【迷宮】

「ただいま」

 ……ふぅ。料理か……。
 料理の本を買うということは、それを作ってあげたいと思う人がいる……ということだよね、やっぱり。
 そして……それは……。
 
 そんなことはない……そんなことはない、そう信じたい……。
 だって、お姉様がそんな素振りを見せたことなんてない……はずだし……。
 ……そりゃ、お姉様はもてるに違いないとは思うよ。弟の僕がこう思うのも変な話なのかもしれないけど、お姉様に彼氏の一人くらいいたって何の不思議もないものな……。
 ……だけど、そんなのはいやだ。そこには僕がいたい。お姉様に近づく人は、僕が追い払うんだ!



 でも、僕が追い払われたら?



 僕は、背だってとっくにお姉様を追い越してるし、力だってお姉様を抱きかかえるくらいは――いわゆるお姫様抱っこができるくらいには――ある。
 それなのに、お姉様は、いつまでたっても僕のことを弟としてしか扱ってくれない。
 僕はもう……立派に一人の男性なのに……。

 僕は、小さい頃からずっとお姉様の隣にいた。離れ離れになってからも、お姉様以外には隣に並んで欲しくはなかった。
 だから、これからだって僕の隣はお姉様の指定席だ。
 ……お姉様の隣は、僕の指定席のはずなんだ……。

 くっ……。

 …………。

 ……ふふふ、僕の悪い癖だな……。なんでも悲観的に考えてしまう悪い癖。お姉様とは、明るい未来しかないはずなのに、な……。
 お姉様はどうしてお姉様なんだろう、そうやって何度も考えては結局答えの出ない疑問。
 確かなことは、僕とお姉様が姉弟だっていうこと……。他人じゃない、ということ……。
 今は……その絆を信じるしかないじゃないか。

 ……さあ、もう終わり! いつまでも塞ぎ込んでるのは、僕には似合わないさ。
 お姉様を振り向かせられるような、僕でいなくちゃいけないから。
 お姉様の愛を確かめなくちゃいけないから。
 絶対に振り向かせてみせるから、覚悟しててよね! お姉様!

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