【会えない時が、会いたい時】

 お兄ちゃんに会いたい。
 可憐の大好きなお兄ちゃん。とっても優しくって、格好よくって、世界でただ一人のお兄ちゃん。
 この前お兄ちゃんに会ったのは、もう一週間も前になるから――本当はお兄ちゃんの日にしか会っちゃいけないんだけど、会いたい気持ちは止められないんだもん。仕方ないよね――もう随分会っていない気分です。
 お友達は、一週間くらいどうってことないよ、って言うんだけど、可憐にとってはとっても長く感じられるんだもん。
 だから、いつも鞄に入っているお兄ちゃんからのお手紙や、お部屋に飾ってあるお兄ちゃんのお写真を見ながら、お兄ちゃんのことを思うの。せめて夢の中でもいいから、可憐をお兄ちゃんに会わせてください、って。お兄ちゃんが聞いたら、「可憐はわがままだな」って言われちゃうね、きっと。

 お兄ちゃんが待ち遠しい。
 もうすぐ可憐のお誕生日です。
 お兄ちゃんは毎年、可憐が欲しがっているものをプレゼントしてくれるの♪ お兄ちゃんは、どうして可憐が欲しがっているものが分かるのかな? 一度、お兄ちゃんに、どうして? って聞いたことがあるんだけど、「それは、僕が可憐のお兄ちゃんだからだよ」って言って。その時は、「わぁ、お兄ちゃんすごい♪」って思ったんだけど、よく考えてみると、ちゃんとした説明になっていないような気がするの。
 お兄ちゃんは魔法使い? それなら、可憐の考えてることみんなお見通しだもの。あ、でもそうしたら、いっつもお兄ちゃんのこと考えながら眠ってることとかもお見通しなのかな? 可憐、恥ずかしいです……♪
 もしかしたら、可憐、知らないうちに仕草とかに出ちゃってるのかな? お兄ちゃんと手をつなぎたいと思ったら、お兄ちゃんが手を握ってくれるし、パフェを食べたいなと思ったら、パーラーに連れていってくれるし。もしそうだとしたら、可憐、ちょっとはしたない子だよね……。お兄ちゃんに嫌われないように、気を付けなくちゃ。

「ねえ、クマさんはどう思う?」

 前の誕生日に、お兄ちゃんから貰ったクマの縫いぐるみに話し掛けながら、今日はもう眠ることにします。

 

 お兄ちゃんがやって来る♪
 今日は可憐の誕生日♪ お兄ちゃんをおもてなしする準備はもう万端だから、あとはお兄ちゃんが来るのを待つだけ♪ お兄ちゃん、まだかなぁ……。

「にゃ〜ん……」

 バニラったら、あくびなんてしちゃって♪ うふふ♪
 でも、今日はバニラに悪いことしちゃったかな? 可憐、今日はとっても朝早くに目が覚めて、折角だから今日の準備の確認でもしようかな、と思ってリビングまで降りていったんだけど、その音でバニラを起こしちゃったの。
 でもそのせいか、いつもはいたずら好きのバニラも、なんだか眠そうでおとなしくしてました♪ あ、でも寝たらだめですからね。一緒にお兄ちゃんをお迎えしなきゃいけないんだから♪

「ほらおいで、バニラ」
「ふにゃ〜ん」

 ほら、だめよバニラ。
 もう、今にもまぶたがくっついちゃいそうで、一生懸命揺らしてみたり、声をかけてみたりしたんだけど、もう限界みたいで……。
 そう思っていたら、突然暴れだして可憐の腕を飛び出して走り出したの! 可憐、ビックリして、一瞬バニラがどこにいっちゃったのかわからなくなっちゃって。
 やっと落ち着いてバニラを見つけたときは、ちょうど開いていたお庭に面している窓から飛び出していくところだったの。
 そんなに可憐の腕の中が嫌だったのかな……。そうだよね、今日は無理矢理起こしちゃったし……。ごめんなさい、バニラ。
 とにかく今はバニラのことを追いかけなくっちゃ!

 急いでお靴を履いて玄関のドアを開けると……

「やぁ」
「あ! お兄ちゃん!」

 そう、もうお兄ちゃんは可憐の家の目の前まで来ていたの! お兄ちゃんが来てくれたのはとっても嬉しいんだけど、でも今はバニラを追いかけなくっちゃ!
 そう、思っていたのだけれど、

「にゃ〜ん」
「あ、バニラ!」

 バニラったら、いつの間にかお兄ちゃんの肩の上に乗ってすました顔してたの。もう、可憐はとっても心配したんですからね!
 どうやらバニラは、お兄ちゃんが来たのが真っ先に分かったみたいで、お外に飛び出したみたい。朝、バニラを起こしちゃった仕返し、なのかな?
 でも、バニラばっかりお兄ちゃんの側にいてずるい、って思ったから、可憐もお兄ちゃんの胸の中に飛び込んじゃいました♪

「お兄ちゃん、いらっしゃい♪」

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