【パーティーが始まらない!】


 今日は亞里亞の家に全員集合なんだ♪ 毎年、端午の節句には、お姉様も呼んでこどもの日パーティーをやることになっていて――さすがにこの日ばかりは、お姉様を独り占め! ってわけには僕もいかなくてさ――姉弟水入らずって感じで過ごすんだけど、「亞里亞様も喜びますから」ってじいやさんが言ってくれたので、今年は亞里亞の家を借りることになったんだ。
 それにしても亞里亞の家って大きいよなぁ……。本当にここって日本なんだろうか、って疑いたくなっちゃうくらいさ。

 僕が亞里亞の家に到着した時には、すでに白雪が厨房を借りてあっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しそうにしてた。何せ、「料理のことなら、いつだって姫に任せてよっ♪」っていつも以上に張り切ってたから、今日も期待できるんじゃないかな? ふふ♪ 白雪の料理は本当においしいから、僕も楽しみだ♪ ……まあ、時折見た目がアレなこともあるんだけど、ね……。

「いらっしゃいませ、咲耶様」
「あ、どうも。今日はありがとうございます」
「あ……咲耶、いらっしゃい♪」

 会場では、じいやさんと亞里亞が出迎えてくれた。それから、可憐や衛、鈴凛が会場の準備をしているのが目に入った……んだけど、鈴凛がいじってるあの機械は大丈夫なのか? そりゃ、鈴凛の腕は僕も信頼してはいるんだけれど……ねぇ。100%大丈夫! って言い切れないのがなんともはや。

 僕も早速混ざって会場の準備をしていると、続々とみんながやってきて手伝ってくれるから、あっという間に準備終わり! 外には鯉のぼりも飾ったし――なんか、10匹くらいいたような……――、鎧兜の人形もばっちり目立つところにセット完了! ……それにしても、お姉様がやってくるのは1時間も先だって言うのに、みんな早く来すぎじゃない?

「…………僕より早くここにいた君に、それを言う資格は無いと思うな…………」
「それは、ほら、仕方ないじゃないか。僕は年長者としてみんなをまとめる立場で……それに、お姉様に一刻でも早く会いたいじゃないか」
「フフ…………咲耶が早く来たところで…………姉くんが早く来るというわけでもないだろうに…………」
「でも、きちんと準備が終わらなかったら大変だし、それに可憐だって『お姉ちゃんに会いたい』って思ったら、いてもたってもいられなくなっちゃうから」

 ナイス、可憐! そう、そうなんだよね。お姉様のことを考えると、もうじっとしてなんかいられないんだよ。それはきっと、ここにいる弟達みんなが思っていることなんだ。だから、お姉様がいないと始まらないよね。

「それでは皆さん、先にお風呂に入られてはいかがでしょうか? もちろん、菖蒲湯をご用意させていただきましたよ♪」

 そうだね、準備ですっかり汗をかいちゃったし、せっかくだからじいやさんのご好意を受けることにしましょうか♪ 小さい頃、この日にはお姉様と二人で菖蒲湯に入ったよなぁ、なんてちょっと懐かしい気持ちになっちゃった。……あーあ、この場にお姉様がいないのが残念。


「うっわー!! 亞里亞のおうちのお風呂、おっきーい!!」
「こ、これは……本当に亞里亞のお家の中なのデスか!? 隅から隅までチェキするのはなんだか大変そうデスね……」

 「働いている人がたくさんいるから、これくらいは必要なんですよ」ってじいやさんは言っていたけれど、絶対に必要以上に大きいと思うな、僕は……。ほんと、圧倒されちゃうよ……。
 菖蒲湯になっているのは、たくさんある湯船の中の一つだったんだけど、それでも下手な銭湯なんかよりもずっと広くって、その証拠に僕達全員が入ったって全然余裕さ。僕たちが3倍いたって平気だよ、きっと。

「ところでさっきから気になっていたんデスけど、ショウブユって何デスか? 誰と誰がショウブするんデスか?」
「あのね、四葉。別に誰とも勝負はしないんだよ。菖蒲湯っていうのはね、…………」
「? 咲耶、どうしたデスか?」
「菖蒲というのは、この草のことですよ。厄除け……つまり体の中から悪い気を追い払うために昔から用いられてきたのです。で、菖蒲は尚武と音が通じるところから、端午の節句は男の子の節句としての意味合いを強めてきた、というわけですよ」

 さっすが春歌! 『道』を極めようとしてるだけのことはあって、ずっとドイツにいた割には、すっごく日本のことに詳しいんだよね。お祖父様が影響してるって言ってたけれど、春歌のお祖父様ってどんな人だったのかな?

「どうやら…………あの子達には関係が無いみたいだけどね、フフフ…………」

「わーい! ほらー、亞里亞ー、早く早くー!」
「雛子、待って…………くすん」

 「こらー! お風呂の中で遊んでると危ないぞー!」 ……まったく、本当に元気だな、あの二人は。確かに元気すぎて厄も寄り付かなさそう。

「ふふ♪ 本当にうらやましくらいに元気ですね♪」
「鞠絵…………湯加減は、どうだい?」
「ええ、丁度いいですよ♪ それに、この独特の透明感のある香りがとても涼やかで、疲れなんて全て吹き飛んでしまいます♪」

 ほっ。鞠絵は大丈夫そうだ。まあ、高原の療養所からここまで一人でやってきたぐらいだから、そんなに心配はしていなかったんだけど。確かにこの香りをかいでいると、疲れなんて全て吹き飛んでしまう気がする。これなら、お姉様には心の底から元気な笑顔を見せてあげられそうだ♪

 さあてと、そろそろお姉様が来る頃かな。おーい、あがるよー。

「はーい!!」
「はーい♪」


 ほら、雛子おいで、頭拭いてあげるから。あん、あんまり動いたら拭きづらいだろ、こらっ。

「……姉やが来たの……」

 え? お姉様が来たの? ……確かにそんな気配もするような……。あっ、こら! 雛子! まだ拭き終わってないだろ!

「わーい! おねえたまー!!」
「姉やのところに、行く……」

 こ、こらっ! ちょっと待っ……なんだい、千影。今急いでるんだ、こんな時に呼び止めなくても!

「…………まあ、咲耶がどうしてもというのなら止めはしないが…………本当にその格好で出ていくつもりかい…………?」

 ……そういえば、まだ着替えの途中だったっけ。まあ、このまま出て行ってお姉様を誘惑するのもいいんだけれど、今はそれどころじゃないってことくらい僕にも分かるから、ここは早く着替えることにするか。それに、じいやさんあたりが止めてくれてるに違いないよね。


 …………ほら。


 さあてと、準備オッケー♪ ふふ♪ お姉様を、菖蒲の香りで酔わせちゃうよ♪ さ、みんな、お姉様を迎えに行きましょうか♪


「いらっしゃい、お姉様♪ 今日は存分に楽しんでいってよ、ね♪」



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