそう呼んでるだけなんだけど……えへへ♪
 修理屋のおじさんは、ジジとは相当に長い付き合いだったみたい。

「おじさーん、こんにちは!」

 そう大声で呼びかけると、店の奥からヨレヨレになった白衣を着た、相変わらずの格好のおじさんが出てきたの。頭もすっかり真っ白だから、なんだか白熊みたい♪

「おー、リンちゃんかい。今日は何の用だい」
「あの、この時計なんだけど……」

 そう言って、ジジの振り子時計をカウンターに上げると、「ほうほう、あの時計かい」って言って、これなら30分くらいで動くようになるよ、って時計を持って作業場の方へ引き返していったの。
 あ……そうだ♪

「ねえ、おじさん! 私に、その時計を修理しているところ見せてくれない!」

 そうよ、私にだって修理できるはず。……ううん、絶対に修理できるようにしてみせる! いずれはジジを越えなきゃ……いけないから……。私の夢のためには……越えなきゃいけないから……。

 おじさんは、そんな私の頼みを快く引き受けてくれました。
 修理に取り掛かったおじさんの眼は、さっきまでとは違って鋭い目つき。それは、仕事をしているときのジジと同じ眼……。ちょっと、近づき難かった、あの雰囲気……。
 時計の裏を開けて、小さな歯車から一つ一つ丁寧にはずしていく……。その時計の複雑さに、私もおじさんの手の動きから眼が離せなくなって……。
 そうやって、時間も忘れるほどに見入っていると……入り口の方から「こんにちはー」という人の声が。どうやら、お客さんが来たみたい。
 そのお客さんの声におじさんは、「じゃあ、ちょっと休憩だな」って私に声をかけて、私はその言葉で急に現実に戻されたの。なんだか、ちょっと目が痛いかも。ドライアイってやつかも?

 お客さんの対応に向かったおじさんについて、私も作業場を後にしてお客さんのところへ行くことにしたの。だって、今のお客さんの声、どこかで聞いたことがあるような気がしたから……。なんて思ってたら……。

「おじさん、修理終わってる? ……って、あれ? 鈴凛じゃないか」

 ……ア、アニキ!? そりゃ、どこかで聞いた声に決まってるわよね。だって、アニキなんだもん。さっきは集中してたから、よく聞こえなかったのよね。

「鈴凛も何か修理を頼んだのかい?」
「うん、……ジジの振り子時計なの」

 ……あ、ウフフ♪ いいこと思いついちゃった♪

「ねえ、アニキ。ジジの振り子時計ってさ、ラボでいつも私たちのこと見守ってくれてて、色んな思い出……一緒に作ってきたよね。私たちにとって……とっても大事なもの……。だ・か・ら、修理代、アニキが出してくれないかなぁ……なんて……。今月、ちょーっとピンチなのよね♪」

 ……あらら、アニキったら呆れ顔になっちゃった。でも、私だって毎回毎回アニキに頼るのはいけないよね、って少しは気にしてるのよ、少しは……てへへっ♪
 でもそんな呆れ顔も一瞬のことで、「しょうがないなぁ」って笑いながら惜しみない援助をしてくれるアニキ♪ アニキ、ほんっとうに、毎度感謝してまーす♪

「ほっほっほっ、相変わらず仲のよいお二人さんだの」

 あ……おじさんに今の見られちゃってたみたい、ね……。
 なんだか、急に恥ずかしくなっちゃって……顔をあげられなくなっちゃった……。

 その後は、アニキの方の修理はもう完成していて時計の修理ももうすぐ終わるから、二人でちょっと待っててくれ、って言われて、アニキとお話しすることにしたの。
 最近隣のクラスに赴任してきた新しい先生が話や、今作っている新作メカの話……それからアニキのこともいっぱい聞いたのよ♪ 最近はラボにこもってることが多いから、アニキと会うのも久しぶりだったのよね♪ アニキももっと訪ねてきてくれても、いいんだけどなぁ……。

「そういえば、アニキは何を修理してもらったの?」

 魔法の修理屋さんからの帰り道、ふと思い立って聞いたみたの。そう、私ったらアニキに会えたのが嬉しくって、肝心のことを聞くの忘れてたのよねぇ。大体、修理ならまず私のところに持ってきてもいいじゃない? ……そりゃ、失敗も、たまにはあるけど……。

「ふふ♪ これさ!」

 ……あー! それって、もしかして!
 満面の笑みを浮かべたアニキの手に握られていたのは、古い光線銃のおもちゃ。私が小さい頃、初めて縁日に行った時に、アニキとお揃いで買ってもらった光線銃。……懐かしいなぁ……。
 買ってもらってからしばらくは、その光線銃で毎日遊んでたっけ♪ 私はキャプテン・リンリン! とか、出たなー、かいじゅう! とか♪ 毎日違う遊びで……子供ってホント想像力豊かよね♪

「でもそれって、なくしちゃったんじゃなかったっけ?」

 そう、毎日遊んでるうちに私の使ってた光線銃がどっかいっちゃって。エンエン泣き止まない私に……アニキは自分の光線銃をくれたの。でもそれもすぐに壊しちゃって、ママに捨てられちゃったのよね、確か。

「ああ、そのはずなんだけど……昨日掃除してたら、僕のうちの押入れの中から出てきたんだよね。不思議なこともあるもんだなぁ……」

 それはきっと、自分のことを直して欲しくって……また遊んで欲しくって……出てきたんじゃないかな? ……なんて、発明家の鈴凛ちゃんらしくなかったかな、えへへ♪
 でも……あの光線銃がここにあって、また音が鳴るんだって思うと……なんだか心がウキウキしてきちゃう♪ だから、アニキの手から光線銃を奪い取って……昔のようにアニキの正面に立ったの♪

「アニキ! バーン♪」

 ……そうか、壊れたものを修理するのって、昔の思い出まで連れてきてくれるものなのね……。
私の発明も……遠い遠い未来でも……二人の大切な思い出になれるように頑張らなくちゃ、ね♪

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