【Straw Hat】

 

 ふぅ……今日も暑いなぁ……。
 こう暑くちゃ、ただ歩いてるだけでも疲れてきちゃうよ。たまには太陽の光を浴びないと健康にはなれないけど、逆に紫外線を浴びすぎるのも肌に悪いからね。仕方ない、今日もいつもの公園で一休みして行こうかな?
 ん? こんなところに麦わら帽子? 随分かわいらしい帽子だこと。きっと、近所の子供が遊んでいるうちに忘れていったんだろうな。さて、どうしたものかな……。

「…………やあ、咲耶…………」

 ああ、千影。こんなに暑いっていうのに、黒い服着てるのは相変わらずなんだね。ん? これかい? ああ、さっきそこで見つけたんだけど……。

「…………探していたんだ、それを…………」

 探していた、って千影には随分小さいだろう? この帽子は。あぁ、千影はこの帽子の持ち主を知ってるのか。僕も一緒にその子の所へ持っていってあげる……え、違うの?

「その帽子は…………僕のさ…………」

 えー!! いや、こう言うのはちょっと失礼だけど千影には麦わら帽子はあんまり似合わないかなぁ、なんて。あ、いや、ごめん。……もしかして、小さい時のかい? この帽子。

「フフッ…………。咲耶にもあるだろう? こういうものが…………」

 あぁ……なるほどね。確かにそれなら僕にもあるさ。でもどうしてそんな大事なものがこんなところに? 
ああ、いいんだ無理に言わなくても。……突拍子もない答えが返ってきそうだから。
 ほら、もうなくしたりなんかするなよ、って千影の頭の上に載せてみたんだけど、やっぱり少し小さいね。ふふ♪
 あ! そうだ♪ いいこと思いついた♪ お姉様に麦わら帽子をプレゼントするっていうのはどうだい?

「ああ、いいんじゃないかい…………。お店は、咲耶に任せるさ…………。そういうことに関しては、咲耶になら、安心して僕の体をゆだねることができるからね…………」

 ああ、僕に任せてくれよ。後悔はさせないさ。

 ほら、ここここ。
 ここの帽子屋は、僕なんかには手の届かないブランド物から子供のお小遣いでも買えるようなリーズナブルなものまで幅広く置いてあって、僕もとってもお気に入りなんだ。帽子のデパートって感じで、見てるだけでも楽しいしね。
 あ、丁度時季だし麦わら帽子を前面に押し出してるみたいだね。……あれは?

「やあ…………姉くん…………」

 お姉様! ふふっ♪ こんなところでもお姉様と会ってしまうなんて、やっぱり僕達は赤い糸で結ばれているに違いないんだ♪

「フフッ…………僕のことを忘れているわけではないだろう?」

 そりゃね。
 とにかく丁度よかったよ。丁度、お姉様のために麦わら帽子をプレゼントしようって、千影と話していたんだ。え? お姉様も麦わら帽子を? なんか、本当に運命めいたものを感じちゃうなあ♪

「そうさ…………こうして、今、姉くんと共にいるのも運命…………咲耶と共にあるのも運命…………。いくら抗ってもその力に打ち勝つのは、至難の技だ…………」
「……なんだか、妙に説得力があるような、ないような……」
「フフフッ…………ただ、今この時を大切に過ごしていけばいいという事さ…………。やっと、この手に転がり落ちてきたのだから…………」

 ん? なに? お姉様。……はは、お姉様らしいや。麦わら帽子のお礼に、ランチをおごってくれるなんてさ。ああ、そのお店なら僕も知ってるよ。つい最近できたばっかりなのに、すっごい人気なんだってね。

「流行りのお店を選ぶのは…………いかにも姉くんらしい…………。咲耶とのつながりを感じてしまうよ…………」
「そういう千影だって、強引なところはお姉様に似たんだろ」
「フフフッ…………僕は、そんなに強引だったかい…………?」
「あれだけのことを僕にしておいて、よく言うよ」

 あははは♪ やれやれ、結局僕たちは似たもの同士なのかもしれないね。ああ、別に大したことじゃないよ、お姉様。だから、何にも隠してないって。さ、早くランチに行こう♪

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