【病は気から】
「…………やあ…………咲耶…………」
ん? ああ、千影か。こんなところで偶然……って、おい! 顔が真っ赤じゃないか! 大丈夫か!?
「…………ああ、大したことは…………ない…………。少し…………陽射しを…………浴びすぎただけさ…………。直に…………よくなる…………さ…………」
……まあいいさ、僕もちょうど帰るところだったんだ。ここからだと、千影の家の前を通ることになるな。さあ、行こうか。
「…………すま…………ない…………」
っと、危ない。ふぅ、まったく……倒れるなんて全然大丈夫じゃないじゃないか。……仕方ない、ほら背中を貸してやるよ。本当はお姉様専用なんだけど、今日は特別。でも、重量オーバーの分、追加料金もらうからね。
「…………はぁ、はぁ…………それはそれは…………ありがたいことだね…………」
ふふふ、とんだ拾いものだよ。まったく、僕と会わなかったら本当に危ないところだったぞ。
それにしても、千影のやつ随分軽いな……。意外に華奢なのか……。そういえば、千影の食生活って謎だよなあ……いやいや、いくら何考えてるか分からないからって食べてるものくらい普通だろう。現に、この前も一緒にオープン・カフェで食事したわけだし。別に、小食には見えなかったけど……。
……千影が苦しそうに吐く息が頬にかかる。千影の鼓動が背中を通して伝わってくる。
もう少し急いだ方がよさそうだ。
千影、少し揺れるかもしれないがけど我慢してくれ……。
……確かあの路地を左に曲がると……あ、あったあった。あとはどうやって中に運ぶかだよね。一人だとちょっと大変かな……。千影、家の鍵は……あれ? お姉様! ちょうどよかった、一人で家の中に運ぶのはちょっと大変かな、と思ってところだったんだ。……ああ、千影さ、ちょっと日に当たりすぎて、倒れちゃってね。
結局、千影の家に用事があったらしいお姉様と二人で、千影を棺桶――話には聞いていたけど、千影って本当に棺桶で寝てるんだなぁ……――に寝かせて、タオルを冷やしに行こうとしたら……。
?? お姉様、どうしたの?
……お姉様には敵わないな、ごめん……。うん、昨日から少し風邪気味でね……。今日は早めに帰ってきたんだ。本当は、お姉様には心配掛けたくなかったんだけど……うん、ありがとう、お姉様♪
千影、そこのソファー、貸してもらうよ。
……ふふ、体が弱ってるときは、心も弱ってるって言うけど、本当だよね。……今日は、このままお姉様に甘えてしまおう、かな。なぁ、千影……。
「…………フフッ…………ああ…………」