【伝言ゲーム】

「兄ちゃん! 兄ちゃん! お姫ちんの弱点を発見してきたよ!」
 亜美は兄ちゃんにそう声を掛けた。
 ちなみに「お姫ちん」っていうのは、ライバルプロダクションの961プロに所属する四条貴音のことで、亜美は友達宣言をしている。お姫ちんもまんざらではなさそうだと思ってるんだけど、どうなのかな?
「ほう、それはなかなか有益そうだな。で、その弱点って?」
「ふっふっふっ、それはね」
 亜美の釣り針に早速食いついてきた兄ちゃんを、じらしながら釣り上げる。
「背中にある穴に剣を挿すと、どっかーん! って飛び出すんだよ!」
「飛び出すって……何が?」
 え? 何がって言われても……亜美、そこまで聞いてこなかったなあ。
「えっと……多分、アレじゃないかな。アレ」
「だから、アレってなんだ」
「首」
「こんな寒い時期にスプラッタは無いな!」
 明るい笑顔で真っ向否定する兄ちゃん。
 そりゃあ、街中ではクリスマスソングが流れ始めてるけど、スプロ……スプリ……スプーなんてひどい! 意味はよくわかんないけど。
「だいたいそれ、黒ひげファイト一発的なやつだろ? どこの世界に背中に穴の開いた人間がいるんだよ」
「そっかー……。どうりで亜美もどっかで聞いたことがあると思ったんだよー」
 そんな風にがっかりしていると、
「じゃーん! 兄ちゃんに重大じょーほー! なんと、お姫ちんの弱点はっけーん!」
 真美があらわれた。
「真美か。遅かったな、既に弱点は亜美から聞いたぞ」
「ちっちっちっ。これだから素人はいけませんなあ。亜美の情報は偽者。真美のが本物だー!」
「おー!」
 さすがはお姫ちん。亜美達に弱点を知られないように、偽の情報をばらまいてたってことだね。
 くーっ! ますますかっこいい!
「で、真美の情報は?」
「えっと……肩の後ろの二匹のブタの真ん中にあるクチバシの上のロココ調の右」
「呼んだ?」
「呼んでないよ」
 何故かいおりんがやって来たけど、呼んでないと知るとぶつくさ言いながら戻っていった。
 一方。
「?」
 何言ってるんだ、こいつは。
 と、兄ちゃんが目で語っているのがはっきりと分かった。正直、亜美も真美と双子であることが恥ずかしいよ。
「あれ? 真美、早口すぎたかな? じゃあ、もう一回言うね。肩の後ろの二匹のカッパの真ん中の上の下のチルチルミチルのチュパカブラの頭のロココ調の右」
「呼んだ?」
「呼んでないよ」
 真美……さっきと違いすぎ。
「なあ、真美」
 真剣な表情の兄ちゃんがついにその重い口を開いた。
「お前、ロココ調って言いたいだけだろ!」
「呼んだ?」
「呼んでないよ」
「ちっ、ばれちゃーしかたがない」
「そもそも、それだって魔法陣的なやつだろ、まったく」
 真美は舌打ちしながら捨て台詞をはいた。
 これは、二人だけの合図だ。
「兄ちゃん。忘れちゃいないかな? 亜美と真美は二人で一つ。つまり! 亜美と真美の情報を組み合わせると本物の情報になるのだ!」
「なんと! ならないだろ、どう考えても」
 驚いたふりだけ見せる兄ちゃんに、目にもの見せてやる! 耳かっぽじってよーく聞きやがれー!
「お姫ちんの弱点は! 背中に開いた大穴から飛び出しているチュパカブラ!」
「――のロココ調の右!」
「呼んだ?」
「呼んでないよ」
 亜美達の話を聞いた途端、兄ちゃんは大笑いを始めた。
「ぶわはははっ! ひー! 腹痛い! ……お前、貴音の背中にチュパカブラは生えてないだろ! それに、ココロ調好きだな!」
「呼ん……! でないわよね」
 顔を真っ赤にして戻っていくいおりんを、にやにや見つめる兄ちゃん。兄ちゃん、いつの間にあんなにいおりんの扱いが上手くなったんだろう。
「ちぇっ! 兄ちゃん、つまんなーいでロココ調」
「そうだよ。もうちょっと真美たちの相手してくれてもいいのにロココ調」
「そう言うなって。結構遊んでやってるだロココ調」
「あんたら! いい加減にしなさいよね!」
 ウサギのぬいぐるみの耳をがしっと掴んでブンブン振りまわしながら、いおりんが怒鳴った。
 わー、お顔が真っ赤だー。さっきと違う意味で。
「ムキーッ!」
「うわー! いおりんが壊れたー!」
「暴力はんたーい! ミステリハンターぃ!」
「言ってる場合か! それより、落ち着け、伊織!」
 兄ちゃんが後ろからいおりんを羽交い締めにして抑えてる間に、亜美達はなんとかいおりんに怒りを静めてもらおうと不思議な踊りを――
「皆様、ご機嫌麗しゅうでロココ調」
「呼んだ!?」
「呼んでいません」
 ……今のって、ちょっと呼んだっぽくない?
 それはそれとして、事務所の扉から聞こえた声に、四人の視線が一つになる。
 あれは!
「お姫! ……ちん?」
 なんか、後ろからグロいのが「こんにちは」してるんだけど……。
「貴音……背中のそれは……」
「チュパカブラでロココ調」
 ……。
 ほ、本当にチュパカブラ出たー!
「あ、あんたは私のこと呼ばなくても、いいのよ?」
「どどど、どうだい、兄ちゃん」
「ままま、真美達の言ったこと、本当だったったっしょ」
「ははは……お前ら、声が震えてるじゃないか」
 うわー! 逃げるー! 逃げろー!
 お姫ちんがエイリアンになっちゃったー!
 うわーん!

「うふふ。こんなにも驚かれるとは、どうやら成功のようですね。エイリアンに寄生された少女、などという役を頂いてどうしようかと思っておりましたが、わざわざじいやに頼んでチュパカブラを作ってもらって正解でした。こういうのをルンルン気分というのでしょうか? ルンルン♪ なんて。そうだ! このチュパカブラ、『ルンルン』という名前にしましょう。我ながら名案ですね♪」


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