【ステキな貯金箱】
今日の天気も雨模様。まあ、梅雨時だから仕方ないんだけどね。だからそんな日は、ラボで研究に没頭。……いつもと同じって話もあるけど。
「とにかく、早く仕上げちゃわないとね♪」
私が今作っているのは貯金箱。これは私の誕生日にアニキにプレゼントする大事なもの。考えてみれば、自分の誕生日に他の人にプレゼントをあげるなんて妙な話なんだけど、今では大事な二人の儀式。最初は、ちょっとした出来心だったんだよ、ホントウに。
いつの頃からだろう、この貯金箱をアニキにあげるようになったのは。私が言うのもあれなんだけど、アニキってば私にすっごく甘いじゃない? 資金援助を頼めば必ずって言っていいほど援助してくれるんだもん。断られたのなんて2、3回くらいじゃなかったかな? だから、その頃は私もアニキに甘え過ぎちゃってたのよねぇ。今にして思えば、ちょっと迷惑な妹だったかも。
そんな時に考えたのが、この貯金箱。
「ほら、誕生日の直前になって慌てて準備するのって大変じゃない? そこでこの貯金箱の登場! 1日100円ずつ入れていけば、なんと! 1年後には36,500円貯まっているというわけ♪」
これを聞いた時のアニキの顔ったらなかったなぁ♪ 「ありがたく貰っておくよ」なんて言ってたけど、さすがに顔が引きつってたもん。
そして、その翌年の私の誕生日。私はそんな貯金箱をあげたことなんてすっかり忘れてて、アニキにもらって最初に見たときはきれいにラッピングされていて――リボンまでついちゃって――わあ、ありがと、アニキ♪ なんて思ってたんだけど開けてビックリ! 私が去年あげた貯金箱だったの! しかも満杯! もう言葉なんか出なくて。この時の話をアニキがするときは決まって「あの時の鈴凛の顔ったらなかったよなぁ」って言うのよねぇ。もう、アニキったら意地悪なんだから!
とにかく貯金箱とプレゼント――そう! ちゃんと別にプレゼントも用意してあったの!――を受け取った私は、早速新しい貯金箱を作ってアニキにプレゼントした。来年もまたよろしくね♪ って。
そんなことがしばらく続いたんだけど、ある時もうやめようって思ったの。そりゃあ最初は嬉しかった。やっぱり私はアニキに愛されてるんだ♪ って。でも、でもね、なんかこのままアニキに頼りっぱなしじゃいけない気がして……。だから思い切ってアニキに言ったんだ!
「ねえ、アニキ。今年からあの貯金箱はやめようと思うの」
そう言って、ややうつむき加減でアニキの答えを待った。
「そうか、やめちゃうのか……残念だなぁ」
「えっ? 残念って?」
「だって、結構気に入ってたんだよ。あの貯金箱」
「そうなの?」
「そうだよ。もう、毎日100円入れるのが日課になっちゃって、入れないと逆に気持ち悪いくらい。それに……」
「それに?」
「それに、鈴凛とはそうしょっちゅう会えるわけじゃないから、あの貯金箱があると鈴凛が身近に感じられるというか、まあそんな感じかな?」
そう、アニキってばこういう人なのよね♪ もう、やっぱりアニキにはかなわないなぁ。私と……同じ気持ち……。
そうして迎えた私の誕生日。
「ハッピーバースデイ! 鈴凛」
「ありがと、アニキ!」
アニキの手には、ちょっと重そうないつもの包みと私へのバースデイプレゼント。そう、やっぱり私の誕生日には、この貯金箱が必要なの。だから、今年も頑張って作っちゃいました! アニキ、今回はスッゴイわよー♪ なんたって、お金を入れるたび鈴凛ちゃんの愛の言葉が聞けるんだから♪
そう言って、新しい貯金箱をアニキの前に差し出して、毎年恒例の儀式を始めます。儀式って言っても大したことじゃないんだけど、二人で一つの百円玉を持って今日の分を、1年の最初の1枚を二人で入れます。あーん、なんか緊張するー♪ でもこれが私とアニキを結ぶ絆だから……。そして私は、百円玉を入れる瞬間、貯金箱から流れる音声と同じ言葉をアニキに聞こえないくらい小さな声で、でも心を込めて言いました。だって、貯金箱の方はやっぱり照れ隠しになっちゃってるから、ね……。
「ありがと、アニキ♪ 愛してるよ♪」