【私はアイドル】

「あら、これ、あずさのCDじゃないの」
「え? ……本当ね」

 今日は、親友の友美と一緒にお買い物。
 たまたま入ったCDショップで見つけたのは、私のデビューシングル。
 こうして、自分のCDが売られているのを見ると、なんだか、とても不思議な気分になりました〜。
 発売日は先週だったのですけど、私もついつい近くのCDショップまで行って、自分のCDが売れるかどうか偵察しに行っちゃいました〜♪
 次の日、プロデューサーさんにもそのことをお話したら、「みんな、そんなものですよ」っておっしゃってくださったので、私も少しホッとしました。
 だって、こんなはしたないことをしてるのは私だけじゃないかって、すごく恥ずかしかったんですもの……。
 その……、結局、私のCDを買ってくれた人はいなかったのですけど……。
 仕方ないので、自分で10枚買っちゃいました。

「このジャケット写真のあずさ、まるでアイドルみたいよねー」
「もう、友美ったら。私はもう立派なアイドルよ」
「ふふふ♪ 分かってるって。ちょっとからかっただけ」

 ……ふふ、なんだかこうやって友美と合って話すのも久しぶりかも。短大を卒業するまでは、それこそ毎日のように顔を合わせることもあったものね。
 立派なアイドル、か……。
 自分の中で反芻してみると……少しだけ襟を正してみたりして。そう、もう私はアイドルなのよね。小さいころテレビで見て憧れた、あのアイドルと同じ舞台に立ったのよね……。

「ねえ、友美。友美は私が本当にアイドルになれると思ってた?」
「思ってた」
「本当に?」
「本当に。……もう、私たち何年付き合ってると思うの? そうじゃなきゃ、首に縄引っ掛けてでも引きとめたわよ」

 ……ふふふ♪ そうよね、友美とは中学からずーっと一緒だものね。もちろん、そのことは分かっているけど、改めてこんな風に言われると、なんだか照れちゃうわ……♪

「せっかくだから、買っていくわ、あずさのCD」
「本当? ありがとう、友美♪」

 友美は、私のデビューシングルを手にとってレジへと向かいました。
 結局、発売日には見ることができなかった自分のCDが売れていくところ、友美のお蔭でこうして見ることができました♪
 全国のお店で、こうやって手にとって買ってくれてる人がいるんだ、私の歌が広がっていくんだ、って思うと、なんだかとても嬉しくて、ちょっとだけ泣いちゃいそう。

「おまたせ! さ、行きましょう」

 それからしばらくショッピングを続けていると、ふと、思い出したことがあって……。
 (友美、私のCDを発売日に買った、って言ってなかったかしら……?)
 確か、あの日の夜も友美に電話をして、CDが発売したことを話したのよね。それで、友美にも「買ってね」って言ったら、「もう買っちゃった」って……。
 ……そう、確かに言ったわ。

「ね、ねえ友美?」
「なあに? あずさ」
「友美、確か先週電話で話した時、発売日に私のCDを買ったって言ってたわよね?」
「あら、やっと思い出したの」

 やっぱり……。
 でも、友美ったらどうして同じCDを2枚も買ったりなんかしたのかしら。私はたまに、自分が持っているのも忘れて同じCDを買ってしまうことはあるんだけど……。それも、CDだけじゃなくって小説とか……ひどい時には同じ号の雑誌が手元に2冊あったりして。
 家に帰ってから気づいて、またやっちゃった……、って思うと、がっくりきちゃうのよねえ……。
 それに比べて友美はいつもしっかりしてるから、間違えて買うようなことはないと思うんだけど……。

「ほら、あずさってば、あの時『誰もCD買ってくれなかったわ』って嘆いてたじゃない。だから、ね♪」
「友美……」
「私があずさのCDを買えるなんて、こんなに嬉しいことはないわ。大丈夫よ、あずさ、自信を持ちなさい。あずさは絶対に大きなアイドルになる。この歌、とってもいい歌じゃない。ふふ♪ 今のうちにサインでももらっておこうかしら……って、ちょっと! こんな人ごみの中で泣き出さないでよ、もう」

 だって……だって、嬉しいんだもん。
 嬉しいときは、思いっきり泣いてもいいんだもん。
 やっぱり友美は私の親友。
 これから先、2人の道はどんどん離れていってしまうかもしれない。でも、それでも、私達の友情は絶対に変わらないんだわ。

 だけど、友美と離れてしまうことには、少しだけ不安。
 ……でも、大丈夫よね。これから先、友美のような親友が、またできるかもしれないもの。私のアイドル生活は、まだ始まったばかりなんだから♪


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